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第六十九話 ひっくり返された大前提

 そうこうしている内にすっかり話が盛り上がってしまい、気を良くした優子は私にシヴァとの恋愛関係を聞いてきた。


「それで? 穂香はずっと彼が推しだったじゃない。どうなの? もうキスまでした? 両想い?」


「あ、それは私もちょっと気になりますね」


 楽し気な優子だけでなく、上野さんもノリノリで質問してくる。前世では恋人なんかいたことの無い恋愛初心者の私に、そんなにあれこれ詰め寄られても困ってしまう。というか、恋愛関係なら絶対既婚者だった上野さんの方がもっと面白い話聞けるって!

 恥ずかしくてたまらない。このままでは根掘り葉掘り全部言わされてしまうだろう。代わりにアレクサンドとの関係を揶揄ってやろうと口を開いた時、私はとんでもないことを思い出してしまった。


 優子は夢女子ではない。


 推しがいたとしても、それはキャラクターとして気に入っている、応援していると言うだけでそこに恋愛感情はないタイプなのだ。推しと自分のカップリングや恋愛には、全く興味を示さない。そんな人だ。ずっと親友として一緒にいたのだから、それくらいの嗜好はよく分かっている。だとすると、もしかして……


「あ、の……優子ってさ」


 突然、深刻な顔で俯く私に優子と上野さんは驚いた顔をしている。この雰囲気を壊したくない。でも、この後のためにも聞かなければならないのだ。


「アレクサンドのこと、好き?」


「うん、もちろん好きよ? 最推しだったの、知ってるでしょ?」


 当たり前のように答える優子。まあ、それはそうだろう。


「それは、えっと……男性として? それとも、推しとして?」


「そんなのもちろん」


 優子はいつものように頬を赤らめながら、楽しそうに答える。うっとりと頬を上気させている姿は何とも愛らしい。しかし、その言葉は私にとって致命傷だった。




「推しとしてに決まってるじゃない! あの顔と声が好きなのよね。後、ヒロインとのカップリングが気に入ってるの! めっちゃ萌えるじゃない?」




 それは、アレクサンドに惚れているイザベラという大前提が覆された瞬間だった。その前提があったから、私はアレクサンドとイザベラがくっつけばいいと思っていたのに。それに、アレクサンドもイザベラを好きになっていた所だったのに……


「あー……えっと、佐藤さん。ドンマイです」


 色々察した上野さんの慰めは、なんの励ましにもならなかった。こんなこと、優子に言っていいものなんだろうか。というか、アレクサンドになんと説明すればいいの?

 不思議そうに優子がこちらを覗き込んでくるが、今は彼女を恨むしかない。冷静に考えれば、昔から優子は興奮するとすぐに頬を赤らめるタイプだった。本気で熱が入ると全身が温かくなってくると言うか、そんなタイプなのだ。前世だと全く気にならなかったが、今思うとなんとも紛らわしい。本気で彼女がアレクサンドに片想いしていると、私だけでなくアレクサンドもずっとそう思い込まされていたんだから。


「あの、さ……優ちゃん」


 ため息をつき、私は頭を抱えるしかなかった。それでもと、縋るような気持ちで彼女を見る。


「未来の王妃になる気とか、ない?」


「は? 私が!?」


 優子は立ち上がらんばかりの息を意で驚く。うん、そうなるだろうなとは思っていた。私だって急にそう言われたら驚く。

 何度も謝罪の言葉を込めながら、私は改めて説明をした。アレクサンドと婚約解消したいこと。そのためにも本編のシナリオで関わる旧ソプレス王国の復興のために動いており、アレクサンドもそれに協力姿勢であること。その場合、アレクサンドの婚約者の座が空いてしまう。そこに、アレクサンドに惚れていると思っていたイザベラを推薦するつもりだったこと。


「道理で……なんで私もリリアンナと一緒に王妃教育するんだろうって、不思議だったわ。まあ、将来的に有利だし、家のためにもなるし、推しに会えるから断らなかったけど」


 絶対最後の理由が一番強い気がする。


「でも確かに、空いてる女性で一番身分高いのって私だもんなー。他国とって手もあるけど、他国との情勢は今は安定してるみたいだし、旨味は少ないのよね」


 そういう話がさらっと出てくるのはさすがとしか言えない。しばらく考えると、優子はうんと頷いてくれた。


「いいわよ、別に。穂香とシヴァのカップリングも見たいしね」


 絶対それが一番の理由だ……本当に、自分以外のカップリングを見るのが好きなのだ。優子は。まあ、政治的にも経済的にも悪い話ではないので、悪いことにはならないだろう。

 一番の問題は、この事実を知ったアレクサンドがどうするかと言うことだ。先に惚れていたのは相手だと思っていたら、実は相手にその気はなくて勝手に自分が惚れただけとか、そんなの穴があったら入りたいレベルで恥ずかしい。おまけに、ゲームのアレクサンドを見ていると、恋愛感情が絡んだ彼は凄く面倒くさいのだ。両想いならイチャイチャカップルとして微笑ましく見れたが、片想いだと知ったらあの恋愛感情がどう働くのか。想像するだけで怖い。


「じゃあ、そういうことでとりあえずはよろしく……」


 語尾が震えてしまうがしょうがない。そういえば、もう随分話し込んでしまった。いい加減、外で待たせているシヴァを呼ばなくては。

 そう考えたところで、話し合おうと思っていた議題の一つを思い出す。


「そういえば、セドリックはどこに行ったの?」


「さあ?」


 私の問いに、二人は肩をすくめていた。

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