『真田ファミリーと一緒! 』 前の噺
※フライングで真田ブラザーズ&十勇士のデュアルホーン出演
ここは信濃が上田に建つお城、その名もキャッスル・オブ・ザ上田。
上田城の城主は、皆さんご存知、表裏比興の者こと真田 昌幸である。
本日六人は、その昌幸の招待を受けて上田城に遊びに来ていた。
「うっはー!広いな上田城もッ!」
今まで城は何度も見ているものの、やっぱり広さには感心してしまう。
「こら、引っくり返ろうとするなって。」
畳の上をゴロゴロしようとする木下の後頭部をすかさず押さえ、梅本が毎度お馴染みに注意する。
「にしても本当に綺麗に掃除されてるよね。さっきから埃一つ見当たらない。」
完璧に掃除の行き届いた部屋の様子に、谷中は目を丸くしながら辺りをうろついた。
さて、先程この部屋に案内されて数分。今は昌幸を待っている状態だ。
「………。」
「たった数分も我慢出来んのかいな。煙草しまえやボケ。」
無言で煙管を取り出そうとする小川の手を叩き、痛烈に北が言い捨てる。このニコチン依存症め。
「あ、来たみたいですよ。」
山中が急いで居住まいを正したとき、襖がスッと開いた。
「よう、よく来たなお前達。」
登場したのは、いつものように羽織りを一枚、前を開けたまま着ている格好ではなく、きちんと着物を着た昌幸の姿。
「マッキー、風邪でもひいた?」
「そうくると思ったぜコノヤロー。」
予想通りの問いかけに、苦笑しながら昌幸は答えた。
「今日はお招きありがとうございます。」
「マッキーありがとなー!」
「お茶くれ、お茶!」
唯一まともな挨拶をしているのは山中だけだが、昌幸は特に気にした様子もない。
「何処にいても変わんねェのな、ったくよ……おい、入ってこいよ。」
肩越しに振り返り、昌幸は後ろに呼び掛けた。すると。
「し、失礼、いたします……」
若干引き気味な面持ちで、昌幸の背後から現れたのは、二人の青年。
一人は昌幸と同じ鳶色の髪に細く赤銅の目、暗い紫の着物着ており、もう一人は赤みを帯びた茶髪に丸い深紅の目、山梔子色の着物を着ている。
二人とも、まだ顔立ちは十代の若さを残しており、恐らく六人よりは年下だろう。
「紹介するな。息子の信幸と幸村だ。ほら、挨拶しな。」
興味津々で六人が見つめる中、二人の青年はサッとその場に座り、深々とお辞儀した。
「お初にお目にかかります。真田 昌幸が長男、真田 信幸と申します。」
「同じく次男、真田 幸村と申します。」
有名すぎるほど有名な、その名も真田ブラザーズ。紫の着物が信幸、山梔子色着物が幸村だ。
「あ、こりゃどうもご丁寧に……昌幸さんから話は聞いてると思うけど、俺等が『六武衆』です。ちなみに俺は梅本 佑樹です。」
梅本もペコリと頭を下げ、他の五人もそれに従って自己紹介する。
「……天井裏にいる誰かさんも、出てこいよ。」
小川が上を見上げて呟くと、信幸と幸村の顔が驚きに染まった。同時に、天井からガサリという音。
「ほぉらな、おれの言った通りだろ?隠れても無駄だ、出てきな。」
笑いを堪えて昌幸が命じると、ガコンと天井板が外れて二人の忍が降り立った。
一人は深緑の、ノースリーブ状の上衣を着ており、同色の鉢金を付けており、もう一人は濃紺の忍装束に、口元をマスクで覆っている。
「ち、父上の仰ったことは……本当のことだったのですね。」
幸村は目を丸くして、マジマジと六人を見つめた。
「マッキー、普段あたしらのことなんて言うとんねん。」
あんまりびっくりされるものだから、顔を引き攣らせて、北は昌幸をねめつける。
「とりあえず、ご紹介ねがえるかな?」
少し警戒したような顔の忍に、にっこりと谷中は微笑みかけた。
「あっちの緑が猿飛 佐助、隣のが霧隠 才蔵だ。」
「「昌幸様ッ!!!」」
あっさり彼等の名前を明かした昌幸に、何を考えてんだと叫ぶ忍二人。
「バーカ、潜んでる場所をあっさり見破られた段階で、お前達の負けだっつの。」
しかし昌幸に言い負かされ、言葉に詰まる忍達。
で、こっちはこっちで大騒ぎしていた。
「さっ、真田十勇士イイイィィ!!!!」
「側で叫ばないで下さいよ!!」
大興奮する木下の絶叫をモロに喰らった山中が、耳を押さえて顔をしかめた。
「あー、真田忍隊のデュアルホーンじゃん。」
「一応あたしも名前くらいは聞いたことあるわ。」
谷中と北は好奇心を剥き出しにして、二人の忍を眺めまわす。
「お前等叫ぶな座れ無遠慮に眺めるな!王子!どさくさに紛れてこっそり煙草吸わない!」
そして梅本は片っ端から仲間達を叱ってまわる。
唖然呆然とした顔の息子達と部下に、昌幸はへらっと笑って言った。
「な、面白ェ連中だろ?」
間。
「もうホンットすいませんお騒がせしちゃいましてごめんなさい。」
何か色々申し訳ございません、と毎度毎度謝るのは梅本の役目だ。
「はっはっは!気にすんなって、にしても梅だっけかァ?お前も大変だなぁ!」
昌幸に背中をバシバシ叩かれて、軽く噎せる梅本。
「さぁて、おれは昼寝でもすっかな。信、幸、後よろしく~!」
「え、あ、ちょっとマッキー!?」
軽やかな笑顔で手をヒラリと振り、昌幸はさっさと部屋を出ていってしまった。
「……何なんだ一体。」
招いた本人が昼寝に消え、小川は呆れて溜め息を吐いた。
さて、部屋に残された六人と真田ブラザーズ、及び忍二人。しばしシン、と静まり返るが。
「あの……皆様はどのような神憑きなのでしょうか?」
最初に口を開いたのは幸村だ。余程六人に興味があるのか、目がキラキラしている。
「え?ああ、私は風ですよ。チロさんは闇、殿下さんは雷、マンボウさんは水、梅さんは地、王子さんは炎なんです。」
山中の説明の中に出てくる六人のあだ名に、首を傾げる幸村。
「ちろ……?マンボ…?」
「僕達の呼び名だよ。えーっと、君はやっぱりユッキーかな?」
谷中が捕捉して呼び名を呼んでやると、幸村は目だけではなく顔中を輝かせる。
「俺にも、その呼び名を頂けるのですか?」
「嫌なら嫌って言っていいんだぞ。コイツら、すぐに変な呼び方するからさ。」
苦笑する梅本に、幸村はまるで顎が肩につきそうなほど激しく首を振った。
「そんなことありません!父上から貴殿方のお話をよく伺っていましたので、是非一度お会いしたいと思っていたのです!」
何やら凄く喜色満面である。ホント何をどう話しやがったあの表裏比興野郎。
「あ、ああ……そりゃありがとな。」
ちょっと、いやかなりキョドりつつも、梅本は愛想よく笑ってみせた。
「幸村、あまりがっついてお話をしてはいけないよ。梅本殿がびっくりしておられる。」
次第に興奮していく幸村に、諫めるような言葉をかけたのは信幸だ。
「あ……も、申し訳ありませぬ。」
にじりよっていたことに気が付いて、慌てて幸村は下がった。
「別に、オレ達相手にそんな緊張しなくていいんだぞ。マッキーに何吹き込まれたのか知んないけど、オレ達そんな偉いヤツでもないし。」
しゅんとした幸村の隣から、木下がひょこっと顔を出す。
「で、ですが……」
「ええから普通に喋り。こっちまで緊張してくるわ。余計な気ィ使わんでええし。」
北にピシリと言われ、幸村はしばらくうんうんと悩んでいたが、やがてこっくりと頷いた。
その様子を、くすくすと笑いながら眺める信幸。
「すみません。弟は…幸村は、貴方達に会えるのを本当に楽しみにしていまして。失礼のないようにと張り切っていたのです。」
「……それは悪いことをしたかな。」
思わず小川の口から苦笑いが溢れた。まぁ、そこまで楽しみにしていてくれて悪い気はしない。
「いえ、俺にとってはありがたく思います。今まで幸村の周りには、こうやって気さくに話せる年の近い方々はいませんでしたから。」
優しい目で幸村を見る信幸の顔は、弟想いの良いお兄ちゃんの眼だ。
「……あんたはどうなんだ。」
「え?」
「……あんたにはいたのか。」
素っ気なく尋ねる小川に、信幸は目を瞬かせた。
「俺は……そうですね、言われてみれば、幸村と同じでしょうか。」
「…だったらそんな喋り方しなくていい。年が近いんだ、丁寧さなんかいるか。」
敬語は止めろ、と小川は言い、信幸は戸惑うかのように視線をさ迷わせた。
「じゃあ、信幸はノッキーな!」
「は……?」
いきなり木下に肩をパシッと叩かれる。
「マッキー、ノッキー、ユッキー……ふふ、何だか可愛いですね。」
にこにこと山中は笑うが、可愛いと言われて信幸と幸村は反応に困ってしまう。
「よし、まずは親睦を深める為に……おやつを皆で食べようッ!!そこの忍にーちゃんズ!」
今まで主二人のほのぼのした様子を微笑ましく眺めていた忍達は、いきな木下に指差されてビクッと肩が跳ねる。
「な、何か…?」
躊躇いつつ口を開いて用件を伺うと。
「オレはおやつを所望します!上田で一番美味しいお菓子は何ですか!?」
所うって変わり、ここは昌幸の部屋。
「あ~………よく寝た……」
今までグースカと爆睡していた昌幸は、ようやく目を覚ました。しばらくぽーっと宙を眺めた後、気合いを入れて身体を起こす。
さて、息子と個性豊かなお客との交流はどうなったのやら。
部屋を出て、彼等を探す。
途中、擦れ違った女中に居場所を尋ねれば、彼女達はくすくすと楽しげに笑ってその方向を指差した。何がそんなに面白いのか、と聞いてみても。
「ご自分の目でご覧くださいませ。」
そう言われて一向に答えようとしない。
首を捻りながら、教えられた部屋に近付くと、何やら笑いはしゃぐ声が聞こえてくる。
「なァにやってんだ…?」
こっそりと隙間から覗くと。
「四枚引き!(ドロー4)」
「あ、じゃあ私も出します。」
「ならば俺も。」
「すまないね、小川殿。」
全員が輪になって、何やら札遊びに興じている。
「何でそんなに四枚引き持ってんだ!?」
標的となった小川は、文句をブツブツ言いながら手札の山から札を何枚も手元に入れる。
「若様、後もう少しで「うの」ですね。」
「信幸様も負けてはおらぬ。」
信幸と幸村の背後からは、二人の忍が楽しそうに手札を覗き込んでいる。
「まだまだこれからやで。余裕かましとると、アレ(小川)みたいになるからな。」
「でも、これで王子のビリは決まりだな。」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて、自分の手札を物色中だ。
昌幸は目を丸くしてそれを見ていた。
視線をずらすと、彼等の後ろには空になった人数分の湯飲みと小皿がある。そう、今この場にいる全員分の。すなわち、忍の分まで。
知らず知らず、昌幸は喉を鳴らして笑い出す。
忍とは本来、道具と同じものだ。故に、人と同じ扱いなどしない。
まぁ、自分達真田は忍を道具などとは毛頭思ってはいないが、それでも同じお茶を飲み、同じ場所で手札遊びをするなんてことはなかった。
「早速やらかしやがったなァ……良い兆しじゃねェか。」
何をどうやって忍を引きずり込んだのか、昌幸は大方想像できた。
「……今日は赤飯でも炊くか。」
何でだ。何でそうなる。
昌幸はそうポツリと呟いて、踵を返した。たまには仕事でもしようかと、そう思いながら。
~夜、城主様のお部屋にて~
その日の夜。
昌幸は賑やかなお客が寝静まった後、黙々と仕事をこなしていた。
「父上?起きていらっしゃいますか?」
控え目な呼び声に、昌幸は文机から顔を上げた。
「幸か……いや、信もいるな。入れ。」
昌幸の許可を得て、そっと入ってくる真田兄弟。
「どうした?こわーい夢でも見たか?」
「そんなわけありません。」
「俺だって違います!」
からかうように言う昌幸に、顔をムッとさせて二人は言い返した。
「佐助、才蔵。お前達も降りてこい。いるんだろ。」
昌幸が天井に向かって呼び掛けると、いつものように姿を現す忍達。
「で、何だよ揃いも揃って。」
「もう若様達と我々が何を言いたいのか、わかっておられるような顔ですぞ。」
ニュッと口角を上げた、チェシャ猫のような笑い顔の昌幸に、苦笑と溜め息を才蔵は溢した。
「ハハッ、まぁいいじゃねェか。で、何を言いに来たんだい。」
昌幸が話を催促すると、まず最初に信幸が口を開いた。
「父上。今日はあの方々と合わせて頂いて、本当にありがとうございました。」
昌幸の前で、深々と四人が頭を下げた。それに面食らった昌幸は、驚いて目を見開く。
「どうしたよ、急に殊勝になって。」
珍しく丁寧な態度の息子達は、静かに、だが緩やかに微笑んで口を開いた。
百件登録ありがとう短編は真田ファミリーにしてみました。
でもうpする頃には百七件・・・・・!
なんてありがたいことなんでしょーか。