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女装メイドと婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します  作者: 水無瀬ちよ
第二章

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第47話 お友達が欲しい

「……と、意気込んだはいいものの」


 私はイザベラについてあまり知らない。

 イザベラ・ナンニーニ。 国内でもトップレベルの財閥を所持しているナンニー二侯爵家の次女。ゲームでは高飛車で高慢で、学園内ではリリアンナと対立する勢力を保持していた。しかし、性格のためか敵が多く嫌われることも多い。基礎ステータスが全て平均以上と高く、彼女を超えられるかどうかで攻略対象との関係の進展具合が変わる。まあ、それだけ基本的には優秀なご令嬢のはずなのだ。

 教室内では取り巻きを連れながら、中心人物として君臨しているのをよく見る。私とは挨拶はする程度の関係性だ。


 とりあえず、大事なのは挨拶だ。そう思い、私は彼女に最高の笑顔で挨拶をするようにした。

 朝、教室に入ると大きな窓から入った日光が、彼女の豪奢な蜂蜜色の髪と華やかな宝飾品を眩しく照らしていた。眩しさに目を細めながらも、私は満面の笑みを作る。


「イザベラ嬢、おはようございます」


「あら、リリアンナ様。おはようございますわ」


 声を掛ければ、彼女も笑顔で応じてくれる。その笑顔は完璧で隙がない。周囲は美少女二人の交流に感嘆の声を漏らすが、それ以上会話が続かなかった。

 何か話してみたいが、特に共通点も無ければ話題もない。そのため、毎日のように私は、わずか数秒の挨拶しかできなかった。




「……お友達作りって難しいわね。シヴァ」


 車窓からオレンジ色の光が差し込む、いつもの馬車の中。私はクッションに体を預け、ため息とともにそう呟いた。馬車の揺れに合わせて、車内に吊るされた小さなランプが微かに揺れる。対するシヴァはあっけらかんとしていた。


「改めて思うと、貴族同士の交流で知り合った人間ばかりだからな。それ以外の交流となると難しいだろ」


「情報として、基礎的なことは知っているのよ。でも私、そういうお仕事的な話じゃなくてね、本当に純粋にお友達ってものが欲しいのよ」


 彼の言葉が正しいのは分かっている。貴族の交友はすべて、家格と利害が絡んでいるのだ。そこから純粋に親しくなれるかどうかは、その後の交流次第。問題は、イザベラ嬢とはその基本的なつながり自体存在しないということだ。


「マルグリータ嬢は?」


「学園に通ってると会えないし……普段から一緒にいられる子がいいの」


 わがままかもしれないが、私は少し拗ねた様子を見せた。夕日で影が濃くなったシヴァの顔は、真剣に私の言葉を聞いている。しばらく考えて、シヴァは提案してくれた。


「趣味とか、好みとか、オレの方で調べておこうか?」


「え?」


「話したいんだろ? イザベラ嬢と。なら、きっかけになりそうなことくらい、調べておくよ」


 その言葉に、私は一気に気分が上がった。諦めかけていた希望が、彼の提案によって再び光り輝く。


「ありがとう、シヴァ!」


 私の感謝の言葉に、シヴァはふっと安堵したように微笑んだ。






***






 シヴァの情報は早かった。翌日にはもうある提示度情報を集めてくれていたのだから。

 イザベラはアクセサリーの目利きが得意で、外出が好きらしい。特に最近は、町中にあるカフェがお気に入りだという。

 これだ! と思った。興味のある話題を振り、学校外の活動に誘い出せば、取り巻きのいない場所で純粋な友人として話せるかもしれない。




 その日の教室移動の最中。私は意を決して、取り巻きと話しているイザベラの横に並んでみた。

 学園の廊下は広く、3、4人が並んで歩けるほど広い。取り巻きの女子たちは私を見るなり、すぐにひゅっと潮が引くように会話をやめ、引いていった。公爵令嬢が話しかけようとしているのに、わざわざ間に割り込むような行動はしないということだ。


「あの、イザベラ嬢。ちょっとよろしいかしら」


 私の声に、イザベラは快活な笑顔を向けた。彼女の周りだけ、空気が一段と明るいように感じる。


「リリアンナ嬢。どうかしましたの?」


「イザベラ嬢は宝飾品に詳しいと聞きまして。相談に乗ってもらっても良いかしら?」


 私はシヴァの情報通りに話題を振った。イザベラの目がキラリと輝く。


「ええ、ぜひ!」


 彼女の明るい返事に、私は内心でガッツポーズを取った。

 これで上手くいく――そう思った瞬間、先ほど引いたはずの周囲の女子たちが、遠慮がちに近づいてきた。


「まあ。モンリーズ嬢も何か購入の検討を?」


「何かしら。楽しみだわ。きっと流行るから、私も購入したいですわ。ご一緒してもよろしいかしら?」


 しまった!

 周囲に聞かれない場所で誘いたかったのに。大勢の前で相談したから、皆を誘うような形になってしまった。でも、イザベラの周囲は人が絶えないので他に手段がない。

 対して、イザベラは全く動じなかった。彼女は取り巻きたちを、冷静な自信に満ちた笑顔で制した。


「皆さん、ご相談は大勢のいる人前でするものではなくてよ」


 廊下の空気は、彼女の一言でピリッと引き締まる。そして、彼女は私に向き直り快活に宣言した。


「わざわざ私にこうして相談に来て下さったんですもの。他の方への情報漏洩などせず、きっちり相談を解決してみせますわ」


 提案を断られ、一部の女子は嫌そうな顔をする。きっと、公爵令嬢である私と接点を持ちたかったのだろう。

 こんなあからさまな態度は、やっぱり苦手だ。私が少したじろいでいると、イザベラはそんなことは一切気にせず私の手を取った。彼女の指は温かく力強い。


「ご予定を教えて頂ければ、私が合わせますわ。リリアンナ嬢の方がお忙しいでしょうから。任せて下さいませ!」


 終始、イザベラは明るく快活な笑顔を浮かべていた。彼女の自信に満ちたオーラに圧倒されながらも、アプローチが成功したことに安堵した。

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