1話「三人のシスター」
前作「憑依神現武」の設定を活かした別作品です。
前作は途中からR15設定としてしまったので、
今作は最後まで全年齢作品で通したいと考えてます。
とある田舎町。
そこには寂れた教会と孤児院が有った。
「お…まだここに有ったか。」
そこにひょっこり現れた風来坊。
彼はバイクに跨ってここまで辿り着いたようだった。
「何の手土産も無いが…暫くぶりに覗いてみるか…」
バイクから降りた彼の顔面に向かってボールが飛んで来た。
バシン!
「危ねえなおい。」
彼は片手でそのボールを受け止めた。
「お兄ちゃーん、ボール返してー。」
「うっせえ、気をつけやがれ!」
彼はボールを飛ばして来たであろう少年へ向かってダイレクトに送球した。
ビシッ!
「す、すげえ、手が痛い…!」
ボールを受け止めた少年は感心した。
「たく、保護者は誰だ!」
イラつくように彼が言い放つと少年の傍から声がした。
「す、すみません…。」
そこに現れたのはシスターらしき格好をした金髪の女性だった。
「私が一応この子達の監督役を任されております、ご迷惑おかけしました。」
「お、おう…まあその、元気があって結構です、アハハ…。」
風来坊は若くて容姿の良いシスターを見るなり態度を変えた。
若い男性ならありがちな事だ。
「先生…」
クイクイ袖を引っ張る少年に目配せするシスターはこんな事を言い出した。
「あの…ホンのお詫びと言えばなんですけど…お昼を食べていかれませんか?」
「丁度あそこの孤児院で食事の準備をしているところでして…。」
「ほんとか?そりゃ丁度良い。」
「実は俺もそこを覗いて見ようかと思ってたんだ。」
「なら話しは早いですね、どうぞこちらへ。」
三人は連れ立って孤児院の方へと向かった。
「…アレは…。」
一方、そんな様子を遠くから見つめる影があった。
「そうか、こんなトコにいたのか…。」
その男はニヤリと笑った。
……………………………。
ガヤガヤ…。
「さあお入り下さい。」
「みんな、お客様がいらしたから静かにしてください。」
シスターの言葉に部屋の中で騒いでいた子供達が静かになる。
「あー!どこ行ってたかと思ったら男引っ掛けてるー!」
その部屋で配膳準備していた銀髪シスターが目敏く金髪シスターを見つけると文句を言ってきた。
どうやら手伝いもせず何やってんだ!という意見らしい。
ガチャ。
「え?何々お客さん?」
「それかもしかして、その方は早理華ちゃんの彼氏とか?」
「んなわけあるかいっ!」
スパン!とドアから覗いていた黒髪シスターの頭を丸めた新聞紙ではたく金髪シスターだった。
その様子を連れて来た男に見られた金髪シスターはコホン、と照れながら咳払いする。
「失礼いたしました…紹介が遅れましたが、私はここでこの子達の世話係を任されている原石早理華と申します。」
「こちらの配膳中の人が」
「…城下聖姫だよ。」
「そこのサリ…いや、原石とは同僚でアタシが一年先輩だ。」
無愛想に銀髪シスターが自己紹介した。
「で、そこのドアから覗き見してる黒髪さんは?」
男が尋ねるとその黒髪シスターはビクッとした。
「す、すみま、せん…私、大人の男性は少々苦手、でして…。」
「ああ、彼女は私達の更に一年先輩に当たる人で…」
「私の名前は井八洲久里亜です…そんな理由でして、お客様相手は専らサリカちゃんとキヨメちゃんの二人に任せてるんです、すみません。」
「あ、ああそう、無理しなくていいよ。」
男は気不味そうに苦笑した。
「ところで、貴方はどんな方なんですか?」
早理華から聞かれ男はこう答えた。
「え?…あ、ああ…俺、な…。」
少し男は照れ気味になる。
「ここは…俺の…古巣なんだ。」
「古巣…?」
「で、では貴方はここの出身なんですか?」
「ああ。」
「ここの園長がまだ代わってなければ覚えててくれてるかも知れない…。」
「園長は暫く不在です…ここの経営資金の為出稼ぎなさってまして…。」
「そ、そうなのか?」
「いや、居ないなら別にいいんだ、俺もそんな長居するつもりも無いし…ちょっと寄ってみただけだからさ。」
「そうなのですか…ところで、貴方は何をされてる方なのですか?」
早理華は両手を後ろに組み、男を覗き込むようにして質問した。
その視線が彼の持ち歩いている長物に向けられている事に気が付いた男は少し焦ったように長物を後ろに隠した。
「い、いやあ…ちょっと釣り…で食ってるもんでな…。」
「お魚屋さん?」
「ちげーよ。」
「釣った魚食ったり市場で売って金にしたり…そうやって住むところを気兼ねなく転々としてんだ…。」
くんくん。
「…それにしてはあまり磯臭くないような…。」
いつの間にかドアから出て男に近寄っていた黒髪シスター、久里亜が男と長物の匂いを嗅いでいた。
「のわっ?!」
男は驚いて仰け反った。
「こらっ、いきなりはしたないですよ久里亜先輩?」
早理華からメッ、と言われてシュンとする久里亜。
「どっちが目上かわかんねーな…。」
男が呟くと、銀髪シスターの聖姫がウンウンと頷いていた。
「久里亜先輩、もう少しドシッと構えてればいいのに中身がねえ…。」
「て、話しが逸れました!」
「貴方がここの出身がホントだとしても、一応ここのみんなの安全の為に何か身分を証明するものを示して欲しいんですけど。」
「持ち合わせねー。免許証くらいかな?」
男は免許証を見せた。
それを凝視する早理華。
「えー…と…、真森剣護?」
「本名じゃない。」
「その名前も本籍も、子供の時に一度世話になった家族から貰った名前だ。」
久里亜が尋ねる。
「ではそこが今の貴方のご家族?」
「…アイツらにやられたよ、散り散りで生死不明だ。」
「そう…アンタもか…。」
聖姫の表情に影が射した。
「…も?」
「じゃ…アンタらシスターも?」
「ああ、アタシ達は今でこそココのシスターだがガキの時はここの孤児だったんだ。」
聖姫は黒歴史のように忌々しそうに吐き捨てた。
「だから名前もアンタも似たようなもんさ。」
「養女として貰われた先で付けられた名字か?」
「そんなとこ。下の名前は元からだったり…まあ色々と、ね。」
クイクイ。
「せんせー、早くお昼にしよー?」
センセー、センセー!
孤児達が食事を急かした。
「そ、そうだったねゴメンナサイ!」
早理華は暗くなった表情をパッと明るく切り替えた。
「ウフフフ、じゃあ真森さんもご一緒に食べていって下さいな?」
久里亜が真森剣護の手を引っ張って席につかせた。
そして賑やか食事が始まった。
食事自体は質素なモノだ。
根菜とジャガイモのスープ、そしてライスの二皿。
このライスに剣護の目が輝いた。
「へえ、米なんて久しぶりのご馳走だ!」
その剣護の声に早理華は嬉しそうにそのライスについて語った。
「ここはまだ水田で稲作続けている農家が多いんです。」
「おかげで幾らかクズ米を貰えるんです、お金を出して小麦粉買うより食料を得やすいんです♪」
「稲作、農家…。」
「いいね…ちゃんとメシとなる食料を栽培出来る人達と農地が無事なら、人は生きていける…。」
早理華は微笑んだ。
「そうです、人は綺麗な水と食べ物さえあればそれだけで生きられるんです。」
その言葉と表情に剣護は感じるモノがあった。
気が付くと、それは聖姫と久里亜も同じでウンウン、と頷いていた。
今回は導入部分。
主要キャラとなる三人のシスターと男性キャラ、そしてまだ正体不明の男。
今後前回の設定が生かされて来る予定ですが、前作の世界や登場人物達との関係性についてはまだ未定。