3話「金と腕力と私情?」
借金取りの催促を受けた三人のシスター達。
これを何とかするのですが、そこには用心棒が…?
『さっさとここを開けねーかー、コラーッ!』
ドンドン、ドンドン!
ドアを叩く音が大きくなる。
「先生〜。」
「お姉ちゃん…。」
子供達は不安気にシスター達の後ろに隠れる。
「大丈夫よ。」
早理華は子供達を別の部屋へと入れた。
「さて…無いものはどうしようもありませんね。」
「て事は、飴か鞭のどっちかだね。」
「飴はともかく鞭を与えたら報復が面倒ですよ?」
「こうして真正面から来てくれるならともかく、汚い手を使われては困りますからね。」
三人のシスターはあーでもないこーでもない、と話し合い始めた。
「う〜ん、言われてみればそうですね?」
「でもそうなると…飴?」
早理華と聖姫はジーッと久里亜を見た。
「だ、駄目ですよ!私は男の人が苦手なんですもん!」
久里亜は慌てて拒否した。
ドンドン!!
『いい加減にしねーとドア蹴破るぞコラ!』
「チタン合金製の対物理兵装用ドアをどう蹴破るつもりかしら?」
何故孤児院にそんなモノが使われているのだろう。
その理由はやがて明らかになる。
…筈だ、多分。
「はいはい今開けまーす。」
早理華は「チッ」と舌打ちした。
この時、剣護は思った。
早理華って三人の中で一番普通そうだけど中身は案外腹黒なのかも?と。
実際、剣護が確かめるように聖姫の方を見て早理華を指差すと、
彼女はその意図を理解して「ウンウン」と頷くのだった。
ガチャ。
ドアが開いた途端にヤクザ風の金貸し達がゾロゾロと入って来た。
「やっと開けたか!あんまり俺達を舐めてると…」
「ハイハーイ、話しは外でお聞かせ願えますかー?」
グイグイと金貸しらしきヤクザ風の連中をへやの外へ押し出す早理華。
「お、おい彼女結構力持ちなんだな?」
「ま、まあ…ね?」
聖姫の目が泳いでいた。
「わ、私達も外出ましょうか一応?」
男性は苦手と言ってたはずの久里亜は聖姫の手を引いて部屋の外へ連れ出した。
「ちょ、ちょっと先輩、私まで?」
「早理華ちゃんだけじゃ流石に心配でしょ?」
「全くう〜。」
剣護はポツンと部屋に一人残された。
「え〜と…。」
「オレも加勢に行くべきなのか?」
仕方なさそうに椅子から立ち上がる剣護。
「お兄さん…。」
「ん?」
振り返りるとドアから女のコが覗いていた。
「大丈夫だと思いますよ?」
「前にも先生達、借金取りを追い返してましたから。」
「でも人数が…。」
今度は別の男の子がドアから顔を出して喋る。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん達強いから!」
「気が強そうなのは見ててわかったが。」
ドスッ、ビシッ、バシッ!
「何だ?」
外から当て身の音がしたのが聴こえると、剣護は外へ飛び出した。
彼の片手にはあの革製カバーの中にあった長剣を持たれていた。
「どうした、無事かシスターさん達?」
剣護が駆け寄ろうとすると。
「あ、ケンゴさん?」
「あちゃ〜」
「こ、これはその…。」
三人はバツが悪そうに剣護の方を見た。
剣護が見たものは、三人のシスターの足元に転がるヤクザ風借金取り達だった。
「何が…あったの?」
剣護は何となく何が起きたのか察したものの、確認の為敢えて三人に聞いてみた。
「最初、返すお金も払える利息も全然無いってハッキリ言ったんですね、そしたら…。」
「事もあろうにソイツらがアタシ達を借金のカタに売り飛ばそうとしてね。」
「で、借金取りの一人が私の肩に触れて来まして…」
久里亜が自分の肩に伸びてきた手をグッ、と掴んだ所作を実演してみせた。
「こう…」
続けて久里亜は自分の肩に手を伸ばしして来た相手をぶん投げる所作をしてみせた。
「…と、言うわけでございます。」
まるでついウッカリ、みたいな言い方だった。
しかもオホホホと小さく笑ってさえいる。
つまり、まるで罪悪感は無いという事だ。
それどころか「やってやったぜ!」というスッキリ感すら感じさせていた。
「そうそう、それでアタシにも(この野郎!)とか言って掴みかかってきたからさ。」
聖姫は足払いと掌底を打ち込む所作をしてみせた。
「と、こんな感じかな?」
見れば聖姫の足元には三人のゴロツキのような男達がゴロンと転がっている。
それを見た剣護は嫌な予感がした。
「…て事は、早理華も、か?」
「当然です!」
「事もあろうに私には殴りかかってきたんですよ?頭来ちゃうでしょう?」
「だから、こうやり返したんです!正当防衛ですよ!」
シュシュシュ、シュッ!
と擬音を発しながらパンチとキックを繰り返す早理華。
彼女がハイキックを繰り出した時その白く眩しい生足がギリギリの領域まで見えてしまい、剣護は思わず目を逸らした。
そして恐る恐る彼女の足元を見ると、やはり三人のゴロツキが顔に青タン着けて寝転がっていたのだった。
「ちい〜っ、この暴力女どもめ!」
その声が聴こえる方を見ると、そこには長身の男の陰に隠れるように立っている恰幅の良いチビがいた。
悪趣味なデザインのスーツと成金趣味な指輪やアクセサリーを着けてるところを見ると、どうやらこの男が金貸しでシスター達の足元に転がってるのは雇われたチンピラというところか。
「先生、ここはお願いしやす!」
恰幅の良い男…金貸しはそれだけ言うと逃げていった。
すると長身の男は手に握っていた札束をギュッと握り締めるとズボンのポケットにしまい込んだ。
「ま、貰うもん貰ってるから一応やるけどよ。」
ユラリと長身の男は背中に隠していた長物をシスター達に向けた。
「オレとしては嬢ちゃん達と事を構える気は無いんだがな。」
「はん!貴方も高利貸しの仲間なんでしょ?いいわよ来なさい、相手してあげるから!」
早理華が息巻いていた。
どうも彼女は見た目と違い直情的で喧嘩っ早いのかも知れない。
「待て待て、人数はこっちが多いけどアイツ何か持ってるよ?」
「そうですね、ここは穏便にお帰り願えませんか?」
「シスター…オレは金で動いてんだ、それならそれでソッチからこれ以上の価値を提供してもらわないとな?」
再び男はポケットから札束を出して見せた。
そこへ。
ビュッ!
バシン!
ボールが飛んできて男の手を弾いた。
途端に手にしていた札束が風に舞う。
「あああ〜っ?!」
三人のシスター達が勿体無さそうに声を挙げた。
「やれやれ…。」
対して男の方はさして興味無さげな声を出した。
「なんて事をしてくれたんだあ?」
「え?剣護ちゃんよお。」
「抜かせ。」
そう、男にボールを投げつけたのは剣護だった。
「素手の女のコ相手に銃なんか持ち出してんじゃねーよ!」
チャキッ。
剣護は長剣を構えた。
「最初から俺を追ってたんだろう?なら俺を相手にしな!」
「まー請け負った金も無くなっちまった事だし…」
「仕事の方はもう終わりだ!」
「何時通り勝負だ、剣護!」
男は包みからライフルを引き抜いた。
「来い、銃吾!」
両者は向かい合いながらザザッと横走りを始めた。
三人のシスターはそれを遠目で眺めていた。
「えーと…何か向こうは向こうだけで盛り上がってますけど…。」
「宿命のライバルっぽいねえ。」
「じゃあ、私達はこの燃えないゴミ達を…。」
コツン。
「コラ、起きやがれ。」
聖姫が爪先で転がっているゴロツキ達の頭を蹴って起こす。
「て!てめえら!」
「あ、威勢良くしても無駄ですよお?」
「貴方達の両腕は後ろ手に縛って置きました。」
「私達に構うより、先ずは雇い主に解いて貰う事ですね。」
ゴロツキ達はヨロヨロ起き上がった。
「さ、早くしないと日が暮れちまうよー?」
聖姫が小バカにするように追い払う。
「く、くそ、ずらかるぞ!」
「覚えてやがれー!」
清々しいまでに雑魚悪党らしい台詞を残してゴロツキ達は去っていった。
「一件落着、ですね♪」
いい顔しながら早理華がニカッと笑う。
「てか、アレどーする?」
キンキン!
パンパン、パアン!!
遠くで銃声と剣戟が響いていた。
剣護と銃吾の二人が激しくやり合っているようだった。
「ほっときましょ、暗くなるか弾丸切れになれば終わるでしょ?」
久里亜はヤレヤレ、と両手を広げるポーズを取った。
ゾロゾロと三人は孤児院の中に引き上げていく。
「お二人ともー、日が暮れるまでに終わらせてくださいねー?」
早理華が声をかけた。
ピタ…と二人が止まる。
「弾丸切れ…か?」
「…手伝え。」
「オレは飛んでった札束探す。」
「…何で俺がオマエの弾丸拾わなきゃなんねーんだよ?」
「約束忘れたとは言わさんぞ?いいか、三十発分キッチリだからな!」
「なー、いい加減あの約束無しにしねーか?」
「まだその期限では無い!」
やいのやいのと言いながら二人は後片付けを始めた。
…と、ドアノブを掴もうとした早理華が突然の横風にいきなりぶっ飛ばされた。
ズオオッ!
「キャーッ?!」
ゴロゴロ転がる早理華を追いかけるシスターの二人。
「な、何だ突然?」
「大丈夫?」
「アタタ…。」
早理華は聖姫と久里亜に両側から起こされた。
彼女らの視線の先にいたのは…!
剣護と用心棒の(ジュウゴ)は一体どんな関係なのか?
そして早理華を吹っ飛ばしたのは何者なのか?