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プロローグ

 2XXX年。人々の生活が都市部に集中し、それ以外の地域は新種の動物など、危険地帯と化した。木々が生い茂り、人々の侵入を拒むようになった。AI搭載のアンドロイドも誕生し、生活水準は年々高まっていった。



 ある屋敷の女主人である老婆がベットに横たわっていた。傍にはアンドロイド執事のナイトが控えていた。

「ナイト。あなたには私が幼い頃から今まで、長い間お世話になったわね。体の弱かった私にずっと縛り付けてごめんなさいね。でも、あなたにはこんな狭い世界だけではなく、もっともっと広い世界を見て回ってもらいたいの。」

「しかし、アカネ様。私は近い未来、廃棄されることになるでしょう。」

「いいえ。私の最後のお願いを聴いてちょうだい。私が体験することができなかった世界を、あなたが代わりに見てきて欲しいの。」

 そう言って老婆はロケットペンダントをアンドロイド執事に手渡す。中には若い頃の老婆の姿と、その傍に佇む執事の姿が写った写真が入っていた。

「これを持って、私と一緒に旅に出て欲しいの。お願いできるかしら?」

「………、畏まりました。善処いたします。」

 その返事を聞き、老婆はふと笑みを浮かべた。

「あなたらしい返事ね。安心したわ。……ナイト。私と共に生きてくれてありがとうね。」

 そう言い残し、老婆は静かに息を引き取った。その表情は、いつも以上に朗らかで、眠っているようだった。


 

 その後の家族の対応は早かった。

 遺産などは全て配分された。その際に、老婆の幼い頃から仕えていたアンドロイド執事など、型落ちでしかないため、早々に廃棄されることとなった。

 ナイトを廃棄するために回収しにきた業者は老婆と顔馴染みの少年だった。淡々とナイトを回収車に乗せると少年は口を開いた。

「あんた。この後はどうするんだ?このままじゃスクラップだぞ。」

「お屋敷の方々がその様に言っていたので、従うまでです。このまま廃棄されに向かいます。」

 ナイトの表情は少しも変わらない。自分という存在が消えて無くなろうとしているにも関わらず、淡々と答えた。あまりにも当たり前のように答えるその様子を見て、少年は苛立たしげに、

「あんたの主人はほとんど関わったこともねえ、金にしか興味がねえあいつらなのか⁉︎俺だったら、親が死にそうなのに、遊び呆けて全く帰ってこねえあいつらの為に、自分の命を差し出すなんてごめんだね!あんたはどうなんだよ?あんたは、あいつらとばあさん、どっちに仕えてんだよ?」

 少し考えるナイトだったが、

「……アカネ様に仕えてきましたが、アカネ様は亡くなられてしまいました。そうなると、次の優先順位は御子息様たちになります。」

 少し考えてから答えたナイトだったが、この返事に少年はハッと鼻で笑いながらナイトに更に尋ねた。

「あんた、あのばあさんから何か託されただろ?忘れてねえよな?」

 その言葉に、ナイトはハッとしたように胸元からロケットを取り出した。そして、老婆が亡くなる間際に言った“お願い”を思い出した。ナイトの様子を見て少年は満足げに語った。

「あのばあさん、すげえ楽しみにしてたぞ。自分が死んだら、ナイトと一緒に世界を巡るんだって。それはまあ見事な笑顔で。俺もあのばあさんに助けてもらって今がある身だ。でも、俺はまだ何にもばあさんに恩を返せてねえんだよ。だから、恩返しの第一歩だと思ってあんたに改めて訊くぜ?ばあさんの死ぬ間際の最後のお願いと、あのボンクラ息子どもの命令、どっちが大事なんだよ?優先順位はどっちが上なんだよ?」

 その言葉に、ナイトは迷うことなく答えた。

「アカネ様の生前の願いが何においても、今の私には重要です。」

 相変わらず、表情は変わらないが、迷いなく言い切ったナイトの様子を見て、少年は満面の笑みで答えた。

「だろ!じゃあこんなとこでグダグダしてねえで、さっさとずらかるぜ!準備はもうできてるからな。あんた、見た目が若いから、俺と兄弟っていう設定で行こう。だから、改まった喋り方は無しで、俺のことはセイって呼べ。」

「………、ついてくる気ですか?」

「当たり前じゃん。言っただろ?恩返しがしたいって。一緒に旅して回って、ナイトに色んな世界を見てもらうことが、俺に今できる唯一の恩返しなんだよ。それに、アンドロイドだけだと何かと不便だからな。人間の俺がついてた方が、問題なく旅ができるはずだ。」

 必ず役に立つと少年は自信たっぷりに答えた。ナイトもずっと執事をしていたため、世の中のことは詳しくない。それに、少年の恩返しかしたいという思いも本心だろう。ナイトが諦めたように笑った。

「……わかりました。いや…、わかったよセイ。わからないことだらけだからセイが頼りだ。これからよろしくね。」

「そうこなくっちゃ!わかってんじゃん兄貴!」

「それじゃあ今後のことを考えようか…。」


 2人を乗せた馬車はゆっくりと屋敷を離れていき、その後 街から2人の姿も消え去った。 

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