第一話 彼と彼女の出会い
久々に投稿です。よろしくお願いします。
今日もどこかで
鳥がうたってる。
忘れないで
忘れないでと
今日もうたっている。
「これ、なんで読むんですか?」
放課後、職員室に呼ばれた私は担任に渡された紙をみて、そう聞いた。
だって読み方がわからないんだもん。ちや…み?
「千屋実とかいて[ちやさね]って読むんだよ。お前も人のこと言えないだろ?」
先生は椅子にもたれながら両手を組んで私のほうを見た。
確かに私の苗字も変わってはいるんだけど、でもそんなに難しくないはず。
「宍粟なんて誰が読めるんだよ、最初あなぐりかと思ったんだぞ」
先生、それはないですし、宍は穴ではありません。
「まぁそんな話はいいんだ。宍粟。千屋実んところにこの書類を持って行ってほしいんだ」
「先生がもっていくべきなんではないですか? 仕事怠慢してませんか?」
「怠慢だなんて、そんなわけないだろ。最近の教師というのは勤務時間が超過していて、それこそいま世間では働き方改革だの言われて、生徒にできることは頼む。すべて先生がするべきではない、という方針になっているんだ。こないだの職員会議でもな…」
永遠と先生の愚痴を聞かされそうだったので私はその話をさえぎるように
「わかりました、もっていきます!!!」と全力で承諾した。
だからなのだろう、最近教師という職種に人気がない。人手不足だというのもネットでみたことがある。
先生という職業は確かに大変そうだもんなー。夏休み冬休みが私たちと同じようにあるわけじゃないし、先生たちだってどこかバカンスにいきたいわな。早く帰っておいしいお酒のみたいんだろうな。
いや、そんな気遣いはしなくていいか、それよりこのちー…あー読めない。なんていってたっけ?
さっき聞いたとき振り仮名振っとけばよかった。と、渡された書類を見ながら職員室を後にした。
「ていうか、この人、学校きてないの? なんで?」
高校生活ってたった三年しかない。三年のなかでしか楽しめないことがたくさんある。
もうその一年が終わって二年生。この人はもったいない人生を送っている。
そう思って私は書類を渡すことと同時に学校に来いといってやろうと意気込んだ。
「あれー? 梢もう帰るの? 部活は?」
「今日はパスー! 先生に頼まれて書類持って行かなきゃな人がいて~」
同じ部活に所属する友人、神代リコにそう告げた。
「じゃ部長にゆっとくね~。彼氏のところにいくっていってたって~」
ニヒヒと笑いながらカバンを持って教室を出ようとした。
「いや、彼氏ではなくて、クラスメイト…? とにかく彼氏じゃないからー」
「はいはい」
いつものように茶化すリコは終始ニヒヒと笑いながら部活へと向かった。
部活。といっても雑談しかしない部活だ。
「なんでも同盟部」という部活なのか同盟なのかよくわからない部活。
私の通う秋風高校に昔から残っている謎の部活なのだ。
謎、といいつつ入部している私たちも私たちなのだが、この話をすると長くなるのでまたの機会で。そう、私はあのちー…なんたらくんの家へいってこの書類を本人に渡さなければならない。
***
「えーっと。ここらへんなんだけどな~」
先生からもらった住所を地図アプリに入力して向かったが、いまいちわからなくなってきた。近くにスーパーがあるところまではあっている。ここのどこなんだろ? ここのスーパーの店員さんにでも聞こうかとお店に入った。夕方17時は仕事終わりのお客さん、幼稚園のお迎えをしたあとの親子、明らかに近所に住んでいるであろう常連さんが来店していた。この時間は込み合うんだな~。と、思っていたら第一店員発見! よし、聞いてみよう。
「すみません」
「はい」
振り向いたその人は、どうみても同じ年齢の人で、レジ近くにタワーになっているかごを入り口に運んでいる最中だった。しかも意外とイケメンさん。こんな時間にもうバイトしてるなんて、定時制にでもかよっているのかな?
「なんですか?」
見とれてしまっていた私は彼の顔を見ながら言葉を失っていた
「ああああすみません、この人の家探してるんですけど…近くですか?」
彼は私のスマホをのぞき込んだ。なんか、いい匂いがする。スーパーで香水はだめなんだぞぉー!
「それ、俺んちだわ」
…へ? 私は顔をみたあと、彼の名札に目を落とす。
「ちやみ?」
「違うわ、ちやさね。そのまま読むなよ」
「あああごめんごめん。ご本人だとは知らず。あの、渡すものがあって」
そう話しているとレジ係のおばちゃんがレジにはいってーと彼に行ってきたので少し待つことにした。このスーパーには入り口の近くにイートインコーナーがあったので、私はそこに座って彼がバイトを終えるのを待った。にしてもいろんな人がいるなぁ~と人間観察していた。
いろんな人のいろんな人生があって、
あの人はあの人とどうやって出会ったんだろう。
この人はどうして今の自分になりえたんだろう。
いろんな人をみると、いつもそう思ってしまう。
悪い癖というかいい癖というか、他人の背景を妄想することがよくあるのだ。
彼もまた、どうしてバイトをしているのだろうか。学校休んでまでしているのかな?
お金にこまっているのだろうか? これは妄想癖だ。悪いほうの癖だ。
考えていると妄想をやめようとおもって頭を振る。違うことに集中しようと思ってスマホを開く。
『部長がおめでとーお幸せにっていってきたぞぉ』
と、リコからメールが来ていた。いや、彼氏じゃないから。
でも、まてよ。いまこうやってバイトが終わるのを待っている同級生がいる時点でレジのおばちゃんたちが彼に「ねぇねぇあれ彼女?」とか聞いてるのではないか。そうなってたら本当に誤解されかねない。ごめんなさいおばちゃんたち、私たちまだ名前も憶えれていないクラスメイトなんです~
「待ってたのかよ。どうりでパートさんが茶化すわけだ」
やっぱり言われてましたか、すみません。待ってないと渡せないもん
「ごめんね? でもここでバイトしてるの今知ったし、そもそも名前わかんないし」
何の言い訳をし始めているのか自分でもわからない。解らないけど、何かにたして動揺していた。
「で、なにもってきたの?」
「進路系の書類?」
「わからず持ってきたのかよ」
なんか、不愛想? 持ってきてはだめだったかのような言い方。
彼、えーっとち・・・ちやみくんは(もう覚えるのめんどくさくなってきた)背は170センチぐらいで髪はサラサラ。不愛想に見えるのに、常連のお客さんは彼のレジに並んでよくしゃべっていた。そのとき照れながら「はい、ありがとうございます」と言っていた。レジのパートのおばちゃんたちからも腕をバンバンたたかれながら励まされている姿もあった。不愛想ながらも愛されキャラなのか? とイートインコーナーから観察していたのだ。これは本人には内緒だが。
「とりあえず先生から頼まれたのはこれだけ。あ、あと」
そうそう私的に本題を告げなければ!!
「なんで学校きてないの? いじめられてるの?」
「は? なんでそーなんの。ていうか場所変えていい?」
ふと周りを見渡すと、店長らしき人と仕事を終えたであろうパートさんがひそひそと話をしていた。
「なんかしんねーけど、彼女だって思われてんだよ。違うって言ってんのに」
「…違いまーす!ってさけぼうか?」
「やめろ。お前、もっと恥を知れ」
そういわれ私の右腕をギシッと握って店を出た。
「ど、どこいくのさ?」
「そこの喫茶店」
彼が指さしたのは、それはもうレトロ満載の昭和時代を漂わせるたたずまいの喫茶店だった。
「スタバとか、ドトールとか、デニーズとか、そういうのではなく?」
「いいから、近くにあるところじゃ不服かよ」
「いえ、滅相もありません」
なぜだろう。彼の意見に勝てない。私、いつもなら流されないのに…
カラン
扉を開けると扉についているかねの音がした。
なんかすごく懐かしい気持ちになった。昔、こういうところに来たことがあるようなそんな気分にさせてくれる喫茶店だ。入ったらレジの横に冷蔵のショーケースがあって、たくさんの種類のケーキが並んでいる。プリンもシュークリームもある。美味しそう…!
「席はここでいいか」
そういって彼はいつも座るところと言わんばかりに一直線に席を見つけた。
店員が水を持ってきて「ご注文はいかがしますか?」と聞いてきたが、彼は「いい」と断った。
そう、私たちデートに来ているわけではないので、お冷で十分。話ができる場所ならどこでもいいのだ。
「で、俺に何かいいたいんだろ?」
「あ、そうそう、なんで学校きてないの?」
「…高校一年までは来てたんだけど、諸事情で、お金が必要になって…」
「…!! まさか、私連帯保証人にでもされるの?!」
「なんでだよ!! ちげぇよ。母親が、病気でなくなったから、学費を」
そういって彼はお冷のグラスを持って氷を転がした。
「…ごめん。それはごめんなさい。そうだったんだね」
借金取りにあってて子供にまで働かせているのかと誤解してごめんなさい。
「学校には理由いって、バイトさせてもらってるんだけど。そろそろ出席日数やばいよな」
彼は自分でもわかっているようだった。本当は学校に行きたいんだ。
「高校生の私たちは夜遅くまで仕事できないもんね。でも高校生活って三年しかないんだよ? あと一年半しかないんだよ? だったらこうやってバイトしているより、学校いったほうがいいよ! バイトなんて夏休みとか冬休みにフルで働けばいい! そうだよ、それがいい!」
ナイスアイデア! でもそれを言って我に返る。これは他人事だと。
「お前、面白いな。そりゃそのほうがいい。長期休みを使って、バイト三昧な日々を過ごせばいい。でもそれで、働き過ぎて、倒れたら元も子もないだろ?」
彼は悲しそうな顔で言った。そうだ、そうなったら水の泡だ。
「じゃあ適度に。適度にバイトしていこ!」
彼には何をいっても響かなかった。今の現状が適度にバイトをしている状態だからだ。
「でもま、出席日数足りないのは確かだから、学校終わりでのバイトにしてもらう」
彼は大きなため息をついて、渡した書類に目を通した。
「ちやみくんは、誰からも愛されるような人だよね」
「だから俺の名前はちやみじゃなくて千屋実だし、愛されてねぇし」
彼の顔が少し赤くなった。
「てなわけで、明日から学校こよう! 改めまして、私宍粟梢です!」
私は片手を出して、握手を求めた。
彼は少し戸惑いながらあきれたため息をつき、握手を返した。