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第146話 判決

「では……国王夫妻は、何故亡くなったのでしょうか」


 ピクリと体を揺らすシヴァの反応に、私は思わず振り返る。彼の顔は青ざめていた。今にも倒れてしまいかねない。


「シヴァ、具合悪いならここに座る? それか控室に」


「いい」


 私を片手で制止しながらも、彼の視線はずっと前を向いていた。


「内乱以外に原因があったはずです。調べていくと、手記を入手しました。ここには、ソプレス王国の従者の当日の見聞きしたことが記載されています」


 裁判官は一冊のノートを取り出す。


「これは事件当日の記載です。“深夜、話声と足音がしたので起きてしまった。確かリヒハイムから来たというお客様が、誰かを殺害すると話しているのを聞いてしまった。急ぎここに記録を残して、俺は先輩達や騎士に声をかけないと”」


 この話に、今度はディトリヒが顔を青ざめさせる。わなわなと震える彼を見下ろし、裁判官は続けた。


「走り書きですが、解読できました。この従者はその日の夜に遺体で発見されたそうです……内乱に巻き込まれた被害者と言う名目で」


 会場内が芯と静まり返った。様々な視線がディトリヒに向けられる。

 当日ソプレス王国に泊まっていた、リヒハイム王国から来た客人。名簿の記載により、それはディトリヒであることは明白だ。そこにこの手記と、死んだ目撃者……ここまで来れば、誰もがディトリヒが犯人であると理解できる。


「ディトリヒ・ベルナルド……貴方は功績を上げ地位と名誉を得るため、友好国であったソプレス王国を襲撃し国王夫妻を暗殺した。合っていますか?」


 ディトリヒは口を何度も開け閉めする。言い訳を必死に考えているのだろう。しかし、何も思いつないのか言葉が出ない。


 長い長い沈黙の後、彼は小さく頷いた。


「犯行を認めますね? では、ディトリヒ・ベルナルドを国王暗殺と国家反逆罪として処罰します!」


 裁判官の言葉で宣言され、ディトリヒはがっくりと項垂れる。騎士に無理に立たされた彼に、裁判官の後ろで話を聞いていた陛下が声をかけた。


「ディトリヒよ……野心があったのは良いが、やりすぎたな」


 小さく声をかけた後、立ち上がった陛下はその処罰の内容を宣言した。




「ベルナルド侯爵は地位を剥奪。領地と資産・財産を差し押さえ、半分はソプレス王国の復興支援へ回す! 主犯のディトリヒ・ベルナルドは極刑、その家族は終身刑に処す!」




「そんな! 妻や娘は……!」


「ともに処刑されないだけマシと思え」


 ディトリヒの反論に、陛下は冷たく反論した。陛下の指示の下、ディトリヒは引きずられるように法廷を後にした。

 彼の後ろ姿が見えなくなると同時に、シヴァの体から力が抜ける。しゃがみ込む彼の体を、私は必死に支えた。


「シヴァ!」


 すぐ近くの傍聴席で見物していたお父様が、異変に気付き指示を飛ばしているのが見える。私は椅子から立ち上がり彼の体を支えた。すぐに到着した従者達が担架を持ってくるが、シヴァはそれを何度も断った。


「シヴァ、ちゃんと休まないと……」


「いい。いらない」


 私も担架に乗るよう促すが、シヴァは決して言うことを聞いてはくれない。


「オレは……最後まで見届けないといけないんだ。そうなじゃないと、何も前に進まない」


 もはや素の口調に戻っている。声も作った女声ではない。これでは周囲に人がいる方がボロが出てしまうだろう。

 ため息をつくと、私は従者達に担架ではなくソファを持ってくるよう伝えた。三人がかりで持ってきてくれた三人掛けのソファに横たわるようシヴァに声をかけると、それには従ってくれた。


「そちらは大丈夫ですか?」


 騒ぎに気付いたのか、裁判官が声をかけてくれる。裁判を中断してしまったようで申し訳ない。


「申し訳ありません。彼女はソプレス王国出身で、ショックを受けてしまったようです。しかし、最後まで見届けたいと言っています」


 周囲の不振がっていた貴族や従者達が納得したように頷く。祖国の悲劇について、とんでもない事実が明かされたのだ。こうなってもしかたがない。

 私はシヴァのすぐ傍に椅子を移動させて、彼の様子が見える位置に座った。


「分かりました。では、続きましてアルベリヒ・グラウベル。ディトリヒ・ベルナルドと共謀していた事実を認めますね?」


「……は、い」


 ここまで来てこれ以上反論するのは無理だと悟ったのだろう。アルベリヒは黙秘をやめて返事をした。


「加えて、つい二日前のこと。リリアンナ・モンリーズ公爵令嬢が誘拐事件にあっています。公爵令嬢、お話を伺えますか?」


「はい」


 私は立ち上がり前に躍り出た。横を見ると、話を終えて後ろに下がったヴォルフガングと目が合う。彼の位置からシヴァの様子はよく見えないためか、心配そうにしている。安心させるように、私は頷いた。


「二日前の学園祭の最中です。私は忘れ物を取りに、従者のシルヴィアと馬車留めへ向かいました。そこで髪が乱れていたためシルヴィアは馬車で身支度を整え、私は先に一人で校舎の方へと向かいました」


 この際理由はどうだって構わないのだ。嘘をついてしまっていることになるが、私が馬車留めに行ったことも、身支度を整えるシヴァを置いて先に行ってしまったことも事実だ。

 その後起こったことは、何一つ嘘はつかない。三人組に誘拐され、倉庫に連れ去られたことや、何者かと合流しようとしていたことなどを洗いざらい伝えた。


「会議室に戻り、アレクサンド様にこの事態をお話しました。……これで以上です」


 礼をして下がる。次に出てきたのは、あの時の犯人の一人だった。あの一番大柄だった男だろうか。


「彼が犯人の一人です。この場で、誰に依頼されたか言えますか?」


 アルベリヒは必死に顔を背けて知らないふりをするが、そんなのただの悪足掻きだ。知らないふりなんて許さない。ソプレス王国もシヴァも、私のことも傷つけた報いを彼も受けるべきだ。


「確かに、あそこにいる男です。フードで顔は隠していましたが、背格好も髪色もそのままです」


 変装魔法すら使わなかったとは、なんとも間抜けな話だ。男は貧民街出身だと言うし、油断していたのだろう。


「国家反逆罪に加え、公爵令嬢の誘拐罪が追加されますが反論は?」


「……あ、ありません」


 これでようやく、裁判が終わる。体にたまっていた緊張が抜けていく気がした。長いようでいて短かった。

 壇上に上がった陛下が、再びアルベリヒを見下ろした。蹲った彼は陛下と目を合わせることもできない。

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