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第93話 両親への反撃

「これじゃ寝れないぞ! どうしてくれる!」


 花瓶の水で寝間着が濡れてしまった父は、感情のままに私へ近づく。そのままの勢いで、転んで床に倒れている私の腹を蹴り上げた。

 痛みが走るが、まだ我慢だ。これくらい、いつものこと。まずは耐えなければ。


「ご、ごめんなさイ! 申し訳ありませ……」


「年越しにまで迷惑をかけないで頂戴! もうその顔見たくないわ! 貴方、早く空き部屋へ移りましょう!」


 騒ぎを聞きつけメイド達がやって来る。彼女らは掃除をしようと箒や雑巾を持ってきていたが、それを父は奪い取り私へ投げつけた。

 頭に雑巾を被せられ、箒が体に当たる。なんともみっともない姿だろう私を見て、父は満足したように鼻を鳴らした。


「片付けなんぞあいつにやらせろ! それより着替えと別室の用意だ!」


 両親に言われて、メイドは私を置いて走って行く。しょうがないことではあるが、彼女らは両親の言いなりだ。こういう時に助けてくれることは無い。

 あの業突く張りの両親は、寝間着すらも一級品の物を買い、全て別室で大切に保管している。ここに着替えは置いていないので、取りに来るために立ち寄ることもないだろう。これでもう、この部屋に来ることは無い。これから行くのは、リリアンナ嬢の客間の次に豪華な部屋だろう。


 雑巾で顔が隠れていて、本当に良かった。


 両親やメイド達の足音が遠ざかり、周囲が静かになったのを確認して私は立ち上がった。つい笑みが浮かんでしまうのはしょうがない。頭から落ちた雑巾を掴み、誰かが来てもすぐには分からないようドアを閉めた。

 油断した両親は、ちゃんと片づけをしているかどうかすら確認には来ないだろう。いつも従順に、黙々と指示に従っていたのが功を奏していた。


 裏金や裏帳簿などを隠している場所の予想は付いている。全く使っていない、インテリアと化した本棚の下の方は、ただの戸棚になっている。そこを開けると、思っていた通りの金庫が表れた。

 指でゆっくりと番号を押していく。あの両親ならば、恐らく何種類もの番号を用意しているはずがない。きっと一種類だ。両親の仕事を手伝わされていた私には、番号に心当たりがある。しかも、その番号もかなり簡単な物だ。


 お願い、開いて……!


 そう天に念じながら、私は静かに両親の金庫を操作した。






***






「明けましておめでとう。そして、ただいま」


 新年祭を終えた私は、シヴァと共にアマトリアン辺境伯邸に戻っていた。


 今回は、わざとロミーナから離れたのだ。きっと夫妻は彼女を呼びつけているはず。

 その間に騒ぎを起こして夫妻を部屋から追い出し、執事やメイドの目を夫妻に向けて、一人になったロミーナが証拠の書類を手に入れる。そういう作戦だった。


 私の客室に戻ると、すでにロミーナが待っていた。作戦中に汚れてしまったのか、別の部屋着に着替えている。ソファに座った彼女は、大事そうに何かの紙を抱え込んでいた。


「……どうだった?」


 コートやマフラーを外し、私も部屋義に着替えよう。シヴァが服を用意するのを待つ間、私は彼女の隣に座った。紙をきつく握りすぎて、ロミーナの手は赤くなっている。


「……や、」


 俯いたまま、彼女は震えている。紙を覗こうとした途端、ロミーナは顔を上げた。




「やりましタ! ちゃんとありましたヨ! 書類!」




 彼女に押し付けられ、改めて書類を見る。それは要するに裏帳簿と言うやつで、私が渡した公道整備費用をどう誤魔して懐に入れたかが書いてあった。


「こっちも見て下さイ。専門家の要請ですガ、ダミーの商会を使っていましタ。ここまであれば、証拠として十分ですよネ?」


 念のため、準備を終えたシヴァにも見せてみる。一通り読んだシヴァも、頷いてくれた。


「確かに、これなら証拠になります」


 その言葉に私達は飛び上がって喜んだ。一緒に手を取り合い、そのままハグをする。


 これでロミーナがあの夫妻に良いようにされなくて済むのだ。本当に良かった。


 紅茶を持ってくると言い、シヴァは部屋を出ていく。私が部屋着に着替えていると、ロミーナはいつもよりも饒舌に何が起きたのか話してくれた。その表情は明るく、ただのおしゃべり好きな少女にしか見えない。その様子を見て、私は安心した。




 あれから二日間、ロミーナはずっと私達と一緒にいた。私のレポートも大詰めで、後は開始された公道整備の様子を確認して終わりとなる。共に馬車に乗り移動している間、ロミーナはずっと馬車の中でレポートの続きを書いていた。

 彼女が忙しいのは、レポートを二種類書いているからだ。1つは私と共に行った公道整備の内容。

 もう1つが、公道整備に携わった際に見つけた不正と、その証拠。それを訴えた場合に起こるであろう法的手続きなどについてまとめたレポートだ。


 明日の夕方にはアマトリアン辺境伯邸に到着し一泊。そのまま王都に帰る予定になっていた。

 ロミーナはその一晩で、両親と決着を付けようと必死なのだ。私はとにかく邪魔にならないようにと、彼女をできるだけ一人にしてあげた。






 ***






 特に新年祭すらない我が家は、いつも通り静かだ。身内にお金をかけるよりも、外で見栄を張りたい両親は他人のパーティに出席することの方が多い。


 もう新年祭も一段落付いたある日の夕方、私とリリアンナ嬢は屋敷に戻っていた。何事もなく夕飯を済ませ、リリアンナ嬢は先に部屋に戻っている。部屋着には着替えず、私は一人で両親のいるであろう寝室に向かった。

 ドアをノックすると返事が返って来る。中に入ると、両親は身支度中だった。


「大事なお話がありまス」


 許可なく唐突に入ってきた私に驚いた様子を見せていたが、顔にパックを貼ったままの母は見下した目で私を見ると、すぐに背を向けた。


「何なの? 手短に話して」


 煙管を吸っていた父も訝し気にこちらを見ている。不思議そうにしながらも、メイドは母の髪を梳かし爪の手入れをしていた。彼女らを見渡すと、私はいつもと違う真剣な表情で母を見つめる。


「いいんですカ? 人のいるところで話をしテ」


 鏡越しにその表情が見えたのだろう。何かを察した両親は、すぐにメイドを下がらせた。

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