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青春に恋はできましたか?  作者: 雨水雄
20/20

その20

ありふれた青春の中で、かぎりある恋をして、かけがえのない幸せがそこにあることを知る。


今回で、最終話となります。

どうぞ最後まで、お付き合いください!


青春に恋をする。


それは分かるようで分からない、切なくて儚くて、それでいてほんのり美しい景色。


あの頃の私は、きっと夢を追いかける自分に憧れただけの、偶像を見ていた。

でもそれはあまりにも軽薄短小な輝きを追いかけているのだと知った。


そう。私は学んだ。進むことで苦しみ、その痛さが私に残酷な現実と、その先の希望を教えてくれた。


だから、こんな私だからこそ、今だからこそ、その答えに辿り着いたような気がする。

導いてくれた灯火を常に一人では見つけられなかったからこそ、私はその景色を知ることができたんだと思う。


青春とは、ただの箱であり、それ故に宝なのだと。

その空っぽな青さに、一筋の憧憬を頼りに掴んだ時間を詰め込み、いずれは自分が希望になるのだと信じて……。


とにかくだ。私が歩んできた、この報われもしなかった努力は、きっと間違いではない。

だってそうだ。

だったら、報われるまで努力をすればいいのだから。

だから、今の私が手にしている結晶が、どれだけ汚くて、どれだけ醜く惨めでも……。

これが放つ輝きは、誰にも負ける気はしないということ。


彩芽あやめ先生」

「ん、なに?」

「私、まだ青春に恋してるよ。きっと、これからもずっと」

「そっか……それはとっても素敵な答えだね」

私たちにそれ以上、なにかを求める言葉は必要なかった。




文芸部の部室から出ると、外はすっかり夕焼けの鮮やかな緋色が校内を染色していた。

気付けばこんな時間になることも、おそらく今日で最後なんだろうな……。

それくらい密度の濃い時が流れていたからこそ、この一瞬がたまらなく恋しくなり、そしてなにより寂しくなる。

いや、分かってるよ。

これが永遠の別れじゃないことくらい。これからも会おうと思う気持ちの繋がりが、いつまでも私たちを引き寄せてくれることくらい。

でも、ここでこうしてなんでもない幸せな時間を過ごすことは、もうやってこないから……。

「やっぱり寂しいなぁ……」

と、思っちゃうわけなんだよね……。

「大丈夫だよ」

それでも、隣を並んで歩く梨花りかは悠々としていて、堂々としていた。その表情には曇り一つないようだった。

「え?」

「だって、私も寂しいからさ……」

梨花りか……」

「だから、私たちが離れることはないよ。きっと」

「うん、そうだね。……きっと、そうだよ」

だからこそ、今のこの一秒一秒ですら、大切にしなきゃ。もっと寂しいと思えるように、さらに幸せな時間にしなきゃ、もったいない。

「……なごみんたち、遅いって怒るかな?」

「どうだろ……ちょっと怒るかも」

「そうなったら一緒に謝らなきゃね」

「てか先生って、いつからなごみのことそうやって呼んでんの? 」

「ん〜? えっとね、これは私となごみんの秘密!」

「え、今更そんなの……ずるいなぁ」

梨花りかは苦笑いを浮かべて、少し俯く。

見たら分かる、それは嫉妬だってことは。

そりゃ誰だって、いつも目の前にいる人に内緒を抱えられるとちょっと不安になる。私も梨花りかにそんなことされたら、割とへこむ自信がある。

でもね、梨花りか

実を言うと特に隠すことなんて全くなかったんだよ。

ただ、仲良くなって私が勝手になごみんって呼んでるだけだから、なごみんがそれを認めたわけではないから、それを本当に呼んでみたいって思っただけなの……。

本当に近づいた距離感で、ちゃんとなごみんって呼べたらいいなって私が思ってるだけ。

それをさ、今、梨花りかに言っちゃったら、きっと梨花りかはそれを叶えてしまうから……。

だから、これは私だけで叶えたいっていう、ほんと些細なわがまま。

私は結局その内心を伝えることはせず、梨花りかもそれ以上追求してくることなく、平穏なまま図書室にやってきた。


カチコチと一定のリズムを刻み続ける時計は、もう午後5時を指していた。

珍しく校内は未だ静寂を知らず、どこか浮ついたざわつきがあった。

そして、それは私たちも例外ではなく、扉を開いたその先にはぞろぞろと人が集まっていた。

「あ、梨花りか……」

まず反応したのはなごみだった。

なごみ。遅れてごめんね」

「ううん。来てくれて、うれしい」

「そりゃ来るよ。当たり前でしょ? あ、かなでももう来てたんだ」

「うん。部活にちょっと顔出して、そのあとすぐここに来た」

梨花りかは受付に座っているなごみかなでの元へ歩み寄っていく。

そこから少し離れた、でも輪の中にいる春美はるみのところへ私は行く。

「随分と積もる話があったのね」

机に肘をつき、頬杖をついて微笑みを向けてくる春美はるみ

「なんだか話し始めたら止まらなくって……」

私はてへへと頭に手をやりながら愛想笑いを返す。

「それで、もう満足したの?」

「う〜ん、どうだろ……たぶんしてない」

「あら、そうなの?」

「だって、ほんとに止まらないから。終わったと思ってもやっぱどんどん話したくなって、そしたら離れたくなくなってって……キリがないよ」

「そう……まぁ、そうよね」

「うん。そうなんだよ……」

私は膝元で手をもじもじさせながら、春美はるみは変わらず顎に手をやりながら、同じ夕日を眺めた。

「でも、こうなるのは今に始まったことじゃないものね」

「そうだね。きっと、出会ったときからこうなることは決まってたんだよね……」

「はぁ……なのになんでいつも最後になると本当の意味で悲しくなるのかしらね……」

切なくて震えた声で、春美はるみの本心が漏れ出した気がした。

ちらっと覗くと、その表情は夕日に照らされたまま、瞳がひどく反射して輝いていた。

いつも凛として、飄々と振る舞う春美はるみでさえ、この宿命というやつには心が追い越されて、別れを惜しむことしかできないことに嘆くほかないようだった。

でも、やっぱりその顔はどこか美麗を帯びていた。

「それは、あれじゃない? 私たちは意味のために繋がってたんじゃないってことなんじゃない?」

「え……?」

目元を軽く拭う春美はるみは、不思議なものを見るように私に目を向けていた。

「きっと、今までなにか意味があるから一緒にいたんじゃなくて、その意味を探したり見つけたりしてさ、やってきたことに意味があるから、それが積み重なってるからこそ、今が悲しいんだよ」

それは最初から用意された意味のためじゃないから。

ないものだからこそ、共に過ごす時間の一つ一つに意味が生まれて、それが思い出になって、そしてちゃんと繋がっていく。

そうしていくから、今になればなるほど愛別離苦の正体に気付いていくんだ。

だからかな……。

それを素直に離れ難いから弱音を吐く春美はるみが美しく見えたのは。

それくらい、純粋な気持ちが綺麗なのは、当たり前だよね。

「これは……彩芽あやめに一本取られたわね……」

「え、それってどういう意味!?」

いや、春美はるみの方が人として私より遥かに立派ではあるけどさ!

でも私って普段そんなにバカ扱いするように見られてたってこと!?

「私も、教師として負けてられないわってことよ」

「うわぁ……全然褒められてる気がしない」

「褒めてる褒めてる。だから、あんたがシャキッとしてくれないと張り合いがないわ」

春美はるみは慈愛のこもった笑みを浮かべ、私のおでこを小突く。

「ありがとね、彩芽あやめ

「……こちらこそありがと、春美はるみ


「さて、と。じゃあそろそろ……帰ろっか」

この場にいる誰もが、避けていた言葉を、春美はるみは絞り出すように声にした。

それを言ってしまうとまた残された時間が減ってしまうから。だから言えずにいた。

でもだからってそれを言わずにはいられないから。

だから、それをしなければいけないのは、きっと私たちの役目。

「そうだね。もう外も暗いし、その方がいいかもね」

「うん……たしかにそろそろ時間だね」

「うん…………」

「…………」

梨花りかも、かなでも、なごみも。

みんな頷きはしないが、嫌と首を振ることもしない。

分かってる。分かってるから……。

でも、嫌なものは嫌だから……。

そんな抗えない現実に、いたちごっこを繰り返しても、進む時間は梨花りかたちを帰路へと誘なう。

渇いた笑顔を貼り付けながら、なるべく楽しい話をしながら、私たちは校門まで足を運ぶ。

それしか、私たちはできない。

それぞれ靴を履き替えて、グラウンド周辺でまた集結する。

生徒の下駄箱はグラウンドすぐそばにあるのに対して、私たち教師たちはむしろ校門そばにある。

だから、私と春美はるみは手ぶらで下靴を履くと、校門前で梨花りかたちを待つことにした。

…………待つことに数分がした。

「ちょっと、遅いわね」

春美はるみは口にする。私も同感で首肯する。

「なにかあったのかな……?」

「さぁ、どうでしょうね。どうせ名残惜しいかなんかで足を止めてるのかもね」

「……それは、仕方ないかもね」

「うん。今日だけは」

春美はるみは前で、私は後ろで腕を組みながら、3人の姿をまたしばらく待つことにした。

…………そして、数分が過ぎたころ。

のそのそと並んで歩いてくる3人が目に見えた。

お互い気付くと手を振って、梨花りかは私の元までやってくると「ごめんね」と謝る。

「なにしてたの?」

「あ、いや……なんでも」

春美はるみの当然な疑問に対して、梨花りかは歯切れが悪く、言葉を詰まらせる。

さらに一瞥すると、かなでなごみの二人もまた、気まずそうに目を逸らす。

……なにがあったのやら。

それを言及するのも野暮な気がして、私と春美はるみは目を合わせて肩をすくめる。

「まぁ、いいわ。とりあえず、気をつけて帰るのよ」

「はい。……春美はるみ先生」

「ん?」

梨花りかは上目遣いで春美はるみを見やる。

「今まで、ありがとうございました」

「あ……うん。こちらこそありがとね。でもそれは明日また聞くわ」

「はい……」

「じゃあ、みんなもまた明日ね」

「ちゃんと来ることだよ! 私との約束」

私も念を押すように、明日の最後には顔に出すよう小指を差し出す。

かなでもなごみんも、そこに自らの小指を絡めて、指切りをする。

次は梨花りかかな、と待っていても……その指は私の元にやってくることはなかった。

「大丈夫だよ。言われなくても絶対行くから」

代わりに、そうやって笑って見せた。

それから、のんびりと感じる歩調で帰っていく3人の後ろ姿を、春美はるみといつまでも、見守っていた。

明日が終わるときは、もう私はあの子たちの先生でなくなる。

そんな明日がくる。

卒業式とはそういうものなんだと。

それを知るのは、やっぱり明日になってからなんだろう……。




卒業式がしたのは、すぐだった。

昨日帰って、ご飯を食べて、お風呂に入って、ベットの中で携帯を触っては寝返りを打っての繰り返しで、気づけば朝日その日は訪れていた。

緊張したり、恐怖があったわけでもない。

ただ、目が冴えていて、このまま眠らなければなにも起こらないのではないかと思ってしまうほど、沈静で閑静な時間が流れるだけ。

それなのに、今日この日で、私の高校生活が終わってしまうというのが、事実であり、後の事象である。

明日になってしまえば、先生が私のことを梨花りかと呼んでくれることはもうないだろう。


いつもより髪を入念に手入れするわけでもないし、いつも通りカチューシャを頭に添えると、私はそのまま鞄も手にせず外へ繰り出した。

今日は晴れの日にふさわしいと思わせる雲一つない透明感のある快晴で、歩いていて気分も清々しい。

電車に乗り込み、しばらく揺られる。

降りた駅から学校までの道のりは目を瞑ってでも行けてしまえそうなほど慣れ親しんでしまった。

そして、最後の登校日。

校門をくぐると、後輩たちから胸元に赤色のリボンを取り付けてもらう。そのままクラス教室に移動し、落ち着かないそわそわした室内に足を踏み入れる。

中では「今までありがとう」とか「卒業しても遊ぼうね」とかなんてことない取り止めもないやりとりが繰り広げられている。

私もまたその一人。

梨花りか

「あ、かなで

「今日で終わっちゃうね……」

「うん……なんかやっぱ実感ないや」

「分かる。明日からどうなるんだろって感じ……想像もつかない」

なごみに会いに行く?」

「うん、そうだね」

私は席を立ち、かなでと一緒になごみに会いに行く。

会いに行くと、そこにはなごみがいて、教室の中にあの子がいるのを見るのは実は初めてかもしれないと新鮮な気分を味わったりもした。

なごみ

梨花りか……」

なごみも、今までありがとね」

「うん……わたしも。でもまだお別れしたくない」

「そうだねぇ……私もできるならずっと一緒がいいかな」

「…………ほんと?」

「うん。ほんとだよ。だから大丈夫。この気持ちがきっと私たちを離したりしないから。会いたいなって本当に思ってるなら、私たちはずっと会えるよ」

「それ、私のことも入ってる?」

「うん、わたし、かなでも一緒がいい」

「ありがと。……梨花りかは?」

「分かってるくせに……一緒だよ。私たちは」

たぶん、このとき心の底から笑えた気がした。

なんだか、通じ合ってるなって安心したから……。

私はなごみに一つプレゼントをした。


無事に卒業式も終わりを告げる。

何一つ変哲もない。プログラム通りに進めるだけの恒例行事。

開会式の挨拶をして。国歌斉唱、校歌斉唱。

その次に卒業証書授与。在校生の送辞と、卒業生の答辞。

あとは来賓の方の挨拶があり、最後は閉会式の辞。

基本、私たちは座っているだけであとは大人たちが式を進めてくれるだけ。

中には堪えきれず耐えきれず、泣き出してしまう子もいた。それに釣られて涙が溢れ出してしまう子も。

でも、私は同じようにはなれなくて。

まだ、涙が滲んで潤って悲しみが湧き出ることはなかった。その感覚がやってくることはなかった。

どこかで、まだ大丈夫だって自信の強みがあった。


そして私は、卒業式が、終わり、会場である体育館から退却すると、外に出た。

それはみんなとは逸脱した、独りよがりの自分勝手な行動。

最後まで写真を撮ったり、思い出に浸ったり、華麗に締めくくることもなく、私は、まるで脱出するかのように、誰もいない校庭を歩き出した。

その見慣れた景色を歩きながら思うことはたくさんあって、いっぱいあって、たぶん足跡と共に忘れていることもある。

抱えきれない記憶の数々が、追憶しきれない思い出が、これが走馬灯というものなんだろう如く次々と脳内を過る。駆け回る。そして、逃げ去っていく。

そんな大層なものはあまりないし、派手で自慢できるものなんて皆無に等しい。

どこにでもあるような、溢れかえるような日常ばかりだけが蘇る。

だってそりゃそうだ。

体育祭で一位に輝けるほど運動なんてできないし、文化祭で有名になれるほどなにかが得意なわけでもない。

ただ、なれるかもしれないという憶測と独断と勇気だけを振り絞って前を向こうと努力しただけ。

時には挫折してケンカもしたし、時には現実に納得できなくて八つ当たりだってした。さらに時には諦めそうな友人を支えたいと思ったこともあるし、嘆くバカを叱咤することもあった。

そして、時には、いつも笑って夢に近づいていく男に目が奪われたときもあった。

全部、私だけじゃ成り立たなくて、かといって私が私のままでは立ち向かえないことばかりだった。

前を見て、止まっても前を見て、迷っても前を見て、頑張れるときは半歩でも歩く。だからこそ巡り合えた景色がそこにあったんだと思う。

そしてなにより、その出会いと心の支えになってくれた人物が、いっつも隣にいてくれたから。

だから私は歩けた。拙い歩調で、幼い歩幅で、それでも昨日よりちょっと踏み出す毎日を楽しめた。

「………………やっぱ、言いたくないなぁ……」

私の足は、くるっと校内に向く。

どこへ向かう?

あぁ、そうだ。誰かの元じゃない。

私が行きたい場所は常にそこなんだから。


私が立ち寄ったのは、もう、第二の家のような居心地を誇る、文芸部の部室だった。

こんな日にも部活をやるっての? いやいやそれはない。そんなもん今更って感じ。

やるとすれば、ちょっとした手紙を書くことくらい。

おそらくこの後やってくる、誰かさんのために……。


それすら終わった私は、遂に学校の外側へ旅立った。


改札を通ると、駅のホームには一切人はおらず、空虚な空間だけが残っていた。

私は電車のダイヤも確認せず、ただ待ち席に腰をかけた。

ひたすらにぼーっと……時が流れた。

…………これで、終わりかぁ……。

この先、私に待ち受けているのは一体なんなのか、そんなの全く分からない。

千里の道も一歩から。

それに倣って進んだ日々がまた、淡々と続くのだろうか。

まさしくシュレーディンガーの猫のように、その中身は見当もつかない。

ただまぁ、うん。そうだな……。

「とりあえず好きなことするしかないか……」

「お、いいなそれ!」

「!? っくりしたぁ……俊介しゅんすけか。驚かさないでよ……」

一人でにぼやいた声を、勝手に聞いていた俊介しゅんすけはニカっと笑って私のそばまで来ていた。

全く気付いてなかった私にとっては心臓が飛び出る思いだったんだけど……。

「いやいや悪い。まさかお前がいるとは思わなくてさ」

ギターを抱えていた俊介しゅんすけは「よいしょっと」と私の隣に腰を下ろす。

「あんたこそ、なんでいんの?」

「俺には次のステージが待ってんだよ」

「あぁ、はいはい。すごいね頑張ってね」

「おいおいちょっとは関心持てや」

「いや全然これっぽっちも興味ないから」

「つれねぇなぁ……。んで、お前はなんで?」

「え? まぁ……なんていうか別にあそこに留まる必要はないかなって」

「じゃあ、俺と一緒だな」

「あっそ。……てか私、ちょっと会いたくない人いたし」

「誰さ?」

たける

「なんでさ?」

「…………昨日、告白されて」

「えぇ!? お前が!?」

「ちょっとあんたそれ失礼」

「それで、ふったのか?」

「まぁ……うん」

「じゃあ、俺と一緒だな」

「いや、なんでよ。それは違うでしょ」

「俺さっき、かなでに告られた」

「えぇ!? あんたが!? ありえない!」

「え、お前のが失礼じゃね?」

「それで? あんたかなでのことふったの?」

「まぁ……おう」

「信じらんない! うわぁ……かなで、なんて不憫なの……」

「いやだって俺そういうの興味なかったし」

かなでほんとに可哀想……てかあの子なんでこんなやつなんか好きになっちゃったの……。あんたまさか興味ないとか言ってふってないでしょうね?」

「え…………言った」

「うわっ! もうほんと最っ低!」

「じ、じゃあお前はたけるのことなんてふったんだよ!」

「…………………言った」

「一緒じゃねぇか!!」

「いやだって私はほんとに興味なかったんだもん!」

「俺だってそういうことだったんだよ!」

「……はぁ。まぁ、そうなってしまったことは仕方ないか」

「そうだな」

「……それで、あんたってこれからどうするか決めた?」

「俺? 俺は今と変わらないぞ?」

「え、あんた留年したんだ?」

「ちげぇっつぅの!」

「冗談だってば。てことは大学行きながら音楽続けるんだ?」

「あたぼうよ! お前もそんな感じだろ?」

「たぶん……」

「たぶんってなんだよ」

「だって大学通ったら今みたいにな生活はできないかもしれないじゃん。もっと忙しくなってそれこそ夢なんて追いかける時間なくなるかもじゃん」

「……お前、バカだなぁ……」

「え、あんたに言われるのすっごい腹立つんだけど」

「お前さ、優先順位逆だろ。夢追いかけることがまず第一に決まってんだろ」

「…………まぁ、たしかに」

「そこ逃げんなよ。俺さ、将来お前に歌詞書いてもらうの楽しみにしてんだぞ」

「は!? 本気で言ってる?」

「おう。お前ならって俺は信じてる。お前の気持ちを俺が全力で歌ってやるよ」

「…………本気で言ってるんだよね?」

「じゃなきゃ言わねぇよ」

俊介しゅんすけ……あんたほんと変わらなさそう」

「おう! たぶん俺ずっとこのままだわ! 自分でもそんな気がするぜ!」

「いやむしろ変わんないでよ。私、あんたのそういうとこはちゃんと尊敬してんだから」

「お前のそういう素直なところは嫌いじゃないぜ」

「うっさいバカ俊介しゅんすけ

「うっせ、バカ梨花りか


「……負けんなよ、俊介しゅんすけ

「お前こそ、勝てよ、梨花りか

私たちは拳を合わせる。

これは誓いなのか、それとも契りなのか。

はたまたなんの意味もないものなのか。

そして、いずれ、意味のあるものになるのか。

きっと私たちは、それを導く答えを未来で手にすることだろう。

「先生、さよならは言ってあげないからね」

もし、その答えを見つけた時は、一番にあの人に届けようと、心に刻みこんだ。




「先生、やっぱりどこにも梨花りかいない」

「そっか。……そっかぁ…………」

なんとなく、昨日帰る際、そんな気はしていた。

それでも、こうも別れるとなるとちょっと苛立ったりもする。

卒業式が終わり、教室で最後に一言喋り、ありきたりな時間でありながら、感慨深いひとときを過ごした後、クラスみんなで写真撮影しようと外に出た。

いや、そのときにはもうすでに梨花りかがいなかったことは知っている。

だからこうしてかなでを見つけるなりすぐに事情を話して一緒に捜索してもらっていた。

そのあとたけるやなごみん、春美はるみを見つけて梨花りかの居場所を聞いて回ったが、3人も私から聞いて初めて梨花りかがいないことを知ったようだった。

でも、なごみんは案外平気そうで、なんならちょっと面白いものを見たような笑顔をしていた。え、なにそれめっちゃ可愛い……と束の間見惚れてしまっていた。あ、でもよく見ればその銀髪の上には、梨花りかが使っていたカチューシャが乗っていた。……まぁ、そういうことなんだろうなって、納得するしかなかった。

それからしばらく探し回ったけど、みんなとの談笑の時間も重なり、結局その姿を目にすることは叶わなかった。

梨花りか…………」

「大丈夫よ、彩芽あやめ

春美はるみ?」

「あの子はきっと、今日が最後だって思ってないから、普通に帰ったのよ」

「そうかな……」

「そうよ、必ず。だってあなた自慢の生徒でしょ? 信じてあげなさい」

「……うん。ありがと春美はるみ


そして私は、最後に吸い込まれるように部室に向かい、一通の手紙を手にする。

もちろん、梨花りかのものだと知りながら……。

その中身を開くと、もう、涙よりも先に、満面の笑みが溢れるばかりだったことは、永遠に忘れない思い出。




そして、また新しい季節がやってくる。

小さな蕾が、じわじわと花咲かせ、鮮明なパステルカラーのピンクで彩る春が、新入生徒を歓迎している。

今日初めて会う子たち。

これから私が育てる期待の星たち。

誰がどんな子で、なにを抱えて、なにを秘めていて、なにを望んで、なにを夢みているのか。

それから知らなければいけない。一歩ずつ歩み寄って、手を取りやって、繋いで、支えあう。

--先生、私もやっぱり、ずっと彩芽あやめちゃんが好きだよ。

梨花りかが最後にくれたメッセージは、今も私の胸の中にしまってある。というより、本当に胸ポケットに仕舞い込んである。

あの日、梨花りかと出会い、手を握り、時には引っ張り、でも時には引っ張られ。

その手はもう今は見えないけど、けどちゃんと今もある。

そりゃ、そうだよ。

辛い時、苦しいとき、挫けそうなとき、繋がっていた手は、きっと今も繋がったままなんだから。

だから、もし私がへこんだ時は、この手を梨花りかが引っ張ってくれるんだよ。

そんな時間を私たちは編み続けてきたんだよ。

そう。だからこそ。

この新しい故の不安と緊張も、また一興で。

この教室もまた、私を私の知らない世界を教えてくれる宝石箱のようなものなんだ。


だから、まぁまず最初の一言はもう、これしかないかなって感じだよね。

すぅ〜っと息を吸って、はぁ〜っと息を吐く。

ちゃんと、みんなにこの声を届けるための深呼吸。

息を整えて……さて、と。


「みなさんは、青春に恋してますか?」



どうもこんばんは雨水雄です!

とうとう終わりを迎えました……わぁい!

いやいや誤字脱字だらけでそれほど展開の激しい物語ではありませんでしたが、どうでしたか? ほんのちょっとでも共感などしてもらえる部分があれば嬉しいなぁ……!

まぁ、と言いつつもですね。

どれだけ作者が伝えたい我儘があり、知って欲しい傲慢があったとしてもですね。そんなの読者の方々に委ねればそれこそ千差万別というものです。

読んでくださった方の数だけ感想がありますし、意見があるものです。その方が自由で楽しいです!

まぁ、その中でただ唯一雨水から言えることは、それでも作者が面白い! こう描きたい! と思った好きなものを書き上げることができるのが作者の特権だと思ってます。

ですので! 雨水はまたここにやってきます!

今のところアフターストーリーや細かい話を書く予定は考えてないんですが、気が向けば書くかもしれません。

ということで、今後については、Twitterで活動を報告していく方針です(基本的に日常編を呟いてますが)

プロフィール画面でもURLは載せてますが、念のためここでも紹介しておきます→@U_Amami0202

それでは、今回はここまでということで!

今まで読んでくださった方々、ご愛読ありがとうございました!!

また、お会いすることがあればまたよろしくです!

ではまた! じゃね〜♪

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