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第二〇七話 下曲陽城攻略戦 その一〇

 「―――――やっと、終わった」


 私は手の甲で額の汗を拭う。


 矢筒に入っている矢が残り二本となったところで私は射撃を止める。皆が奮戦してくれたおかげで四階の戸から現れた黄巾賊は三階にいる私達を突破することもできずに全滅した。


 辺り一帯、(おびただ)しい量の死体が転がっている。


「ふぅ……」


 張飛(ちょうひ)は呼吸を整えながら、その場で屈伸をしていた。流石の彼も呼吸が乱れているらしい。ちなみに張飛は一番多く、敵を倒している気がする。


「五五、五六、五七人か」


 曹操(そうそう)は辺りを歩き、倒れている黄巾賊を数えていた。


 私達は一〇人で六倍近くの人数を相手にしていたのか……張飛も多少、疲れるわけだ。


「まだだ……!」


 何故か劉備(りゅうび)が勇みながら階段を上り始めていた。


「兄者……? 何を焦っておられるのですか?」


 関羽(かんう)は困惑しながら疑問を投げた。


「まだ、油断するのは早いぞ、仮にこの先に張角(ちょうかく)がいるとしたら、今の騒ぎに気付かないはずがない。彼がもし策略家ならば、今のうちに今の状況を脱するための策や罠を考えているかもしれない、もしかしたら隠し通路があって逃げるかもしれん。今すぐ敵を追い詰めるべきだ!」


 劉備の言葉に私達はハッとした顔をした。


「疲れた体と頭でよくそんなこと考えられるな! だがいいぜお前、さっさと敵を討ちに行くか」


 孫堅は劉備に同調し、階段を上る。当然、黄蓋(こうがい)程普(ていふ)孫堅(そんけん)に付いて行った。


「ふっ……わしとしたことが気を抜いてしまうとはな」


 一方、曹操は自嘲しつつ夏侯惇(かこうとん)夏侯淵(かこうえん)を連れて、四階へと向かう。


「さすが劉兄(りゅうにい)だぜ!」


「何があってもこの関雲長(かんうんちょう)がお守り致す」


 関羽と張飛も四階に向かってしまった。


 …………でも、ちょっと待てよ!


 張角を討ち取ったら、功績としては一番大きいよな。 絶対、そうだよな。


 私はあることを思いついてしまった。


「田ちゃん、何して……ぇえ!」


 張飛がこちらを振り返ると、私の行動を見て目を見開いていた。


 多分、張飛は階段を上らない私が気になって後ろを振り向いたのだろう。しかし、そんな心配は無用だ。何故なら、今の私は張角を討ち取る気、満々で階段を全力で上り始めたからだ!


 私は曹操、孫堅達を追い抜き劉備と並ぶ。


「田豫、そ、そなたの考えなんとなく分かるぞ」


 流石、劉備。私塾時代、二十一世紀風に言い換えれば学生時代からの付き合いなだけあって、私が何を考えているか分かるらしい。


「では……手柄立ててきます!」


 私は劉備を置いて、階段を駆け上がった。


「むむむ! 待たれよ!」


 何故か関羽が対抗心燃やして追いかけてきた。あ、劉備と張飛も走ってきた。


「俺達も負けられないな!」


「殿!」


 後ろを振り返ると何故か孫堅も走ってきた。黄蓋は突如、走り出した主君に戸惑いながらも、程普と共に孫堅の後を追う。


「子供か、あいつらは……田豫はまだ一〇代だから分からなくもないが、孫堅のやつにいたってはわしと同い年の二九だ」


 曹操の呆れ声が聞こえてくるが、


「そういう孟徳(もうとく)も走り出してるじゃねえか……! 抜け駆けされたくないんだろ本心では……!」


 夏侯惇が主君の行動に突っ込んでいた。


「わしの足が勝手に動いただけだ」


「じゃあ、オレの足も勝手に動くぜ」


 曹操は言い訳にもならない言い訳をしており、夏侯淵はお茶目なことを言っていた。


 孫堅も曹操も戦場では武人だったり兵法家だったりするが、気心を知れた者といると違う一面も見えるんだなと改めて思った。誰しも常に戦場にいるときのように気を張り詰めてるわけではないので当たり前と言えば当たり前だ。


 さて、さっさと四階の戸を開けにいくか。

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