ゆめのなか〜産声が聴こえる〜
あなたは何になりたいですか?
歌唄い? お医者さん? お嫁さん? 小説家?
何にでもなれますよ。
でも、愛だけにはなれません。
あなたは何になりたいですか?
人間? ロボット? 狼? 獣人? エルフ?
何にでもなれますよ。
でも、愛だけにはなれません。
あなたは……何者でもないのですね?
何にでもなれますよ。
でも、愛だけにはなれません。
さあ、あなたの答えを教えて下さい。
小さい声では聴こえません。大きな声で聴かせて下さい。
僕は考えます。一生懸命考えます。
僕ってなんだろう。
ずっと昔は何かをしていたかと……。一生懸命、文章を描いてる自分の姿が見えました。
そうだ。小説家になりたかったんだ!
文章をいっぱい読んで本を出したかったんだと!
小説家だ!
大きな声で叫びます。
私は考えます。一生懸命考えます。
私ってなんだろう。
ずっと昔は何をしていたかと……。一生懸命、荒野を走っていた自分の姿が浮かびます。
そうだ。これは両足だ!
仲間と共に狩りをしていた狼だ!
大きな遠吠えをします。
あなたは考えます。一生懸命考えます。
あなたとはなんだろう。
私の好きな洋楽を詠う歌唄いのように声が清らかで、周りの痛みや悲しみに敏感なお医者さんのように話を聞いてくれて、ウエディングドレスの似合うお嫁さんのように笑う人間ではありませんか?
いえ、違いますか?
ならば、体を機械仕掛けにしていても尚、獣のように雄々しく、人のようにたおやかで、エルフのように誇り高い?
こちらも、違いますか?
あなたは……、あなたは何ですか?
そう、この物語を読んでいるあなたです?
あなたは……、何者でもありません。
だって、これはゆめのなか。
女なのかも、男なのも分かりません。
どちらでも構いません。だって、これはゆめのなか。
では、私の話をしましょうか?
あら?興味がない?そうでしょう。あなたは自分しか見ていない。
闇は光になれません。闇は闇のままでよいのです。私は光にさせようとはしませんから……。
だから、愛にはなれません。愛は二つ必要ですから……。
では、ゆめからお覚めください。
あなたは何になりたいですか?