8話「野営の闇に紛れるモノ」
他愛も無い会話と夕食で団欒の時間を過ごした面々はそれぞれの寝場所で寝る事に。
事件の予感が訪れたのはその時でした。
夕食はシチュー、パスタ、ステーキと中々豪勢だった。
…ただ、
「レトルトばっかだな。」
剣護がつい正直な感想を口に出したのも無理はない。
だが用意した聖姫からすればこれは面白くなかった。
「文句あるなら食うなよ、これは元々私らの保存食なんだからさ?」
楽しい夕食。
だがどれも非常食。
味は問題ないのだろう、
無いのだけれど…。
剣護も悪気は無かった。
だからちょっとだけフォローもしておいた。
「失礼、レトルトだけじゃ無くて缶詰めもあったな。」
聖姫も別に怒ってたワケでは無かったようだ。
「わかればよろしい。」
剣護が夕食の不満を愚痴るとすかさず聖姫がたしなめる。
ちょっとしたコントのような掛け合いだ。
(なんだか剣護君て聖姫ちゃんの尻に敷かれる旦那みたいな雰囲気ですね早理華ちゃん?)
(剣護さんのバカァ…)
コソコソ話す久里亜と早理華の目が据わっている。
「…何で女子達は剣護の近くに集まってるんだ?」
銃吾は夕食の場でも女子達からは空気のような存在だった。
………さて、食事も後片付けも終わり、温かいお茶を飲みながら少し雑談タイム。
「で、ぶっちゃけこれから君達は何処に向かうんだ?」
銃吾がシスター達の次の派遣先について聞くと皆真剣な表情になった。
まずは早理華からこの質問にこたえた。
「私達が向かう先は勿論私達を必要とされる場所になります。」
「てことはメタルファントムの憑依現象が見られた場所か。」
「はい。」
「基本的に私達は浄霊関係や防衛関係の職務に就く事になります。」
「現在はシスターですが派遣先に依っては巫女だったり女性警察官だったりです。」
これに聖姫もと久里亜も付け加えた。
「私達の先輩は看護師だったり教師だったりも経験したらしいけどね。」
「まあ私達はその先輩達よりは若いのでアルバイト関係の役を割り振られるかも知れませんけど。」
「ふーん…」
剣護はジロジロと早理華達の着ている修道院服を眺める。
そしてこう尋ねる。
「この前君達が変身したヤツ…バリアブルウェアとか言ってたじゃん、アレはその修道院服が変化したものなのか?どんな仕組みになってんのか教えてくれよ。」
ギクッ
早理華の顔に擬音が刻まれた。
「な、なんのことやら…?」
(早理華、顔に出過ぎ!)
聖姫は頭を抱えた。
早理華の表情を見た剣護は
これは情報漏洩させちゃマズイ事だと気付き話しを変えた。
「と、ところで今度の派遣先でもシスターなのか?」
「現地の待ち合わせ場所で打ち合わせの予定です、その内容次第ですね。」
「何だよ剣護、もしかしてオマエはシスターフェチだったのか?」
「ち、ちげーよ、誤解招く事言うな銃吾!」
「ふーんやらしー。」
「不潔ですね。」
聖姫と久里亜がジト目でからかった。
剣護は温くなったお茶をゴクゴク飲み干す。
「もう寝る!」
剣護は自分のテントに潜り込んだ。
「あらら、怒らせちゃいましたね皆さん?」
今度は早理華が聖姫達をからかう。
「私らは悪くないよ、最初に誤解招くような発言した銃吾が悪い。」
「ですねー♪」
「お、俺に罪擦り付ける気かオマエら?」
「さ、もう私達も寝ましょうね?」
早理華が強引に会話を打ち切ったので雑談タイムはお開きとなった。
「ちぇっ、また一人で車中泊か。」
銃吾はブツブツ言いながらクルマの中に入った。
辺りは途端に静寂に支配される。
……………。
………動き出したのはそれからだった。
その存在はサラサラと風になびく草の音に紛れコッソリと近づく。
その時点では誰一人そして近づいて来る存在に気付かず、徐々に睡眠が深まっている最中だった。
しかしギュッと土を踏む音、砂や小石の擦れるジャリッという音、枯れ草を踏む時のシャリ…という音が僅かに、ほんの小さく鳴る。
そして小枝や枯れた太い茎が踏まれて折れる時に生じるパキッと言う音が鳴れば、流石に反射的に目の覚める者もいる。
運転に疲れた男達は直ぐには目覚めなかった。
レトルト食品茹でて食器を並べるだけとはいえ一応作業した聖姫もスヤスヤと入眠していた。
そしてバイクの後部座席に乗る事で意外にも疲労していた久里亜もまたグーグー寝ていた。
…………「?」
つまり本日はクルマの後部座席でヤキモチ妬いただけの疲労してない早理華が一人が眠りもまだ浅く、直ぐに起きれたのは当然の帰結だった。
(…空耳?)
気にせず寝るつもりだった彼女だが、またしてもパキッと音が鳴る。
(動物でもいる?)
(も、猛獣とかじゃ、無いよネ…。)
犬猫や狸、その他の小動物だろうと思い込み無視しようとも考えた。
けど自分が寝ている場所は頑丈な車両の中ならいざ知らず、布一枚で覆われただけの普通のテントだ。
(何か大きな獣がいたりしたら…洒落にならないよね。)
「き…聖姫さん、久里亜さん?」
二人の身体を軽く揺するも、その程度では二人とも起きなかった。
もしかして目は覚めたのかも知れない。
でも普通は深まっていく入眠中、大声で叫ばれたり強く揺らされたりでもしなければ中々起きる気にもなれないだろう。
「はあ…」とため息をついた早理華は何があっても良いように拳銃とダガーを太腿に装着し、修道院服に着替えると乾電池式のランタン片手にテントの外を覗く。
キョロキョロ見た感じだと何もいなさそうだ。
(…よしっ)
早理華は意を決して外に出た。
果たして夜中テントに近付いて来たのはナニモノなのか。
そして一人それを調べようとした早理華の運命は?