第二二二話 討伐を祝って その四
「沮先生も今回の戦いでご助力頂き、ありがとうございます」
この場には斉周と夏舎だけではなく、沮授もいたので声をかけた。
黄巾賊を最終的に追い詰めることができたのは沮授の献策があってからこそだ。
「それはわたくしの台詞です。君がいなければ黄巾賊の手によって殺されていました」
歴史を知っている私は沮授はここではまだ死なないと知ってはいるが、そんなこと言ってもしょうがないので私が助けたことにしよう。
「あそこで沮先生を助けれたのはたまたまですよ。偶然って怖いですね、あはは~」
私は右手で後頭部を搔きながら、照れている様子を演技した。
実際、沮授と出会ったのは偶然だ。黄巾賊が根城にしている亭(宿舎)で捕らわれているなんて思わなかった。
それに私という存在がいたことで、今回の戦いは史実と食い違う点が何点もあった。もしかしたら本来、沮授は黄巾賊に捕らわれていなかったのかもしれない。
もしかして知らないうちにマッチポンプ的な感じで沮授を助けちゃっているのでは。
もうこれ以上、考えるのよそう。
「どうしましたか?」
沮授は急に考え込んでいた私を気にかけていた。
そういえば彼はこれからどうするのだろうか、冀州の役人という元の鞘に収まりそうではある。
「沮先生はこれからどうするのかが気になりました。先生ほどの人ならばあらゆる場所で引く手数多でしょうし、今回の戦いで少なからず漢王朝の中枢勢力に知られたと思いますので、今後の進退が気になったんです」
沮授は私の言葉を聞き、顎をさすってから、私に向かって片膝をついて、拱手(胸の前で右拳を左手で包み込む挨拶)をする。
「沮先生……!?」
私は思わず目を見開く。拱手は挨拶でもあり、相手に対して尊敬の念を抱いているという意味もある。
「実は斉周と夏舎にはお伝えしたことなのですが、わたくしは田豫……いや! 殿が率いる兵の規律正しさや勤勉さに感銘を受け、殿の戦場での予見力や洞察力に感服しました。しかし、それだけでは曹操と変わらない。殿の志は劉備から聞きました。民達が平穏に暮らす未来を思い描きながら戦っていると、その在り方に心服し、わたくしは殿に付いて行こうと思います」
沮授は真剣な眼差しで胸中に抱えているものを語ってくれた。彼のことは仲間にしたかった。もし、群雄割拠の時代が訪れて私が軍閥の長となったときに監軍(総司令官)なってほしいと思うほどに優秀だからだ。
「ほ、本当ですか、沮先生!」
「ええ」
喜びを隠しきれない私は口元を緩めながら確認を取ると、沮授は力強く頷いた。
沮授が私の部下になるのは、ここ最近で一番嬉しい出来事なのかもしれない。
「では……沮授、今後の方針をいいます」
「はっ」
私は上に立つものとしての威厳を見せるために沮先生から沮授に呼び方を変える。私の雰囲気が変わったのを察した沮授は応じながら立ち上がる。
「もしかしたら斉周と夏舎から聞いているかもしれませんが、年明けに今回の乱で多大な功績を上げた者達が洛陽に呼ばれます。私は功績を称えられ、褒賞を授かることになるでしょう。それから私達、元義勇軍の方針をとりたいと思いますので、それまで次の戦いに備えて休息してください」
「分かりました」
沮授の返事を聞いてから私は背中を見せてその場を去る。
最後にちょっとかっこつけてしまった。
にしても曹操と比べてくれるなんて畏れ多すぎる。多分、頭の回転は彼よりかなり劣ると思う。それに将としての威厳も格が違う。でもそんな私に沮授は付いてくれた。
では、しばらく歩いたので喜びの舞を踊ろうと思います。
「よっしゃああああああ!」
私は民家の裏で両拳を交互に何度も繰り出した。
「優秀な仲間が増えたぞ!!! やった! やった!」
次に私は両拳は真上に交互に繰り出しながら小躍りした。
「やっほい!」
私の声は夜空に響く。
「君たちの言う通り、子供っぽいところはまだあるようですね」
「いつも気丈にふるまってるけど、戦いの場を離れるとあんなんだよ」
「我が君らしくていいと思いますよ」
「えっ」
私は背後を振り返ると、沮授、夏舎、斉周がいた。
こっそり付いてきてたのか。
ていうか――
「――うわ、はっず」
恥ずかしさのあまり感情を無くした私は三人に向かって真顔で呟いた。




