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栗村長

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 う~ん、こうやって墓誌を見てみると、自分が生まれる前の人たちって本当にいたんだなあ、と感じるね。

 びっしり埋められているものを見ると、本当に歴史を感じるよ。

 中には、自分より若い歳で亡くなられている人だっている。年々、生きてさえいれば、その下に逝く人を負っていくことになる。

 亡くなられた人が、生きられなかった時間。いかように過ごしていくべきか……と、哲学チックに考えられるのは心にゆとりがあるか、命が燃えているときだな。

 ただ生きていくだけで、精いっぱいのときもある。それもまた悪いことじゃなく、生きることそのものが大切なのかもしれないな。長く生きるのは、命あるものの願いでもあるし。

 そして長く生きることに成功できたならば、それは格別の力を得ることができるかもしれない。

 僕が以前に聞いた話なんだけど、耳へ入れてみないか?



 むかしむかし。

 とある村では、代々の村長のお墓を村近くの丘の上に設けていたそうだ。

 その墓石は100近い数にのぼっていた。村ができてより数百年の間、この墓を用意し続けているとのことだった。

 当時、主流だったとされる屈葬でもって埋められ、ひとつの穴にひとつずつ。相当な面積を誇っていただろうけど、初代村長から言い伝えられたことがある。

 自分が眠った土の上に、栗の木の苗を植え、面倒をみてやってほしい、とのことだった。


 栗の木は、古くから食料から道具の材料にまで広く愛用されていたものだ。

 それを自分の身の上に……というのも、広く長く人々の役に立ちたいという村長の思いのあらわれであろう。

 そう感じ入った村民たちは、乞われた通りに苗を植えた。

 三代目の村長が仕事を務めるときには、すでに周囲の他の木々に劣らないほどの成長を遂げていたとされる栗の木は、なおもでかくなることを止めなかったという。


 その栗の木に関して、少し不思議な言い伝えがある。

 19代目の村長の時世に、かの栗の木へ雷が直撃したというんだ。

 幹が真っ二つに裂けたばかりか、その全身は赤々とした炎で包まれ、丘全体の草たちにも飛び火。

 18代目までが眠る丘は、一昼夜をかけて焼け野原と化してしまったんだ。

 ここから先、丘が元の状態を取り戻すには、かなりの時間を要するだろう……と、大勢が思っていたらしい。

 ところが、数カ月もするころには丘の緑ばかりか、栗の木そのものもまた、新しい苗が土より顔を出すまでになる。

 成長はいちじるしく、ものの半年が経つころには、栗の木こそ先代にはいまだ劣るものの、他は依然とそん色ない丘が再現されていたそうなんだ。


 初代村長のご遺志が生きている。

 目の当たりにした人は、皆がそう感じ、ますますかの丘を守る気持ちを強めていった。

 代々の村長はこの丘に身を埋めることを、至上の誉れとし、その伝統が守られていったことで、ついに100を数える身がそこへ蓄えられる運びとなったんだ。


 ――仮にも、人の眠るところに関して「蓄えられる」とか失礼な表現じゃないか?


 ああ、本当に純粋な墓としてならね。無礼な言いようであると思うよ。

 けれども、その丘も役目を終えるときがやってきたんだ。



 その晩は、まるで昼間のような暑さの熱帯夜だったという。

 かの丘の墓たちには献花が絶えることはなく、常日頃、みずみずしい花が捧げられていた。

 しかし、当代の村長の末子にあたる女の子は、自分が寝苦しいのも手伝って、なかなか眠れずにいたそうだ。

 ふと、お墓の花が枯れていやしないかと、不安が頭をよぎる。当時の花のお世話を自分から引き受けていた彼女は、夜の間も枯らしてしまうのをよしとしなかった。

 地下まで続く蔵の中に、保存していた花たちを手に取ると、ひとりご先祖の墓のある丘へと向かったんだ。


 さほど遠くはない道のりだが、その途中で彼女は数度の地揺れを感じる。

 単なる地震にしては、振動は短くて断続的。そのうえ規則的なものに思え、まるで誰かの足音のよう、とは女の子の談。

 実際、彼女が墓近くまで足を運んだところ、丘は根元の部分からぱっくりと途切れてしまっていたんだ。

 ただ土が割れ、崩れてしまったわけじゃない。月明かりの向こう、いくぶんか離れたところには、見慣れた大きい栗の木がかすかに揺れているのが見える。

 その木が上下に動くのに合わせて、地面が先ほどよりはっきりと強く、揺れ続けていたのだとか。


 丘がひとりで、歩き回っていた。

 すっかり肝をつぶしてしまった女の子がそう語っても、容易には信じてもらえない。

 ただ、丘の斜面に差しかかるあたりに、不自然な地割れのようなひびが入っていたのは確認されたのだが。

 そしてかの丘は女の子の証言があった数十年後に、強い強い嵐が吹き寄せた日に、「ぼきりと折れた」。

 その瞬間を見た者はいなかったが、丘が一日にして姿を消し、かつて確認できた地割れより先が、山肌の下へ落下していたんだ。


 粉々の土砂となった丘だったが、そこから見つかる代々の村長の遺骨は、いずれも微細な大量の根に絡まれていたという。

 その根の元は、あの栗の木。そしてその真下にあった村長の身を、まゆのようにしっかり包んだ箇所から、無数に伸びていたというんだ。

 その状態から、初代の村長は栗の木と一体になって、多くの子孫を土の下に待ち受けながら、丘ごと新たな生を謳歌しようと、生き続けていたのではないか……などと考えられたのだとか。

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