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第七十五話 婚約解消の相談

 ステファンとの関係は大丈夫なのか。その質問を聞いたロミーナは、目を大きく見開いた。


「……気にして下さってたんですネ」


「もちろん。色々なことがありましたし」


 そう言いながら、私はあの年末年始に起こった冬の出来事を思い出していた。ずっと両親から虐待を受けていたロミーナは、彼らの悪事の証拠を手に入れて、それを元にこれ以上自分に関わるなと脅した。ステファンとの婚約も両親の策略の上だったことで、ロミーナが反抗すればステファンとの婚約を解消させてろくでもない相手に嫁がせると脅されていたらしい。この一件により両親はロミーナを脅すことができなくなり、ロミーナは自由を手に入れた。

 その直後に、ステファンがメロディと出会ってしまい二人の仲が急速に縮まる様子を見て、ロミーナは何を思っただろう。ゲームではステファンルートに進んだ際の悪役令嬢がロミーナだ。私はステファンルートを攻略していないのでよく知らないが、ロミーナを悪役令嬢にはしたくなかった。今思えば、ステファンをメロディに奪われまいと必死にロミーナが抵抗するのも、両親の件があったからだろう。それが無くなった今、ロミーナの心境はどう変化しているのか。私には予想できない。


「今はイザベラと一緒にメロディ嬢を教育していますが、その際のやりとりでステファン様がメロディ嬢に肩入れしている様子も見ていれば分かります。婚約者としては、面白くないかと思って」


「まア、それはそうですネ。良い気はしませン。ステファン様と仲直りしたかったのですガ、ここまで関係がこじれているとそうもいきませんシ」


 そう言ってステファンとの関係を語るロミーナはどこか寂しそうだ。色々思い悩んでいたことが想像できる。


「最低限、婚約者としての関係は保ってくれていますガ、それだケ。話をしようとしてモ、ろくに反応ももらえズ……避けられているのでしょうネ。両親がしてきたこト、それを見て見ぬふりをしていた私でス。今更としか思われていないのは分かってはいるつもりでス」


 ステファンはサンスリード公爵家の中でも、唯一妾腹の子供だ。昔の伝手でサンスリード公爵家に恩を売っていたアマトリアン辺境伯は、それを使って無理にサンスリード公爵家との縁談を進めた。その中で選ばれたのが、立場が弱かったステファンだ。

 本来ならば妾腹などではなく本妻の子供と縁を繋ぎたかったアマトリアン辺境伯は激怒し、ことあるごとにステファンに悪口を言ったり嫌がらせをしていたらしい。ステファンが音を上げれば、婚約者を別の人物に挿げ替えられると思って。

 妾腹ではあるが子供に罪はないと、正妻である義理の母はステファンに優しかった。その恩もあり、ステファンはアマトリアン辺境伯の嫌がらせに耐え続けてきた。その忍耐強さと、いずれ父のようになると剣の道を進み、立派な実力を手に入れたステファンを見てアレクサンドは側近候補に彼の名を挙げた。ここまでは、アレクサンドとシヴァから得て私が知った情報だ。


「本当ハ、入学式の日にリリアンナを呼び止めて相談するつもりだったんですヨ」


「え? 入学式の日?」


「はイ。もしもステファン様と婚約解消になリ、一人身になってしまった場合。両親はきっと黙っていませン。なんとしても都合の良い相手を見繕おうとするでしょウ。それヲ、アレクサンド殿下にも協力して頂いて阻止できないかト」


 その言葉は意外だった。まるで、ステファンとの婚約が将来解消されることを受け入れているかのようで。

 心配が顔に出ていたのだろう。私を見てロミーナは困ったように微笑んだ。


「……いずレ、私の方から言わなくてはいけないと思っていたんでス。ステファン様にこれ以上迷惑はかけられませン。両親の横暴ニ、彼を巻き込まないためにモ」


 もうほとんど覚悟は決まっているのか、その目に揺らぎはなかった。ただ、小さく手が震えている。




「私とステファン様の婚約を解消するト」




 確信したようなその台詞に、私の方が不安になってしまった。ロミーナの立場を思えば、心配にもなる。


「……本当に、それで良いのですか?」


「えエ。だっテ、私はステファン様を愛してなんかいなイ。両親の盾にしようとしているだケ。そのことに気付いているんでス。なんの当てもなく婚約解消すれバ、両親に蹂躙されるル。それが怖くてしょうがなイ。だかラ、アレクサンド殿下やリリアンナが支えてくれると確信が持てれバ、離れてあげられると思ってるんでス」


 私は震えるロミーナの手を上からそっと握り締めた。ロミーナは笑顔を作っているが、その表情は曇っているのが分かる。


「……辛くないと言えバ、嘘になりますけどネ」


 それはそうだろう。一番ロミーナにとって安全なのは、このままダラダラとステファンと婚約者同士でい続け、結婚してしまうことだ。それを自ら手放してしまうのだから、不安にならないわけがない。


「ロミーナ嬢がそう言うなら、私も協力しますよ」


 私にできることは何だろうか。ロミーナに別の安全な男性を次の婚約者候補として紹介すること? イザベラへの男性の紹介の話は亡くなってしまったけれども、代わりにロミーナに紹介すると言えばアレクサンドも手伝ってくれるかもしれない。私が知っている男性で婚約者が不在なのはヤコブとセドリックくらいだろうか。

 色々と考えを巡らせながら、なんとなく入学式に私と話をしようと探していた話を思い出し、ロミーナに申し訳なくなった。入学式後はイザベラと共にメロディにかかりっきりだったし、タイミングを掴むのは相当難しかっただろう。


「そういえば、入学式の日はごめんなさい。色々忙しくて……一体、どこにいたんですか?」


「えっト、学園内を一通り見て回りましテ」


 学園内を一通り動き回ったのなら、どこかですれ違いになっていたかもしれない。ゲームのオープニングシーンが見たいからと、メロディを必死に追いかけすぎて周りなんて見ていなかった。どこですれ違ってしまったのかと過去を思い返すと、ロミーナは予想もしていなかった場所の名前を口にした。


「確カ、最後に行ったのは図書館でしタ」


 それは、セドリックがいなかった、ゲーム本編と現実がかけ離れていた場所だった。

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