【僧侶妖精】再会の姉
日の光を遮るほど深い森の中。耳を澄ませば水の音が聞こえてくる。
俺達は森と崖のダンジョンに戻ってきていた。
ここは最初に開拓したダンジョンなので、耳の早い戦士達はもう集まってきている。
何故、開拓の済んだこのダンジョンへ戻ってきたのかといえば。
懐かしい仲間からの連絡が来たからだ。
久しぶりに来た森の拠点だが、目に付くのはテントの多さだろうか。
アルテの作った車庫兼用の拠点を囲うように、色とりどりのテントが張られており、まるでキャンプ場みたいだ。桟橋の架けられた泉では、釣り竿を垂らしている人たちも居る。
俺達の開拓した拠点には、テントの数と比例するように人が集まっていた。
「どうやら耳の早い戦士が多いみたいだな」
「ここで採れる薬草はケガによく効くわ。宣伝もしたし、ケガの多い戦士が集まるのは当然ね」
「すごいもんね~」
俺が思ったことをそのまま言うと、胸を張ったローズがおねえちゃんに絡まれつつ、その理由を教えてくれる。何時も使っていると思ったら……。
――魔石通信で領地の宣伝をしていたのか!
「みんな、久しぶりなのだ!」
「やあ! エテルナ久しぶりだね!! 遅かったじゃないか!」
そんな調子で話していると、相変わらず目立つ白鎧が声をかけてくる。
見間違えるはずも無い、この花々しい白鎧はアルテの言うとおりエテルナだ。
真っ白な鎧には金の花が装飾されているので、森の中で大変に目立っている。オマケに特徴的な長耳が兜の横から飛び出しているので、彼女だと一目で分かるな。
「遅れて悪かったのだ。森林同盟の魔石通信が使えないほど困窮している国々にドラゴンダンジョンのブレイクを伝えていたのだ」
「国家が魔石通信を使えないって相当ね。亡国寸前じゃない」
最近のローズは普段から使っているから身近に感じていたけれど、困窮した国家は使えないほどの道具だったのか。
「そうなのだ。一部の国は残念ながら滅びていたけれど、希望を届けることは出来たのだ」
「良かったね~」
「全部皆のお陰なのだ。きっと私一人では、ドラゴンのダンジョンに近づくことも出来なかったのだ」
俺としても、あんなダンジョンに正面から挑むのは御免被りたいところだ。
エテルナが頭を下げると、ローズがニヤリと笑い提案する。
「そこまで恩に着てくれるなら、私たちの開拓を手伝って貰いましょうか?」
「もちろん。その為に来たのだ。花の騎士エテルナ、みんなの開拓を微力ながら手伝うのだ」
「ありがと~!」
エテルナが手伝ってくれるなら百人力だ。
彼女は白い全身鎧姿とは裏腹に特殊なスキル『奇跡』を扱う僧侶であり、『回復の奇跡』での回復や『障壁の奇跡』での防御を得意とする。
多少のケガはもちろん、重症も治してくれる彼女がいるのと、いないのとでは、安心感が違う。彼女自身も優秀な戦士なので、期待大だ。
「そういえば。ここに集まっていた人から、いくつか要望を聞いているのだ」
「流石はエテルナ。自己のイメージをマネジメントしていただけあって、早速役に立ってくれるわね」
流石は、一国どころか近隣諸国から英雄扱いされている戦士である。
待ち時間の間に、問題を見つけてきてくれたらしい。
「あまり褒められると照れるのだ……。こほん。私が聞いたところ……」
照れを咳払いでごまかしたエテルナが言うには。
――単純に家が足りない。
――周囲の囲いに隙間がある。
――ボスが飛び回って厄介。
以上の三点が主な問題らしい。
アルテが作ってくれた家は一棟だけなので、確かにこの人数を収容するには足りないな。泉は周囲を流れる大河とどこかで繋がっているので、大雨が降ったりして増水したら、困ってしまう。
この場所の囲いは、大戦士のパワーで無理矢理作ったので、荒があって当然だ。
ここのボスの厄介さは初見の時に身に染みている。
少しでも危険を感じると逃げてしまうので、魔導鎧のような機動力が無ければ戦うこともできないだろう。
「領地に発生した問題を解決するのも領主の仕事よ!」
ローズは腕まくりをしてやる気満々だ。
これは彼女がやりたかった仕事なので、とても士気が高い。
「お手伝いをするよ~!」
おねえちゃんも同じくやる気満々である。
ちょっとだけ単純なところがあるので、親友の士気に釣られてしまったのかもしれない。
「俺も手伝おう」
おねえちゃんのやりたいことが俺のやりたいことなので、もちろん俺も手伝う。
開拓の次は、開拓した領地の問題を解決だ。