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第89話 シヴァの知り合い

 今ある道をそのまま進み、とりあえず道の長さを地図と照らし合わせることにした。

 御者に指示を出して、そのまま真っすぐ道を進んでいく。町を二つ通り過ぎ、旧ソプレス王国の王都の広場に来て、道が途絶えた。この頃にはすっかり日が傾いている。


 広場の先には、遠い丘の上に建つ旧ソプレス王国の廃城が夕暮れの空に沈んでいるのが見えた。この広場はかつて王都だった名残を感じさせるほど広く、中央には大きな石造りの噴水跡がある。

 周りを囲む建物は、どれも古い石造りで重厚だが、窓の木枠や扉は真新しいものが使われており生活感と修繕の跡が見て取れた。こんなに大きな広場なのに、活気は少ない。


「もう暗くなりますが、どうしましょうか?」


 御者が私たちに声を掛けてくる。シヴァは窓辺に近付くと、御者に声を掛けた。


「このまま右に行くと、管轄の貴族の屋敷があったはずです。まだ人がいればそこに泊まらせてもらいましょう」


 御者は頷き、馬車を動かす。同時に護衛としてついて来ていた兵の1人に先触れを頼んだ。

 馬車は広場から外れ、さらに日が傾き暗くなる中を移動していく。やがて到着した屋敷は、高い塀に囲まれてはいるものの、門扉は錆びつき庭は荒れ果てていた。

 雑草が茂り、手入れされていない木々がいかにも不気味だ。建物自体に人の気配が薄く、誰かが住んでいるのかすら怪しい。しかし、その入り口には、先触れに出かけた兵の馬が留まっていた。


「……これ、本当に人がいるの?」


 心配になって呟くも、信じて待つしかない。馬車を屋敷の前に止めてしばらく待つと、先触れに行っていた兵が屋敷のドアを開けてこちらへやって来た。


「元々貴族だった住人がいました。確認すると、ろくな部屋は無いですが、寝床程度なら用意できると言っています」


 見れば、奥の部屋の一角に、辛うじて橙色の明かりが灯っている。どうやら、ちゃんと人が住んでいたようだ。


「分かったわ。私たち三人と護衛の数を伝えておいて」


 指示を出すと兵は礼をして再び屋敷の中に入っていった。アマトリアン辺境伯領と旧ソプレス王国は遠いため、念のためにと食料は持ち込んである。寝床さえ何とかなれば問題ないだろう。

 馬車を荒れた庭の一角に止め、私たちは屋敷の中に入った。玄関ホールは寒々しく、埃っぽい空気が漂っている。天井は高く、豪華だったであろうシャンデリアが煤けたまま吊るされていた。

 廊下を進んでいき、明かりのついた奥の部屋まで到着した。そこは食堂だったようで、部屋は質素ではあるが、暖炉に火が入れられており、簡素なテーブルの上には三人分の食事が用意されていた。


「すまん! 質素ですが、それ食べて良いですから!」


 廊下の奥から大きな声が響いた。なんだか野太い男性の声だ。突然のことにびっくりしつつ、言われた通り席に着く。

 どうしようかと思っていると、シヴァが先に質素なパンに手を伸ばした。野菜くずの浮いたスープも一通り食べると、特に問題はないと私達を見て頷く。

 毒見役を買ってくれたのだろう。安心して私とロミーナも食べ始めた。それを確認するとシヴァは席を立つ。


「家主に挨拶してきます。お嬢様方はごゆっくりどうぞ」


 シヴァが廊下に出てしばらくすると、再び大きな声が響いた。あんな大声は聞いたことがない。毎回びっくりしてしまう。


「おお! 挨拶ありがとうございます! ……って、いやー、お前か。良かったよかった」


 声が徐々に小さくなる。それでも十分大きい。こちらまで漏れ聞こえてきてしまう。

 一体シヴァは誰と話しているんだろうか。


「んで? ああ、お嬢様二人な。大丈夫だ! 寝床ならさっきの兵隊さんに手伝い頼んだから。お前は食ったのか?」


 漏れ聞こえる声の調子からして、知り合いなのだろうか。口調が砕けたものに変わっていく。シヴァの声は小さいから、私には男の声しか聞こえない。


「途中? 何やってんだ! ちゃんと食え! 食わなきゃ、でかくならねぇぞ!」


 追い出されたのか、小走りでシヴァが戻ってくる。その表情は少し疲れているような、どこか嬉しそうな、複雑なものだ。


「お帰りなさい、シヴァ。えっと……お知り合いか何か?」


「亡き両親の旧友……とでも言うのでしょうか。変な奴ですが、お気になさらず」


 シヴァの過去の知り合いとか、会うのは始めてかもしてない。どんな人だろうか。ちゃんと挨拶できるかな?

 モンリーズ家へ来る前の知り合いと言うことは、彼の幼少期のことを知っているはずだ。シヴァの過去の話とか、ぜひ聞いてみたい。


 私が目を輝かせていることに気付いたのか、シヴァは困ったようにため息をついた。そうか。知り合いだったから、すんなりここへ道案内したんだなと納得する。


 しばらくすると食堂に一人の男が現れた。二メートルは超えるかと言う程背が高く、体格もがっしりしている。顔は髭で覆われており、貴族だったとは言うが、見た目だけならば森で木こりをしていると言われた方がイメージに合う。

 濃い茶色の直毛がすっかり日焼けした顔を覆い尽くし、そこからやや垂れ目の紫色の目が覗いていた。服装はシンプルなシャツにベスト。質素ではあるが質は良さそうだ。


 席を立ったシヴァが彼の隣へ立つ。シヴァも背が高い方ではあるが、彼と並ぶと子供のようだ。私が並んだら赤ちゃんに見えてしまうかもしれない。隣に座るロミーナも、今まで見たことがないタイプの人間に呆然としていた。


「……家主のヴォルフガング・バルカスです。この旧王都周辺の管理を行っているそうです」


「いやー、お嬢さん方。このような粗末な家で申し訳ありません」


 さすが貴族。見た目に反して礼はしっかりしている。ヴォルフガングの挨拶に、私達も席を立って礼をした。


「リリアンナ・モンリーズです。リヒハイム王国で公爵令嬢をしております。現在のシルヴィアの主人です」


 今は女装しているシヴァのため、女性名を出して説明する。隣のロミーナも優雅に礼をした。


「ロミーナ・アマトリアンでス。同じくリヒハイム王国で辺境伯領を任されていまス。この度は急なご訪問にもかかわらズ、ご対応ありがとうございまス」


「こんな寂れたところ、ろくな客も来ませんで。まあ、ゆっくりしていって下さい」


 私たち二人を見て、ヴォルフガングは豪快に笑った。本当に声が大きい。シヴァは彼と私達を会わせたくなかったのか、困った顔をしていた。

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