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第六十七話 三人目の転生者

 場所を変えて、ここは私の馬車の中。シヴァに頼んで、ヤコブとイザベラを連れた私はとりあえず三人で馬車に入り膝を突き合わせていた。

 馬車の中は公爵家らしく、深紅のベルベットの座席に磨かれた木材の壁が重厚な印象を与えていた。窓はしっかりと閉じられ、外部の喧騒は遮断されている。しかし、豪華な内装とは裏腹に、車内は重く、ひどく気まずい雰囲気に満ちていた。

 私とヤコブが隣同士で座り、正面にイザベラが座る。本来ならば婚約者でもない男性であるヤコブと隣り合って座るのはご法度なのだが、今回ばかりはそうもいかないのだ。


「えっと……急に呼んでしまってごめんなさい。イザベラ」


「い、いえ……」


 何故呼ばれているのか、薄々分かっているのだろう。もじもじしながら、イザベラは視線を落とす。

 恐らく、イザベラは私やヤコブと同じ転生者だ。そうでなければ、つい先日伯爵家に迎えられたはずのヒロイン。メロディの存在を、侯爵家の娘であるイザベラがわざわざ知っているはずもない。しかし、それをどう切り出せば良いものか……

 私が色々と思い悩んでいる横で、ヤコブが口を開く。


「メロディ嬢を追っていた理由を、教えて頂いてもいいですか?」


 その言葉はあまりにも単刀直入だった。ちょっと、ヤコブ! そんなに急に伝えることないじゃないの! そう思い彼の服の裾を引っ張るが、ヤコブは意に介さない。イザベラは拍子抜けしたように驚きつつ、言葉を探しているのかキョロキョロと視線を動かした。


「あ、貴女達の方こそ、何故彼女を追っていたのよ」


 それはそうだ。ごもっともな話で思わず力が抜けてしまう。


「彼女はヒロインですからね」


 ヤコブは眼鏡をくいっと指先で持ち上げながら、いつも通り答えた。はた目から聞いていると、何の話だかさっぱり分からないだろう。しかし、イザベラの表情は図星を突かれたように目を見開き固まっていた。


「あの、イザベラは……」


 その表情を見て、私も意を決して話始める。


「メロディ・ルベルゾンがとあるゲームのヒロインだと知っていたの?」


 私の問いに、イザベラは一度困ったように眉根を寄せると俯いてしまった。しばらく何かを考えて、こくりと頷く。やっぱり、そうだ。それならばグズグズせずに話してしまった方がいっそ良いかもしれない。そう思いヤコブを見ると、彼も同じことを考えていたのか頷いてくれた。というか、ほぼ確信しているからこそ、話を進めるためにずけずけと話をしていたようだ。


「私とヤコブはね、この世界がゲームの世界だって気付いていたの。一年生のはじめ頃に、お互いにその話をして同じ境遇だと気付いた」


 私はそのまま、私達の境遇を話し始めた。それをイザベラは静かに聞いてくれる。

 きっかけは、ヤコブが私が本物のリリアンナではないと見抜いたこと。別の世界の日本と言う国で、ゲームを作っていた彼はそある乙女ゲームを制作した。【英雄の学園と鎮魂の歌】と言うタイトルのそのゲームには、悪役令嬢のリリアンナ・モンリーズが登場する。本来であれば大変優秀でみんなを引っ張っていく社交界の華である彼女は、実は代の男嫌いと言う面を持っている。そんな彼女と現在の私が全くの別物であると気付き、ヤコブは話しかけてきたのだ。

 私は私で、そのゲームのファンだった。ゲームにはアレクサンドの側近候補が出てくるが、そこにヤコブ・ヘルトルと言うキャラクターは存在しない。そのことから不審に思い、彼と話をしたのだ。


「私の前世の名前は、上野明彦です」


 一通りの私の説明の後、ヤコブはそう言って自己紹介をした。イザベラはすっかり話に聞き入っている。私も自己紹介をすることにした。


「私は佐藤穂香。ただの女子高生だったけど、お友達とこのゲームをプレイしていたの」


 私のその言葉に、イザベラは急にぽろぽろと涙をこぼし始めた。呆然とした表情のまま、まっすぐに杜若色の目で私を見つめながら。

 何がどうなっているのか分からず、私は困惑するしかない。とりあえず、服が汚れてしまうと思いハンカチを取り出し、涙を拭こうと手を伸ばす。その手が、イザベラによって掴まれた。


「え?」


 そのまま手を引かれると、私はイザベラに抱きしめられていた。私の体に腕を回し、きつく抱きしめられて苦しいくらいだ。それでも、イザベラはずっと私を抱きしめ続けていた。

 困惑して、ヤコブをチラッと見る。彼にも予想外だったのか、首をぶんぶん横に振っていた。引き離してもらいたいとも思うが、ヤコブが令嬢に触れるわけにもいかないし、イザベラが落ち着くのを待つしかない。


「良かった……生きてたんだね……」


 静まり返る馬車に、イザベラの泣き声とそんな呟きが響く。生きていたって、どういうことだろうか。よく分からないまま、私は数分間抱きしめられたままでいた。




 ようやく泣き止んだイザベラは、そっと体を離してくれた。その目はすっかり赤く腫れている。見ていられなくて、私はハンカチを差し出した。お礼を言ってハンカチを受け取ると、イザベラは顔を拭いてふっと息をつく。

 気を取り直した彼女は、それはそれは優しい笑みを浮かべていた。


「えっと、大丈夫?」


「ええ、もう大丈夫だから……」


 気圧されながら尋ねると、イザベラは何度か深呼吸をする。ふっと息を整え、彼女は口を開いた。




「私は相羽優子。ただの女子高生だった人間よ」


 それは、このゲームを私に紹介してくれた、かつての親友の名前だった。

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