第110話 【神の復活】対抗の姉(1)
巨大な光の人型は俺達の目の前で両手をブンブンと振り回している。
うち捨てられた黒い巨剣は大地に突き刺さってしまった。とんでもない切れ味だ。
それにしてもコレが神!?
神々しくはあるけれど。
何だか変な行動をしているぞ!?
「神のあんな行動は資料には載っていなかった! 何なのあれは、常識的じゃない……。もしかして、これは夢? 夢なの? んっ……痛い……」
混乱しそうだったけど、頬を抓るローズの様子を見て冷静になれた。
自分より混乱している人を見ると、冷静になれるよね。今回のダンジョン攻略ではずっと無双していた彼女だけど、想定外が過ぎる事態に対してかなり混乱しているみたいだ。
冷静になれたので何となく周囲を見渡すと、いつの間にか神の足元にドロボウ三人衆が居る。
連中の内の一人。黒いローブの男が神の真似をして両手をブンブンしている。あっちはあっちで何をしているのだろうか。軽装の男が黒ローブ男と大きな声で言い争っているので、こちらにまで聞こえてくる。仲間割れか?
「アリーの兄貴!? 何をやってるんすか!?」
「神のなさっていることだ。きっと大きな意味があるに違いない!」
「はあ!? 両手を振ってるだけにしか見えないっすよ!?」
「神はお目覚めになったばかりだ。何らかの神的行動なのかもしれん。私一人では足りないのか……? そうだ! ロウ! セシリー! お前達も手を振るのだ!」
「ちょ! こんな事の為に強制権を使うんじゃないっす!」
「こうしてると死んでるのに血の巡りが良くなった気分です。良い運動ですねロウ」
「セシリーの姉御まで……。二人とも、その血の巡りを頭に回して欲しいっす……。ボケボケっす……」
「まあ! ロウったら悪い言葉は良くないですよ? メッです」
三人衆が気になることばっかり言ってるぞ。
強制権?
死んでる?
連中の言葉について考察する間もなく。
激しい音と共に発生した猛烈な揺れで転びそうになる。
「今度は何だ!?」
何とか体勢を整えて音源に目を向ければ。
手を振るのをやめた神が、今度は地団駄を踏んでいる。
その足が振り下ろされる度に、ドロボウ三人衆達は強制的にぴょんぴょん跳ねさせられて「きゃー」「わー」と叫んでおり、大変そうだ。まあ因果応報である。
それにしても、あれは……アレスの闘技場で何度か見たことがあるぞ。
「今度は相撲なの!? 遠い国の神事ではあるけれど、とっくの昔に死んだあの神とは、全くの無関係のハズ! 何なの!? この悪夢は! お尻も痛いし……」
尻餅をついてしまったローズの言うとおり、相撲という演目の開始前にやる奴だ。四股を踏むという奴。
流血沙汰にならない関係で教育に悪くないと、ちびっ子に人気の演目だったけれど、遠い国の神事だったのか。
「む~! お相撲さんごっこなら、負けないよ~!」
「えっ」
「チェルシー?」
妙に静かだなと思っていたおねえちゃんは、剣を鞘に仕舞い。体勢を低くしながら大きく足を開き――――神と同じく四股を踏んでいた。
何となく分かるのが怖いけど、聞いておくね。
一体何をする気なの!?
おねえちゃん!?