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お題小説

オープンカー

作者: 水泡歌

 今日は彼氏とデート。彼氏の車でドライブするの。

 あ、彼氏が来た。

 えっ、あれってオープンカーじゃない?

「ねぇ、みつる、この車どうしたの? こんな車持ってたっけ?」

 私が車に駆け寄ると彼氏がかけていたサングラスをはずしてカッコよく言った。

「買ったんだ。今日のために」

 私の胸はときめいた。

「今日のために? ありがとう~みつる~」

 私は思いっきり彼氏に抱きついた。

 彼氏は満足そうに笑う。

 私はウキウキしながら車に乗った。こんな車に乗るのはじめてだ。

 そして彼は私が乗ったのを確認するとアクセルを踏みこんだ。

「よ~し、しゅっぱ~つ」

 楽しいドライブになりそう。



 ――と、思ったけど違った……。

 雨が降りだしたのだ。

 私達は今ビショビショになりながら道路を走っている。

「ねぇ、みつる、屋根は?」

「ないよ」

「なんで?」

「オープンカーだから」

「オープンカーでも屋根があるやつもあるんじゃないの?」

「これはない」

「ねぇ、みつる。寒い」

「もう少しで目的の場所まで着くから」

「どこいくの?」

「海」

「この雨の中?」

「…………」

「ねえ、みつる。帰ろう?」

 私がそう言うと彼氏は車を右折させ、コンビニの前に止めた。

 そして走ってコンビニの中に入っていった。

 私はそれを黙って見ていた。

 その後、今の自分の姿を見た。

 せっかくおしゃれしてきた服も雨でビショビショ。ばっちりと化粧をした顔だって雨でドロドロ。

 今は鏡を見たくない。

 私はオープンカーをジッと睨むとボソッと言った。

「オープンカーなんて大嫌い」

 そんなことをしていると、みつるがコンビニから出てきた。

 手に持っていたのはレインコートと1本の缶コーヒー。

 車に乗ると黙ってレインコートと缶コーヒーを私に渡した。

「何これ?」

 私が冷たくそう言うと、みつるは「これ着れば大丈夫だろ?」とぶっきらぼうに言った。

 私はため息をついてボソッと言った。

「かっこわるい……」

 それでも彼氏は私の言葉なんて気にせずに車を発進させた。

 なんだか無性にむかついて、このまま彼氏をぶったたいて車から降りてやろうかと思った。

 けど、さっきくれた缶コーヒーはほかほかと温かくて私の気持ちを少しだけやわらげてくれたから、仕方なくレインコートを着た。

 安っぽいレインコートを着てホットコーヒーを飲むふてくされた女と唇を噛みしめながら運転している男が乗ったこのオープンカー……。他人にはさぞ変に見えたことだろう。

 実際、走っている途中、クスクスと笑われたりした。

 最悪のデートだ。

 そして、私達は海に着いた。

 着いたはいいものの、天気が悪いせいで海はどんよりと暗い色をしていて、荒れている。

 砂浜に立っていた私達は水しぶきをあびながらジッと海を見つめた。

「ねぇ、これ楽しい?」

 私が力無くきく。

「……ごめん」

 彼氏が下を向きながら謝る。

 私は一つため息をつく。

「ねぇ、何でそんなに海に行きたかったの? こんな風になるってわかってたじゃない」

 すると彼は下を向いたまま何とも情けない声で言った。

「だって、俺、今日一個もお前にしてやろうと思ったことしてないから……オープンカーで楽しませること出来なかったし……笑わせてやれなかったし……だからせめて海に行くって事だけはしたかったんだ」

 私はその言葉を聞いて、また一つため息をついた。

 彼氏の肩がビクッとゆれる。

 私はなんだか怒る気もしなかった。

 こんな2人ともびしょぬれで、おまけに前には荒れた海。

 何だか怒ってもむなしいだけのように思った。それに、彼氏なりに今日のデートに一生懸命だったのはわかったし。

 私は彼氏の腕に絡み付いた。

 彼氏はびっくりした顔で私を見る。

 私は笑って言った。

「帰ろっか」

 彼氏は少し間を置いた後、「うん」と小さくうなずいた。


 帰り道、コンビニに寄って今度は私が一本のホットコーヒーとレインコートを買って彼氏にあげた。

 安っぽいおそろいにおかしくなって私達は顔を見合わせて笑った。

 デートは確かに最悪だったけど、その中にも少しだけ楽しさがあったように思う。


 けど、もうオープンカーには絶対乗らない。

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― 新着の感想 ―
[一言] オープンカーはね……。 幌がないと雨の日に困っちゃいますよね……。
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