【福来たる】旅立の姉
おねえちゃんの桃髪とローズの金髪に挟まれながら冊子の文字を読み直す。
読んでも読んでも書いてあることは変わらない。
みんなで小首を傾けながら、何度も読み直している。
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・『小長』になったあなたは戦士としては熟練五人分に当たります。
・『小長』は六つ目のレベル、レベル6の事です。
・貴方は個人で小隊戦力級、他国の切り札である騎士5人と同等。
・収入面では従士からは日給、時価となります。これはあなたが戦士としてあるための収入となりますので、更に戦士的にあれるように向上心を持ちましょう。
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何度読んでも、5レベルの5倍と言う戦力評価がされている……!
そこまで身体の出力が高まってるのか?
普通は使うチャンスのない騎士ダッシュを経験したおかげで、5レベルの全力の凄さは知っている。
アレの5倍か……。
「レベルが上がるほど出力の上昇幅も上がるのは常識ね。精神も頑強になるから、もうクロは大丈夫よ!」
何とか飲み込んだらしいローズは、いつもの常識で知識マウントしてくる。
精神も頑強になるのか!
知らないことを教えて貰えるのは本当に助かる。
「クロ、平気になったんだね~! 足が速くなるなら旅行も自由に出来そう~」
おねえちゃんはローズのお墨付きを聞いて安心したみたいで、良いことを思いついたように手を打った。
本当に心配をさせてしまって申し訳ない。
あの速度以上なら海外旅行も余裕だと思うけど……。
「旅行に行ってみよ~!」
おねえちゃんの鶴の一声により、庶民感覚の抜けきらない俺はもったいないと感じてしまうけど途中で宿を引き払い。旅立つ事になった。
宿は俺たちの急な旅立ちに悪い顔一つしないで、料金の過払い状態だから代わりに持って行ってくれと、日持ちする高級な野菜の甘い芋、ドライフルーツやクッキーなどの甘味を山ほど持たせてくれた。
待機状態の魔導鎧へ荷物を括り付けて用意完了だ。
戦士は自由だ、力が有るのなら!
おねえちゃんは自由だ、力が有るから!
「東の小さな町へ、行ってみたかったんだ~」
「外国も面白い所がたくさんあるんだって~」とおねえちゃんはローズに色々な知識を授けられているので、世界を巡って旅行する気満々だ。
「いつも戦ってばかりじゃナンバー20みたいになるか。いいわ!」
「時間はあるわ」とローズもナンバー20を反面教師に、この小旅行に賛成。
反面教師にされるほど、戦ってばかりだったのかナンバー20……。
「旅行に行こう!」
俺もおねえちゃんがやりたい事なので、当然賛成だ。
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都市アテナの東にはガルト王国を縦断する大きな川が流れているため、アテナ近くにかけられた橋を通る必要がある。
俺たちはその橋周辺で旅の吉兆を予感させる、おいしい思いをしていた。
ウォータードラゴンパピーが川の岸辺で干からびていたのだ!
釣るまでもなく水棲のモンスターを有利すぎる状況で狩れる。
――幸先が良いぞ、コレは!
「おっきな干し魚だよ~!」
おねえちゃんは少し前傾姿勢で、口元に握りこぶしを二つ付けて大喜びで、緑の目は輝き、頬は緩んでいる。
思わぬ幸運にローズもジョーシキを語りながらも、上機嫌だ。
「チェルシー! 生きてるから気を付けなさい! 魔物が消えるまで気を抜かないのは常識よ!」
なんでウォータードラゴンパピーがこんな所で干し魚になっているのか。それはドラゴンの持つ本能のせいだ。
干物になるのが本能という訳では無くて、高いところに居るモノをライバル視するのは陸や空のドラゴンに限った話では無い。
なぜか、水棲のウォータードラゴンも同じで、その幼生であるパピーも同じだ。
「クロ、ウォータードラゴンが飛ぶ理由の仮説を教えてあげるわ」
得意満面のローズが嬉しそうに説明してくれる。
「出身地であるドラゴンのダンジョンに秘密があると言われてるわ」
「外に適応しないでそのままだと?」
俺がすぐに核心を突いたのが面白くないのか、ローズは赤いジト目で見つめてきながら仮説を教えてくれる。
「所詮、魔物は魔物。端末とその枝葉に過ぎない。ダンジョンという大本から逃れられないのよ」
おねえちゃんの俺達を呼ぶ声が聞こえてくる。
「クロ~! ローズぅ! 干し魚の中身が生だったからお造りにしたよ~。見て~」
「おねえちゃん見せて」
「旅立ちの直後に余計な装備は持てない。私が倒すわ。素材なら小ぶりだし」
ドラゴンパピーはドラゴンほど強くはないのにドラゴンとして扱われるので、低確率でドラゴンの素材がドロップする美味しい獲物である。
今期はもう終わっているけど、都市アテナでは撃墜祭りという魔導鎧の高級装備である誘導弾を都市のお金で打ち放題なイベントが定期的にある。
その獲物がアギア共和国から、小さな理由で北上してきたドラゴンパピー達だ。
ドラゴンの中でも特にパピーは賢くないので、1匹飛び立てばみんな釣られて飛んできてしまうのだ。
大量のパピーとそれに釣られた賢くないドラゴンが定期的に来襲する土地、それが都市アテナである。
賢くないドラゴンは賢くなくてもドラゴンはドラゴンであり別格なので、シールド氏が例の巨大な魔導鎧ドレッドノートで処分するらしい。
「いいよローズぅ!」
おねえちゃんは旅の初っ端からドラゴンの解体を楽しめて上機嫌だ。
「撃つわ」とローズが赤い機械槍でおねえちゃんが用意していた俺専用切り口を撃ち抜く。
完食されたお造りの後に残されたのは……肉だ!
ドラゴンのお肉!
俺でも聞いたことのある高級食材の王様だ。
「面白いことをしてると思ったら、良い運をしているね?」
予想外のドロップに驚いていると、小さな影に声をかけられる。
俺とローズは警戒するが、おねえちゃんは嬉しそうに答えた。
「パピーをお造りにするの楽しいよ~!」
「僕と気が合いそうな子だな! ついて行ってもいい?」
その小さな影には、普通の人間と違うところが一つある。
面白そうに笑いながら笹のような長い耳を揺らし、金髪のエルフが立っていた。




