【新妻戦略】策士の姉
記憶の中のおねえちゃん強すぎ!?
いや、おねえちゃんだって怖がっていた。
俺の守るべき人なんだ。
あの後、レベルが上がってるのが村長にバレてこっぴどく叱られた。
戦った事をではなく、必須の知識なく戦ってしまった事を、だ。
戦いというのは、ケガをする以外にも大きなリスクがある。
それは適性による無情な死だ。
魔法使いの適性がある人はレベルアップによる魔力の伸び幅が多く、レベルアップによって急激に伸びた魔力のせいで死んでしまう。
急に得た魔力を前までの制御力で制御できずに……魔力が暴走、体が破裂する。
最初のレベルアップをするまでは適性が分からないので訓練で自分の適性を知り、もし魔法使いの適性があるならば、制御力を余剰に鍛えてから訓練で上げることのできる初士……レベル1にレベルアップするのが基本なのだ。
最初のレベルアップを訓練でなくモンスター狩りでするのは事故死を防ぐために違法であり、あの時は巻き込んで誰も死ななかった上に身を守る為なので、緊急避難として許された。
巻き込む、というのはレベルアップとは戦った者だけがする訳ではなく、倒れたモンスターの周囲に居る者がレベルアップしてしまうのだ。
敵の強さによってその安全距離は変化するが、俺は目の前で守られたので、震えていただけなのにレベルアップした。
自分が弱者なのは今まで生きていて、十分に理解してるつもりだけど……。
あの時の、おねえちゃんの知らないうちに死にかけていた事を怖がる表情はおねえちゃんもまた、守るべき人なんだと俺に刻みつけた。
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「おねえちゃんを守るんだ」と俺は奮起していた。
簡易の扉を押し開けて傭兵ギルドから出てきた俺とおねえちゃんは、初めてのダンジョンへ出発する。
胸には初士と打ち付けられた銅板のギルド証が付けられている。これは傭兵ギルドに登録した証だ。レベルの上昇と共に、またハンマーで直してもらうらしい。
俺は傭兵に成ったんだ!
守るべきおねえちゃんと一緒に……?
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傭兵ギルドで教えてもらったダンジョンへの道で、戦士の仕事について考えている。道にはたくさんの足跡が残されており、多くの戦士がここを通ったことを裏付けている。
戦士の仕事は日々増加するダンジョンを見つけ報告したり、ダンジョンに潜り下級モンスターのドロップアイテムを回収することだ。
モンスターはダンジョンの殺人端末と言われており、生物ではない。
嫌がらせに血は流すのに倒せば血も死体も残らず消えて、一定の物品だけが残るのだ。
大量の資源が湧きだす穴であるダンジョンは、この国の一大産業である。
道中、おねえちゃんに一体どういう経緯で移住の書類を書いたのか聞くと、話の流れが段々と分かってきた。
「ローズが教えてくれたんだよ~」
原因はお隣の才女ローズだ。
「ローズか……」
ローズは隣に住んでいた女の子で、今は東の大都市アテナにある学校で、開拓者の勉強をしている。開拓者は突出した戦士である大戦士と共に土地の開拓をする職業であり、自分が大戦士になって開拓を主導することもあるエリートだ。
彼女は質問されるのが好きで、良く話を聞きに行くおねえちゃんと親友。
あのローズなら、おねえちゃんの質問は調べてでも全力で答えるだろう。
天才の全力が法の穴をすり抜けて、おねえちゃんの願いを全て叶えてしまったのだ。
ローズは察しが良すぎるので、俺が内心でおねえちゃんにべったりなのも気づいている。
結局のところ、この誰も損をしない状況を作り出したのはローズだ。
あの才女、願いを叶える願望機か何かなのだろうか?
おねえちゃん以外の願いは叶えそうにないのが、安心な所だが人は変わるから心配だ。
そんな心配をしていた俺は、初のコボルトに大苦戦。
自分の心配をするべき有様だった。
そして俺の守りたい美しい人は、とんでもなく強かった。
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おねえちゃんが借りた仮住まいの宿にて。
結局、おねえちゃんの荷物持ちに就任した成り上がり志望の俺は、現実逃避から帰ってくる。
おねえちゃんの胸の中で!
見上げるとおねえちゃんはまだ長いまつ毛を閉じ、安らかに眠っているようだ。
俺の理性が再び試される……。
情けない事だが再び精神の中で、鋼の相棒と俺とに別れて愁嘆場を演じ始めた。
俺たちは俺が身じろぐ度に出る、おねえちゃんのちょっと色っぽい声に気が付くと、全ての目的や思考と感情を一旦置いておき人機一体となり、身じろぐのを耐えるだけのしょうもない置物に成り果てた。
「んふふ~」
そんな俺を抱くおねえちゃんは楽しい夢でも見ているのか、微笑んで眠っている。
おねえちゃんの策に鋼の相棒は苦しんでいます。(笑)




