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ミズギライ

作者: オアシス


 最近、やけに水漏れが酷いのである。


 一月前はそうでもなく、本当にここ最近、シミになるくらいに漏れた水が頭頂を叩くのである。


 それが偶に、瞳に入るのでもう堪らない。


 元来潔癖のきらいがあるせいか、どうにも得体の知れないこの水が我慢ならない。


 空気中の埃を吸った上にあらゆる菌子か蠢いている筈。下手をすれば、野生の獣の体を滑り溜まったものかもしれない。鼠であったり鳥だったり、大穴は野良猫か。

 

 溶出した体液がカクテルとなり僕の体へと移る。蜘蛛の子を散らして広がる様を想像すると、大袈裟でもなんでもなく吐き気を催してしまう。


 天井裏の様子を見てみない事には、あらゆる可能性が内在するのだ。まぁ、流石に考えすぎだとは自分でも思うのだが……。


 水漏れは一つだけではなく、今は3つある。内2つには既にポリバケツを受け物として置いてある。するがままにはさせられないだろう?。


 今しがたの三つ目に新しきバケツを置いて、僕は脱衣場の水道を使い頭を洗うのである。


 蛇口から勢いよく流れるこの水……。水道から来たるカルキの浄化がされた水も、これは一見安全だと思えるのだが、深く考えてみればマシという程度でしかない事に気が付いた。


 まず薬品が使われている。人体にそう影響がないと一般的に言われているが、長期的な摂取となれば原因などは断定出来ないだろう。


 次に錆の問題もある。昔、僕は混じった水を口にした事があるが、とても言葉にし難い不快があった。特に鉄の味は嚥下に向かない。


 雨水が野生に汚染された水とするなら、こちらは人の手により、人の都合がいいように汚染した水。そういう事になる。


 僕は途端に気持ち悪くなり洗髪を早々に終えた。きっと疲れているのだ。過敏な反応もストレス社会が故に。

 

 取り出したる炭酸飲料を手にとって、テーブルの上に置き、よくよく見て、よくよく考えるとやはり汚い。汚くて汚くて仕方がない。容器を握る手が湿って気持ち悪く、どうしても口を傾ける気にならないのである。


 ガスが特に頂けない。これを添加して泡と舌に障るものを作り出している。そのせいで味も分かりにくくなって……もしや、飲料の味を誤魔化すためなのか?。中に入っているものを、なるべく気付かせないようにと。


 味が付いているのなら尚の事、何が混入されているかわかったものではない。僕は今までずっと、そんな簡単な事にも気付かず暮らしていたのか。


 深く、深く考えてみれば、そんな汚いものに溢れた生活を僕は送っている。家の中はとても汚れきっていて、思考が深まるたびに寒イボの一つとして浮かび上がる気分だ。


 冷蔵庫、冷凍庫の結露にだって触れる。料理のために野菜や肉の水分、指ないしは全身に蒸気として浴びる。


 トイレは言わずもがな、風呂場にはカビの胞子が常に舞っているはず。僕はその一粒一粒を肺に入れて、吐き出して、温水の気持ち良さに絆され、本来なら知っている危険性を後ろの方に置いていたのだ。


 そもそもの空気中にも水分で塗れている。動かずとも、何処にいようと常に全身に触れている。汚染の中で僕は、僕たちは生きているのか。


 水、水、水。何処にでもある水水水。飲んで、飲んだ物は、僕の体の中で巡り、そして排泄されていく。汚い、汚くて、恐ろしくて体が震える。


 人はその60%が水分で出来ている。なら、僕の大半はその気持ちの悪いもので構成されている。血液が、指先から頭の天辺まで、何処を見逃す事をなく、くまなく広がって汚染してる。それが僕の体。


 流れている血、血か。

 ……これが、これが一番汚いものなんだ。


 僕は動きにくい体を引きずって台所に向かう。よく研いで、切れ味が冴えた包丁が1本ある。


 警報を鳴らす体に反して、僕はゆっくりと手に取る。


 天気予報によれば1時間ほどで雨足は収まるようだ。


 この鬱陶しい雨粒の音色も、それを待たずしてきっと、直ぐに止むことだろう。



――――



 感染経路。ウイルスを保菌する動物からの咬創、掻傷、または粘膜を介して。

 

 アジア、アフリカ地域で広く分布し、150を超える国や地域で発生している。細かく見ていけば、数国を除いた大多数の国で被害を及ぼしている。


 年間4〜7万人の死者がでており、潜伏期間は1〜3カ月程度。咬創部位や、体内に侵入したウイルスの量で変わるとされる。


 特徴的な症状となれば、発熱、倦怠感、筋肉痛。錯乱状態になり、幻覚を引き起こし、他者に対する攻撃性を刺激する。やがては全身の麻痺を起こし、昏睡状態に陥り、呼吸障害により死亡する。


 名を狂犬病、致死率は約99%にも及ぶ。発症してしまえば最後、助かる見込みの少ない不治の病である。


 特に水を怖がる症状が有名だろう。嚥下筋に強い痛みが走る事から、水に対して強い恐怖を抱くようになる。痙攣しながら飲料水を受け取っている映像等はよく見られる。


 その別名は、恐水症である。


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― 新着の感想 ―
おもしろかった!!!主人公の「水にまつわる雑菌・ばい菌・汚らわしいもの」と、それに対する嫌悪感、不快感がリアルでよかったです!「もしかしてコレばっちいんじゃないか..?」と疑い出すとどんどんキリが無く…
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