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言葉を掴むライフセーバー

作者: 小波


 もうそろそろ30年経ちます。初めて読んだ日から。あの本のタイトルは『きもちいいことのんびりと』‥だったかと思います。中学生の私は何故か父親に懐き2人で古本屋へ行ったものでした。運転の下手な人の鳴らすアクセルの踏み込む音と抜く音が滑らかな走行をされると吐いてしまう私の酔い止めになっていました。もう今はいない父の運転はそれは荒かったのです。

 その日古本屋で手に取った本は春菊さんのエッセイ。ビューネくんのCMで可愛いイラストを見つけてから春菊さんの漫画を集める様になり文章にも漫画にもいろんな意味で刺激を受けました。何度も引越しをする度に本だけは連れて行く私の手元にあの本はもうありません。春菊さんはいじられやすいキャラクターの様でした。馬鹿にもされやすい甘く見られるそんな話もありました。怖く見えないのかも知れません。そして声をかけられやすく誘われやすい印象でした。垣根が低い近寄りやすいそんな人を想像します。読むうちに私に似ている気もして凄く近く感じてしまうエッセイで内容も身近なものが多く楽に読めます。読み返しているうちにこの本に出てきて春菊さんを小馬鹿にする人といつのまにか同じ感想を思う自分にぎょっとさせられました。ただの影響だと思いたい。この人が書けるのなら私もこのくらい書けそうと。そのくらい垣根の低い親近感の湧く文体なのかも知れないけれど本の中とは言え人の心に土足で上がり込む、私にもそんな心があるのかなと焦ったのでした。


 柔らかい頬の感触が伝わる漫画の描き味。背景の少なさが読みやすく心的情景にのめり込めます。作者の手書きの字が鋭く耳に残ります。感触を感じる絵が時に傷つきやすく傷つけてしまいそうになる漫画の中の主役たち。先に絵に惚れ込み性的な描写は思春期の私にストライクして沢山読みました。小説は図書館にもありました。タイトルは不思議で内容は刺激的で生々しかった。20数年後に


「内田春菊ばかり読んでるから似ちゃったんじゃないか」


と、母親に小馬鹿にされました。確かに私は家出して生き抜いたところがあります。性的に奔放、母はそこを言いたかったのでしょう。人生そのものが似ているのでは無く子供の住むのに限界を感じる家で『私が海に還るまで』を読み、家出という選択肢を無自覚にインプットしたこと。それはあるかもしれません。あの時に読んだ本が悲劇のヒロインだったり、シンデレラストーリーであったりしたら今の私はどうなっていたのでしょうか?今でも大変な苦労から抜け出せない所にいますがもっと盛大に病んでいたのではないか?と。


 読書家であったことを本に助けられた事を私はこれからも生かしてハッピーな方へ道を切り開いて行きたいです。満足のいく人生へと。決して激しく刹那的で刺激の多い部分にばかり囚われて憧れていた訳ではないと。春菊さんの波瀾万丈も自ら望んでそうなった訳でないし私もそうです。ただ、平和で安心で幸せ、そういうのへ行くのに道がわからないのです。特に男女間の人間関係の構図が。愛されようとして自らを無くして行く姿が。


 近頃Voicyというアプリを入手して春菊さんの低音の声を聞いています。そこにはコメントを残すことが出来ます。ハートマークの読みましたという返信が付きました。著名人や芸能人との境目がゆるくなるネットの世界で文字が相手に届く距離で匿名の嫌がらせが存在する事を意識しました。Voicyで怖い言葉は読んだことがありませんが色んな場所で口に出すにはおぞましい文字を沢山見てきました。自己表現は必ず何処かには届きます。


 人と人との垣根や境目とそれを繋ぐ言葉という手段、その合間をふわふわ漂っていたい。そう思いながら終わりたいと思います。

 

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