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第139話 それぞれが楽しむ学園祭

 学園祭二日目。

 今日は午後に自分のクラスの担当を務めるだけで、比較的時間に余裕がある。私はシヴァと約束した通り、今年も変装魔法を使って彼と学園祭デートをするつもりだった。

 私は再び黒髪にピンク色の瞳になる。服装も商人風のものになり、目立たないように帽子も被った。シヴァも髪を下ろし、長い黒髪に眼鏡をかけた、同じく商人風の男性に早変わりだ。さすがにこの格好なら、誰が見てもリリアンナ・モンリーズだとは分からない。昨日話していたヴォルフガングを襲ったという刺客のことが気がかりで、誰かに見つかりはしないかと心臓はバクバクだ。


「こうするのも久しぶりね」


「そうか? サンスリード様とルベルゾン嬢の二人をくっつける時にやっただろ」


「それだって一ヶ月くらい前じゃない」


 シヴァと軽口を叩いていると、少し気がまぎれる。周囲の人目を気にしながら、私達はこっそり馬車置き場から学園祭の中心部に移動した。

 昨日はヴォルフガングと広場の様子を見て回ったし、今日は各クラスの出し物を見て回ろうと話していた。シヴァと手を繋ぎながら歩いていくと、聞き慣れた声が耳に届いた。


『あそこの美術商が良い品を扱っているそうなんです。先輩、絵画はお好きでしょう?』


『そうなんです。ぜひ行きたいわ』


 随分流暢なライ語だ。早口なのもあり、私も辛うじて聞き取れる程度。正確ではないが、なんとなく何を言っているのかは分かる。

 振り返って見ると、そこにはセドリックとロミーナが立っていた。三学年の下位クラスが美術商を呼んで、美術館を運営しているのは聞いている。どうやらそちらに向かっているようだ。

 一時期関係性が危ぶまれた二人だったが、今は上手くいっているようだ。むやみに近づかず、一定の距離を取りながら並んで歩く。まだステファンと婚約者同士であり人目が気になるロミーナには、これくらいの距離感でちょうど良いだろう。


『僕は鳥の絵が好きなんです。気に入った物があれば購入しても良いですか?』


『もちろん、どうぞ』


『先輩の気に入った物は、僕が買ってあげますね』


『え⁉ それはちょっと……』


『ダメですか? 僕は贈りたかったんですけど、先輩が嫌ならやめます』


 どうやらちゃんと引くと言うことを覚えたらしい。少し寂しそうな表情で言っているセドリックに、ロミーナは頬を赤らめながらあわあわしている。引く時は引きつつ、でもロミーナに訴えかけるような言動はする。自分の立場と容姿を生かした戦法だ。


「おい、あまり追うと不自然になるぞ」


 シヴァに言われて私ははっとした。二人のことが気になりすぎて、つい後をついて来てしまったのだ。ちょうど二人が目的としていた、三学年の下位クラスに入ってしまう所だった。


「ごめんごめん。……美術品って、興味ある?」


「正直、ない」


「だよねー。私もない」


 あくまで様子を見に来ただけと言うような感じで、私とシヴァは窓の外からちらっと中を覗くだけにして通り過ぎた。せっかくだからこのまま三学年のクラスを回ってみよう。




 三学年は見終わり、二学年のクラスを見て回っていると、どこからか視線を感じた気がした。シヴァも気付いたのか、ちらっと周囲を見渡している。

 シヴァと繋いでいた手に冷や汗がにじむ。昨日のヴォルフガングの話と、アレクサンドの説明が脳裏をよぎった。


 誰かにバレてしまったのだろうか。

 それは誰?

 まさか襲撃者なんてことは……


 不安になりシヴァの腕に抱き着くようにして顔を隠す。それをシヴァは何も言わずに受け入れ、優しく頭を撫でながら私の帽子をさらに深く押し込んで顔を隠してくれる。逞しい彼の体にくっついていると、少し安心だ。


「あ」


 シヴァの声がして、私は顔をあげた。彼が見ている方に視線を向けると、一人の少女と目が合った。彼女は私達の視線に気付きぱっと顔を背ける。

 ライハラ連合国出身の貴族なのだろうか。褐色の肌にブロンドの髪、茶色い釣り目が特徴の美人さんだ。なんであの子が? と不思議に思っていると、彼女と腕を組んでいる人物を見て合点がいった。同じく褐色の肌に癖のある黒髪。整った顔立ちで、凛としたたたずまいにはオーラが溢れている。


 イザベラとアレクサンドだ。


 二人も変装魔法を使ってお忍びデートをしていたというわけか。イザベラの気がそれていることに気付き、アレクサンドが彼女の肩を引き寄せる。その行動にイザベラは顔を赤くしていた。

 私も変装魔法を使っているのに、よく気付いた物だ。商人としての目利きでも働いたんだろうか。そう考えていると再びイザベラと視線が合う。彼女は口元にそっと人差し指を押して、ぺこりと会釈していた。

 どうやら内緒にしろと言うことだと理解し、私も同じようにして返す。こういうことはお互いに知らないふりをした方が賢い。


「イザベラとアレクサンド様よ。知らないふりして」


 耳元で伝えると、シヴァは納得したように頷いた。




 楽しい時間は過ぎ去り、他のメンバーが無事仲良くできている様子も見られた。一時はどうなるかと緊張したが、何事も無かったようで本当に良かった。そんな安堵感もあり、完全に油断していたのだ。


「それじゃ、遅れちゃうから先に行くね」


 予定通り午後の担当のため、私達は馬車に戻って着替えを済ませた。私は変装魔法を解けば済むが、シヴァはそうはいかない。実際に着替え、髪を整え直す必要がある。

 私は時間がないからと、先に馬車を降りた。昨年もこうして一瞬だけ別行動していたのだ。シヴァのことだから5分もあれば追いついてしまう。

 私は早足で校舎へと急いでいた。庭園の角を曲がれば広場へ着く、という所で庭園の草むらから手が飛び出す。


「え?」


 それは、一瞬だった。何本もの手が私の口と手を覆い、草むらに引きずり込んだのだ。呆然とする私は、気付くと空を見上げていた。庭園の草木に囲まれた空間の中、マントで顔を隠した人達が私を見下ろしていた。

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