『浮気移り気鬼気悋気!巻き込まれて大騒動』 前の噺
戦国乱世、妾の三人や四人持つのは当たり前だった。
現代でそんなことすれば、えげつない程の慰謝料をぶんどられるのだが・・・・とにかく昔は全然OKだったのだ。
だが、いつの世にも男と女の痴話喧嘩は存在しており、異世界にだってそれは共通の出来事である。
これは、考研の六人が神器を手に入れて少し経った頃のお話。
「今日も・・・・キツかったな・・・・。」
ふらふらになりながら、這うようにして部屋に入ってきた六人は、バッタリと畳の上に倒れ込んだ。
武術と馬術の訓練がやっと終わり、待ち望んでいたフリータイムがようやく到来したのだ。
「・・・もう身体の・・・何処が痛い、のかわかんねー・・・・・・・・。」
木下の言葉に、全員が頷く。
そりゃそうだろう、神器を早く身体に慣れさせるという課題のもと、何回強かな打撃を喰らったか数えるのも面倒だ。
「私達・・・・・これから生きていけますかね・・・・・?」
疲れがピークに達している山中の顔は、青白いを通り越して白。ぱっと見て、死人の形相だった。そう言ってしまうのも無理はない。
いくら激しい動きに慣れたといえど、実践向きの訓練は基礎訓練よりも格段レベルUPしていた。
それっきり言葉もなく、真っ白に燃え尽きていると。
「大変おじゃ!まろは凄いものを見たぞ!」
ダダダダダッと廊下を走る音がして、ぱーんと襖が手荒く開けられた。息をきらせて登場したのは、お世話役その一にして今川家の主、今川 義元だ。
「んだよ・・・・・このしんどいときに・・・・。」
小川が唸るように言い、若干の殺意を込めて義元を睨み付けるが、彼はそんなことお構いナシで、何故か誰もいないかを確認してから部屋に入ってきた。
「どしたの義元・・・・ついに焼かれそうにでもなった?」
谷中は倒れたまま、顔だけ向け冗談を交えて尋ねたが、義元の顔つきは真剣そのもの。いつもお気楽な彼が、珍しく大真面目な顔をしているのに興味が湧き、六人は動きにくい身体をのっそり起こした。
「す、少し集まるおじゃ。あまり大きな声では言えぬぞよ。」
胡散臭い目で彼等は義元を眺め、渋々額を寄せ合う。
「何や、一体。さっさと言い・・・・・この体勢嫌やねんから。」
北が先を促すと、義元は声を潜めてぼそりと呟いた。
「お・・・織田殿が・・・・見知らぬ女人と歩いておったのじゃ。」
「・・・・・・・あぁ?」
何て事はないじゃないか、と言おうとしたが、義元が更に続ける。
「しかも!その女人に、小間物屋で櫛だの簪だのを手ずから付けてやり、挙げ句の果てには着物まで着せてやっていたのじゃ!」
櫛と簪を付け、着物まで着せてやる。これはどう考えても・・・・・・。
「・・・・・・浮気?愛人?」
梅本の言葉に、全員がゴクリと固唾を飲む。
まさかのまさか、あの魔王様の浮気現場を発見するとは。
「その話、最初から詳しく聞かせてくんない?」
「もちコースおじゃ!」
ガシッと義元の肩を掴んで谷中が言えば、義元はグッと親指を立てて頷いた。
義元の話によると、料理用の酒が切れてしまったので買ってこい、とお春に言われて、城下町まで買いに行っていたときにその光景を見たらしい。
偶然通りかかった小間物屋で、仲睦まじげな男女が二人並んで何やらイチャコラしているのを横目に通り過ぎようとしたところ、覚えのある「気配」を感じて振り返る。
するとそこにいたのが信長で、ちょうどその女性に着物を着せてやっていたのを目撃、大慌てで帰ってきたというのが、大雑把な要約である。
「いや、それはおかしくないか?普通あんな魔王様が城下町にいるとかあり得ないだろ。人違いじゃないのか。」
もっともなことを言う小川に、義元はふるふると首を振った。
「勿論、しっかり変装はしておられた。じゃが、あの「気配」は間違いなく織田殿・・・・神憑きには、神憑きの気配が解るものぞ?かなり抑えておったが。」
信長ほど苛烈な気配は、抑えようとしてもなかなか上手くいかないらしい。一度戦場で出会った義元は、その気配を知っている。解らないはずがないだろう。
「そう言えば・・・・・ここ最近、信長さん、お仕事さぼり気味らしいですよ。すぐに休んでくる、とか言って、暫くどこかに行ってしまうみたいです。」
思い出したように山中がポンと手を打つと、皆一斉に静まりかえる。
そして。
「それって、もう決定的やんか!」
「そうなの!?ってか、えぇ!?」
「あの信兄が!?」
「ま、まろは本当にとんでもないものを見てしまったおじゃ・・・・・!!」
女性陣はびっくり仰天し、義元はガクブルと震えている。
しかし梅本と小川の二人はきょとんとした顔をしたまま、首を捻っていた。
「側室みたいなモンだろ?別に良いんじゃないか?」
「・・・・・・不具合でも、あるのか?」
どこがいけないんだ、と言いたげな二人。
「いや…それがあるんだなこれが。」
深刻そうに木下は言い、うーんと考えるように腕を組んだ。
「安土城に来て、まだ最初の辺りかな。オレ達、お濃ちゃんと一緒に遊んだ事があってさ。」
いつぞや、部屋にやって来た濃姫に、自室でお茶をしないかとのお誘いを受けたときの話だ。
「お前等二人は…何か知らんけどおらんかってな。あたしらだけで行ったんよ。」
お茶を飲み、濃姫の着物や小間物を見せてもらっているときに、ふと山中が呟いた疑問。
「信長様は側室をとらないんですねって、私言ってしまったんです。」
ちょっと不躾な発言だったが、濃姫は気を悪くしたような様子はなかった。
「それどころか、僕達に向かって盛大にのろけちゃったんだよね。」
谷中はその時の様子を思い出したのか、何かを必死で堪えているような顔だ。
「何て言ったんだ?」
小川が問いかけると、女性陣は震える声を揃えて言い放った。
「「「側室などいらぬ、お前だけ傍にいればよいって!!」」」
しばしの沈黙の後、「ぷっ」と息を吹き出す音がして。
「っぎゃははははははははは!!!!!」
「ぐはあああああぁぁ!!!何だその糖分の多いセリフはぁぁ!!!!」
「まろだってそんなこと言ったことないおじゃあああ!!!」
男三人は、大爆笑するもの、恥ずかしさに身悶えするものに分かれて畳を転げ回る。
「いやー、あのときは笑えなかったけど・・・・・ブフッ!」
遅れて女性陣にも笑いの津波が押し寄せてきたのか、爆竹のように笑い出す。そしてそのままヒーヒーと抱腹絶倒すること数分。
というか、元気だな考研。訓練で疲れていたのではないのか。
「・・・・・・な、何の話してたっけ?」
「多分・・・・信長浮気事件・・・・」
ひっくり返ってゼイゼイいってると、やっと話がカムバックしてくる。
そのとき、第二の来訪者がやってきた。
「よーう、お前等!何バカ笑いしてんだ、ん?」
威勢良く襖をぱーんと開けて、今度は利家が登場した。
「トッシー・・・・・今日も暇そうやな。」
「いきなり失礼なこと言うな、お前。」
笑いすぎて虚ろになった目を向け、北が言う。
「何の話してたんだ?めちゃくちゃ聞こえてたぜ。」
興味津々、というような眼差しを向けてくる利家だが、六人はめんどくさくて同じ話をしてやる気にならない。
「ヨッシー、説明頼む。」
「おじゃ?まろのことか?」
「他に誰がいるんだ公家。」
やれやれ、と彼等に比べればまだ元気な義元が、先程の話を利家にしてやる。
すると。
「ぶはははははは!!!何だそれホントに言ったのかよ!?」
やっぱり爆笑され、利家は笑いすぎて涙目になっている。
「それより、どうなんですか?信長さんに、最近おかしなところとかあります?」
山中がそう尋ねれば、涙をごしごしと拭い取りながら利家は考える。
「いたって普通だがなぁ・・・・・あ、でもよく一人でどっかに消えることは多くなったな。」
「消える?」
利家曰く、信長は一人で気分転換にふらっといなくなることがあり、最近それが多いとのこと。
「つーかよ、間違いないんだよな?確かに信長様だったんだよな?」
利家の確認に、義元は絶対に間違いはないと断言した。
「トッシーだけに聞いたんじゃ、まだまだ情報不足だと思うぞ?他の人にも聞いてみるってのはどうだ?」
「梅にしちゃ、なかなかええ案やな。」
梅本の出した提案に一同は賛成し、よっこらせと立ち上がった。
疲れていると言っても、こんな面白そうな話をふられて寝ているわけにはいかない。
こういうときだけ、やたらと元気が満ちてくる六人であった。
部屋を出て、早速手分けして聞き込みを開始した。
壱のチームは、梅本、北、義元。弐のチームは木下、谷中、利家。参のチームは小川、山中である。
三つに分かれて、話を聞きまくる。さりげなく、しかし要点は逃さずに。
「はい、報告始め!」
人気の少ない場所で落ち合うと、口々に結果を言い合う。
梅本達『チーム壱』の報告。
「聞き込みをしてみたけど、あんまり証言はなかったな。」
「でも、どーやら何かを自分の部屋に隠してるみたいやで。」
「その部屋には、誰も入れさせないようで、最近掃除すらさせないみたいじゃの。」
木下達『チーム弐』の報告。
「オレ達は裏庭の辺りを徹底的に見回ってみたぞ!」
「広くてちょっと疲れたけど…良いもの見つけたよ。」
「ツツジのでかい木の裏に、抜け穴?みたいなのがあったぜ。」
小川達『チーム参』の報告。
「……俺達は物証を見つけた。」
「洗濯中の信長さんの着物を見させて頂いたんですけど、こんなものが。」
山中の差し出した手の中には。
「これ……指輪!?」
キラリと光る、ゴールドのリング。真ん中には深紅の宝石が埋め込まれていた。
「信長様…浮気、してるのかよ!?」
信じられない、と利家は目を見開いて、その指輪を凝視する。
「じ、自分の物かもしれんぞよ?」
「アホ、こんなちっこいの、野郎の指に入るわけないやろ。しかしエエ作りやわ・・・・・南蛮製やろか。」
北は指輪をつまみ上げ、ズイッと義元の目の前に突き出した。
しばらく皆黙り込み、困惑した視線を交わし合う。
「……探偵の基本行動その1。聞き込み。」
「探偵の基本行動その2は……尾行だぞっ!」
谷中と木下がいきなり言い出し、にんまりと笑う。
「ここまできたら、真相をはっきりさせないと面白くないですよね。」
山中も俄然乗り気になり、楽しそうな声で言う。
「そ、そのようなことをして、大丈夫かの?」
「下手すりゃえらい目に遇いそうだぞ…。」
あまり乗り気でなさそうな義元と利家に、梅本はわざと真面目そうな顔で説いてやる。
「何言ってんだよ、主の様子をしっかり把握するのも部下の務めだろ。」
「万が一、億が一、浮気やったらアレやけどさ、まだ確定してへんやん。」
北も便乗し、もっともらしいことを言う。
「というわけで、だ。作戦会議といくか。」
小川の一言を合図に、六人はまだ納得していないような顔の利家と義元の腕を掴んで、自分達の部屋に戻っていった。
「こちら土竜!ホシの様子はどうだ?」
声を出来るだけ小さくして、コードネーム『土竜』こと梅本が携帯に呼び掛けた。
「こちら狐…ホシは未だ自室にいる模様。」
「こちら燕です。ホシの部屋周囲には、人っ子一人いません。」
携帯から代わる代わる聞こえるのは『狐』こと小川、『燕』こと山中だ。
現在この二人は信長の自室を見張っている。
ちなみに北は『鮫』、谷中は『虎』、木下は『百足』だ。
何故そんなコードネームなのかというと、六人が持つ神器のモチーフからとっているらしい。
そのモチーフ云々の話は、今は省く。
司令塔は、ジャンケンの結果梅本と北の二人。
彼等の前には四台の携帯が置かれ、逐一連絡が入ってくる。
「こちら『百足』。抜け穴付近はだーれもいないぞっ!」
「こちら『虎』、以下同文。」
やたらとこの状況を楽しんでいる、木下と谷中の無線ごっこのような連絡も入ってくるのがたまに傷。
「あー、もうっ!お前等余計な連絡入れてくんなっつーの!!」
「「ゴメーンネ~。」」
梅本が叱り飛ばすが、堪えた様子もなくふざけた謝罪が聞こえた。
「ええなぁ、あたしもこんなのと一緒じゃなくて、監視の方が良かったわ。あー退屈・・・・・。」
「っせぇぞ、このへぼマンボウ!!聞こえよがしに言うな!!!」
苛々と梅本が北に怒鳴った。
「だから嫌だったんだよコイツと一緒は・・・・・。」
「そらこっちのセリフやわ。」
お互いに舌打ちして睨み合っていると。
「こちら狐。ホシが動いた!」
「こちら燕。現在自室から出て・・・・恐らく例の抜け穴に向かっていると予測されます。」
その連絡に、いがみ合いを放り出して指示を出す。
「こちら土竜!虎と百足は抜け穴付近を警戒しろ!絶対見つかるなよ。」
「こちら鮫。狐と燕はそのままホシを追跡。」
「「「イエッサー!」」」
信長が抜け穴に向かっていると聞き、木下と谷中は急いで隠れている真っ最中だった。
「おーもしろくなってきたねぇ、チロちゃん!」
「おう!この見つかるか見つからないかのスリルがサイコーだよなっ。」
わくわくしながら信長が来るのを待ち侘びる二人。
その時、突然肩を誰かに鷲掴みにされ、驚きのあまり声なき悲鳴をあげた。
「っーーーー!!?」
「何をしてるんだ、お前達。」
ムンクの叫びのような顔で、文字通り飛び上がった二人を、顔をしかめて見るのは・・・・蘭丸だった。
「てっめ、脅かすなよこのボケ、死ぬかと思ったじゃねぇかこの変態野郎が!!!」
「ってか何でこんなトコにいるのさ!?暇なワケ?小姓って暇なの?」
目を吊り上げて怒る二人に何やら一方的に罵られて、蘭丸も戦闘態勢に入る。
「いきなり人に向かって言うことがそれか!?どういう教育を受けてきたんだお前達は!?僕が変態って、それはどういう意味なんだ!?」
「やかましいわ変態は変態だ!帰れ!そして寝ろ!」
蘭丸と木下が言い争いを繰り広げていると、谷中が持っている携帯が震える。
「こちら土竜。そろそろ近づいてくるぞ!抜け穴を抜けたら尾行開始だ。俺達と王子チームも向かうけど、それまで見失うなよ!」
これは大変だ、と急いで谷中は木下と蘭丸の喧嘩を止めた。
「はい、終わり終わり!チロちゃん、お仕事お仕事!」
「お?あ、りょーかい!」
木下はそう言いながら、ニターッと笑って蘭丸を見た。
「・・・・・な、何だ?」
気持ち悪い笑みに、一瞬退いた蘭丸の隙をつき、素早く二人は彼を押さえつけた。
「んむっ!?」
肩の関節を押さえ、口を塞いで隠れていた場所の奥まで、ホラー映画さながらの様子で引きずり込む。
ジタバタ暴れる蘭丸を、両手両膝で締め上げて黙らせると。
「来たキタきた!」
信長がやって来るのを見て、息を潜めじっと様子を窺う。
二人が隠れているのは、抜け穴から距離をおいた場所だ。
かなり警戒してるようで、信長は周囲をキョロキョロ見回している。
「あ、入った!」
ササッと、信長が抜け穴のあるツツジの木の裏に潜り込んだ。
二人は蘭丸の拘束をとき、静かにその場に近寄る。
「う…いきなり何を」
「シーッ。」
絞められた首だの腹だのを擦りながら、文句を言おうとした蘭丸を黙らせて、二人は後を追いかけようとするが。
「待てっ、さっきから怪しいぞ!?何処に行くつもりだ!?」
当然、蘭丸が前に立ちはだかる。
ピシッと青筋が二人の額に浮き、剣呑なオーラが流れ出してきた。
「鬱陶しい……お前も一緒に来い!!」
めんどくさいから強制連行、と、谷中は蘭丸の襟首を掴んで、抜け穴を通り抜けたのであった。
いつ訪れても、煩いほど賑わう城下町。
物売りの呼び込みや庶民のさざめきの中を、こそこそと物影に隠れて進むのは、目立たない地味な着物に身を包んだ小川と山中だ。
彼等は抜け穴の方向とはまた別の場所から外に出て、木下チームからの連絡を待っていた。
「にしても、この指輪……何処で手に入れたんでしょうね?見たところ、こんなものを売ってるお店は見当たりませんが。」
物証の指輪を眺め、山中はそう言った。
「…南蛮製とマンボウは言ってたな。取り扱っている店がないかどうか、聞いてみるか?」
小川はそう言うやいなや、近くの店に向かって歩き出した。
「すみません。この辺りで、南蛮渡来の品物を扱っている店ってありますか?」
入った店は反物屋だ。
主人らしき男は、いきなりの質問にも快く答えてくれた。
「南蛮の品、ねぇ………そういやぁ、ちょいと噂で聞いたことがあるな。」
「それ、思い出せますか?」
いきなり大ヒントである。思わず口が緩むのを堪えて、山中が尋ねる。
「店の名前は「衣笠」っていって、絹織物を売ってるんだが・・・・何やらそれ以外のモノも売ってて、それが南蛮製品らしいんだ。」
二人は顔を見合せて、ペチリとハイタッチをする。
噂はどんなに隠してもわいてくる。そういうことは他人に聞いてみるのが一番いい。
店の主人に丁重にお礼を言い、足早に「衣笠」へと向かった。
【こちら土竜。虎に百足、尾行の状況を説明してくれ。】
さすがに、他人の目のあるところでは電話する訳にはいかない。
なので、メールで連絡を取り合う。
「狐&燕組が指輪の出所っぽい店、見つけたらしいで。」
絹の布を被せた携帯を見て、北がそう言った。
「そのまま、その店で話を聞くように言うわ。それでええやろ?」
「ああ。お、返信来た。」
梅本がメール画面を開くと。
【こちら百足。ホシはかなり警戒してるみたいで、なかなか進まない。見つからないようにするのが大変だ。】
【こちら虎。隠れてるときにペッパー野郎に見付かった。話をややこしくされるとヤバいから、今一緒に尾行中。】
内容に、梅本は深々と溜め息をついた。
「いらねぇよ、んなオマケ……ってか、今何処にいるんだよ。」
肝心なことに答えていない。
というより、二人で一台の携帯をよくこうも器用に使えるものだと梅本は感心した。
「また狐&燕組からメールや。店に到着、名前は衣笠・・・・・・場所は、向かいに笹部堂があるのが目印やって。」
北の言葉に、梅本はそういえば、と記憶を手繰る。
勝家と一緒に煎餅を買いに笹部堂まで行ったとき、衣笠という店を見たことがある。
「あそこは絹織物専門店じゃなかったか?」
「まぁ表向きはそーやろな・・・・・・やっぱあそこがきな臭かったか。」
思い出したように言う梅本に、北は何やら思わせぶりな答え方をする。
何か知っているのだろうか。
「・・・・・どういう意味だ?」
「あそこ、絹以外に何か別の売り物もあるで。あたし、何回か行ったけど・・・・・金持ちっぽい連中が、奥の部屋で何か買ってるの見たし。」
以前、信長とのお話タイムの時に南蛮について聞いたことがあった。
この世界の南蛮は、『正史』での南蛮と比べて、輸入品がかなり進歩しているようだった。
南蛮文化を好む信長は得意げに、金細工の施された煙管や懐中時計などを見せてくれたものだ。
だがその輸入品はあまり多く入ってこないようで、取り扱う店はごく僅か。
高価な品物なので、南蛮品を扱っていることを言わない店が多いそうだ。
「つまり、南蛮製品は身分のはっきりしたお偉いさんがメインで買いにくる、ってことか。」
そのとき、また携帯が震える。
どうやら木下チームから連絡がきたようだ。
【報告、ホシが向かう方向は、笹部堂のある方向っぽい!】
「ヒットだな。おい、狐&燕組に衣笠から出るように指示しろ。」
推測は大当たり、梅本は北にそう言い、自分たちも衣笠へと向かった。