待ち合わせ
K県某駅。
僕は、14:44発の電車に間に合うように、駅に着いた。
駅構内で友達と待ち合わせているからだ。
「14時38分。まぁ、ちょうどいい頃かな」
僕は、スマホを操作してLI□Eを送った。
[送信:〇〇駅着いたよ]
[返信:ぼくも着いた]
「お、早いな」
僕は、切符を買って改札を潜ると、上りのホームへ向かった。
跨線橋の階段を登りきった所で、他に誰もいないことを確認してまたスマホを打つ。
[送信:上りのホームで合ってたよな]
[返信:うん。待ってるよ]
スマホを片手に橋を渡り終えると、やや小走りに階段を下りる。
ホームを見渡すと、大人が二、三人佇んでいた。
友達の姿はない。
「あれ? おかしいな……」
スマホを操作する。時間は、14時41分。
[送信:ホーム着いたよ。どこ?]
[返信:自動販売機の前。]
「自動販売機? って、これだよな……」
階段を下りてすぐ。自動販売機がでんと置いてある。
僕は、裏も見てみたが、友達の姿はなかった。
さらにホームを見渡せば、もうひとつ自動販売機が階段の裏側にあるのを見つけた。
「あっちか」
駆け寄ると、やはり周囲を確認する。
友達は、いない。
「あれぇ? どこだよ……」
くるくると操作してメッセージを作る。
[送信:いないよ。どこ?]
[返信:もう片方の自動販売機かと思って来ちゃったよ]
「えっ、すれ違った?」
僕は、慌てて元の自動販売機へ走っていった。
いない。
「もー、どこだよー」
スマホを確認すると時間は、14時43分になっている。
もう電車が来ちゃうじゃないか。
[送信:どーこー]
[返信:元の自動販売機にもどってきちゃったよ]
「はぁ!? っ、もうー」
またすれ違ったらしい。
すると、立て続けに友達のメッセージが届いた。
[返信:もう電車来ちゃうから、電車の中で落ち合おう]
[返信:4号車に乗るよ]
ちょうど、列車到着のアナウンスが入る。
「んー、仕方ないか」
僕は、黄色い線の内側についた。
電車が入ってきて、やがてちょうど目の前に扉が止まる。
と。
「わっ」
スマホの着信音がバイブと共に鳴った。
「わわ、マズイ」
止めようとして、慌てて出てしまった。
「あわわ……ええと、ハイ」
相手は何かを喋っているが、うまく聞き取れない。
「え? もしもし? 誰ですか」
必死に聞き取ろうとした所で、プシュー、という音が聞こえた。
「あ」
電車の扉が閉まった。
「うわ、マズイっ」
電車は動き出し、僕だけをおいて出発していった。
一度耳から下ろしてしまったスマホを見ると、通話は終わって待ち受けになっていた。
慌ててまたLI□Eを開いて、メッセージを送った。
時間は、14時45分。
[送信:ごめん! 乗りそびれた!]
返信は、帰ってこなかった。
「昨日はごめんな」
翌日、学校で友達に謝った。
「えっ、なんのこと?」
友達はきょとんとしていた。怒ってるのかな。
「昨日、駅で待ち合わせしてたろ」
すると友達は、
「え? してないよ」
と、不思議そうな顔をした。
「え? でも、待ち合わせて、ホームでLI□Eやり取りして……」
「いや、ボクじゃないよ」
友達は首を振る。
えっ、と思ったところに他の友達が来た。
「え、なになに。駅で待ち合わせてたの? どこに行く予定だったの」
「K市方面」
「えー、いいな、誘えよ」
「いや、それが、してないって言うんだよ」
「え? どういうこと?」
後に来た友達が、僕が待ち合わせていたと思ってた友達を見る。
「ボクには覚えがないんだ」
「えー、何時待ち合わせだったの?」
「14時44分発の電車」
それを聞いて、友達二人がキョトンとした。
「え? それ無理だろ」
「15時前なんて、まだ授業中じゃん」
「え? あっ」
……なんで気がつかなかったんだろう。
今日は木曜日。14時台なんて、まだ授業を受けていたはずだ。僕も、友達も。
混乱した僕は、慌ててスマホを操作した。
あの駅に、14時44分発の電車なんてなかった。