9話「至近距離での銃撃戦!そして疑惑の匂い」
真夜中、公衆便所での死闘を演じる事となる早理華。
果たして彼女を襲った正体は?
周囲をランタンで照らしながらキョロキョロする早理華。
「何も居ないじゃない。」
ホッとする。
ブルッ。
軽く身震いする早理華。
「やだ…こんな時に」
オートキャンプ場に設置された公衆便所へ向けて早理華は歩き出す。
もはやお花摘み以外彼女の頭には無かった。
…それが彼女にとってマズイ結果をもたらす要因になろうとは、この時の早理華には思いも寄らなかっただろう。
……………。
ジャ〜…。
水の流れる音がする。
ホッと一息。
早理華は個室のドアを開けて出ようとした。
その時。
ギラッ
早理華の視線の先にある出口の暗闇に何かがあった。
暗闇に光る赤い光点が二つ。
それがユラリと動く。
「!」
瞬間的にソレが脅威と感じた早理華「サリカ」は咄嗟にドアをバタンと閉めた!
(な、何何?)
ガタガタン!
ドアが揺れる。
ドンドン、とドアを叩く音もする。
「すみませーん、入ってますー!」
早理華はついそう返してしまった。
ドアを叩く音が、揺らす音が止む。
シ…ン。
静寂が緊張感を増す。
早理華はドアに耳をくっつける、が、音はしない。
ホッとしながら壁に背中を付けた早理華が何気なく天井へ目を向ける。
と。
ギロッ。
個室と天井の隙間にソレがあった。
黒い顔?に赤く光る目が二つ。
「キャアアア〜〜〜ッ?!」
早理華は絶叫した!
そして何を思ったか修道院服のスリットから太腿のホルスターに手を掛けるとハンドガンを天井に向けて一発ぶっ放した!
パアン!
ビシッ!
天井のタイルに弾丸が命中すると、その赤い目は咄嗟に引っ込んだ。
そして。
バン!
再び赤い目が見えるとその手に持つリボルバーの銃身が天井と個室の間の空間から差し込まれ、その銃口が早理華へと向けられた。
「!」
彼女は咄嗟にリボルバーの銃身を掴むと蹴りを一発赤い目の顔面へとお見舞いする!
ガアン!
リボルバーから弾丸が発射された!
蹴られた拍子に思わず引き金を引いてしまったのだろう。
早理華の目が据わっていた。
恐怖のあまりかその反動なのか。
確かなのはハンドガンを手にした途端、彼女が攻撃的になったという事だ。
リボルバーの銃身から早理華の手を殴って払うと、赤い目が着地する音がした。
早理華の手の平が銃身の熱で少し火傷気味となりジンジンする。
しかし今の彼女はそんな事も頭に無い。
ドアノブに手を掛けて回し、ホンの少しだけドアを開ける。
その僅かな隙間から外を覗いたあと、彼女はハンドガンを構えて個室から飛び出した!
正面、そして左右へと銃口を向け警戒する早理華。
というよりトリガーに指をかけっぱなしで何時でも発射出来る体勢だった。
だが既に室内照明に照らされたトイレの建物内には怪しい影はいなかった。
「…いない?一体何処へ…」
そこへドカドカとシスター二人と男二人が駆けつけた。
全員それぞれ武器を手にしている。
「今の銃声は早理華なの?」
「どうした、何かに襲われたのか?」
聖姫と剣護に詰め寄られる。
「アハハー、威嚇発砲したら逃げられちゃいましたけどねー。」
…………。
結局、その赤い目の正体は不明だった。
早理華から話しを聞いた彼らは夜通し交代で見張りをしていたがソレらしい存在はやって来なかった。
「案外、早理華が銃をぶっ放したんでビビったのかもな?」
「い、威嚇ですよ?ちゃんと外しましたから!」
聖姫から火傷した手の治療を受け、包帯を巻かれた手を見ながら反論する早理華。
「聖姫からかうなよ、状況を聞いた感じだと早理華からすれば余程身の危険を感じたんだろうから。」
「そうそう、さっすが剣護さん話しがわかるう!」
「いや、犯人?の赤い目のヤツからしたらイキナリ銃撃ってくるような相手に近付きたくなくなるのも無理無いって。」
「それもそうね、とにかく早理華ちゃんに何も無くて良かったわ。」
「でも久里亜さん、赤い目のヤツが普通の人間で早理華ちゃんの弾丸が当たってたら面倒な事になってたんだぜ?」
「だから威嚇ですってば!」
「俺に散々撃ってきた銃吾がそれ言うかよ…。」
ともあれ何も無いうちにこのキャンプ場からずらかろうとする5人だったが。
…………。
『操作不能、管理人を呼ぶのでお待ち下さい。』
「おいどういう事だ?」
「変だね、来た時はちゃんと登録出来たのに。」
「管理人とやらはいつこられるんですか?」
「そこまではわからないみたいね。」
「勘弁してくれよ、出発が遅くなるようならもう一晩ここに泊まる事になりそうだ。」
「それって、また夜中にあの赤い目に会うかもしれないって事じゃないですか?」
シーン…。
「ああ、仕方ねえ!」
「ここには二人残って管理人来るの待ってろ、他のメンバーは赤い目のヤツが潜んでないか調べに行くぞ!」
銃吾は小銃を手にした。
「そんな、森の中広いんだよ?たった三人でアテもなく探したって…」
「そうだぞ、それに今ヤツが森の中に隠れているとは限らん。」
「じゃあ夜中まで待つのかよ?」
「そりゃ、その方が危険だが。」
「なら明るいうちに打って出るべきだろ?」
「無闇に森の中に分け入って猛獣に出くわす可能性もある。」
「それも嫌だけどね…。」
「それならいっそこういうのはどうです?」
久里亜のアイディアに皆たまげた。
「明るいうちに寝ておいて夜中ヤツを全員で迎え打つって、本気ですかぁ?」
「本気よ早理華ちゃん、全員で対処する方が安全だもの。」
「まあ待て、管理人が早く来てここから出発出来ればその必要も無い。」
「剣吾の言う通りだよ、もう少し待ってから決めよう?」
と、そこへ。
「いやあ〜、お待たせしました。」
彼らの背後から頭頂部の薄くなった初老の男性が現れた。
クンクン。
早理華は身構えながら聞いた。
「おじさん、貴方は誰?」
「私かい?私はここの管理人だよ。」
「…貴方、狩猟とかされますか?」
「い、いいや?」
「変ですね…なら何故貴方から硝煙の匂いがするんですか?」
早理華はチャカッ…とハンドガンを抜いてその銃口を管理人と称する男へと向けた。
疑惑の硝煙の匂い。
管理人の正体や如何に。