その13
いつか叶うものも、今分からなければ一歩踏み出すのにも相当な努力と勇気と覚悟が必要ですよね……。
毎週日曜日に投稿していきます。恐れ入りますが時間帯は作者の都合によります!
夢を叶えるには努力は必須で。
だからと言って努力が夢を叶えてくれる保証はどこにもなくて。
だから結局中途半端な歩幅で進んだ足跡しか残らない。
……そんな私は努力しているのだろうか?
果たして、一体努力とはなんなの。
その答えを探そうとする私に、努力する資格はない。
それもそうだ。
頑張ってるとか、しんどい思いをしているとか血と汗の量とか一切関係ない。夢を叶えようとしているのかが一番肝心なのだから。
だから、私が努力しているかどうかなんて、私が決めることじゃない。かと言って誰かが簡単に教えてくれるものでもない。
結果がでて、結果論として、最後にその過程がきっと、私にとっての努力の結晶なのだろう。
そう、分かっていたはずなのに……。
誰もがそうやって、夢に必死に食らいついているはずなのに……。
私は、もう……なにもかもどうでもよくなってしまった。
諦めず、ただひたむきに突き進んでいくという一番の近道を、少しずつ着実に踏みしめている俊介のように。
一度は挫折を味わいそうになったけど、でも好きだからやめられなくて、ずっと同じ道を違う景色を見ながら歩いてきた奏のように。
私は、なれない。
そう、なんとなく感じてしまった。
私は二人のように輝けないんだと。そんな風に眩しくなれないんだと、悟った。
私は平凡で、いや、平凡以下で、きっとこのままじゃなにも残さずに潰えるだけだと。
それが、2年生の終わりに、私が出した答えだった。
春の訪れと同時に、私は3年生になった。
桜はひらひらとその空色にピンクを添える。
けれど、その彩りも特に新鮮感なく、私はその時の流れに従うだけの成長を遂げた。
言うなれば、ただの大きな子供に一歩近づいただけのこと。
これから私は誰かのために貢献することもなく、誰かを幸せにすることもなく、ひたすらにあるがままに生きていくだけのこと。
なにか、私らしい特別ななにかなんてないままに。
だから、これはきっと気まぐれ。
希望も期待もない……ただの空虚が具現化したかのような、行き場のない出来上がっただけの作品が完成しただけのこと。
とりあえず応募した。そして、3ヶ月後、案の定落選の通知が届く。
評価に同情も心配もない。
そんなこと分かってる。
でも、もう前を向くと、夏はそこにいる。
まるで私の今までを嘲笑うかのように、その場から動かずに。
いつも結果は失敗しか教えてくれなくて、かといって正解を知っているわけでもない。
そのくせ、間違いなんだと、貶すのだけは一丁前。
じゃあ一体なにをどうすればと堂々巡り。
同じ場所をひたすらにぐるぐると回っているだけなのに、やはり季節はそれを知らせる。
暑くなった。そして私は、夏がきたんだと感じるほかなかった。
制服は夏服にかわり、少しばかり身軽になる。
ついでに言えば、考えることも感じることも億劫になった私の心も随分と内容量が薄くなった。
心ここにあらず。上の空。そんな言葉がぴったりな気がした。
どんな未来予想図を描いていても、そこに辿り着ける自信も実力も伴っていなくて、ただその現実に絶望するだけだから。
そんな夢を語れるほど、私の時間に猶予なく。さらにはそれほど人生を投げ出せる覚悟もない。
なりたいと願い、なれるんだと密かに思い、なるんだと強く誓い…………なれないのかもしれないと懸念が生じた時点で私の道程はぐにゃりと乱れてしまった。
ふと、背中に手を添えるように励ましの言葉をくれる和には、いささか大変迷惑をかけたんだろうな……。だって私、だいぶめんどくさいし。
ずっと前を向いて、弱音を許さず、いつも笑って隣にいてくれた彩芽先生にも申し訳ないな……。私のせいで長い間、時間の無駄使いをさせてしまった。……ほんと、私は罪深い。うざすぎて死ねる。
ただ……そんな優しさに不安が募っていたこともまた事実。
先生はどんなときも私を前から引っ張ってくれるけど、私の意志はどんどんと重さを増すばかり。それでも歩いていってしまう先生がさらに遠く感じてしまい、ついには猜疑心までも私の心を黒く染み込んできていた。
本当に私のことを想ってくれているのか?
そんな疑心暗鬼。
私の落胆に反比例するように明るく笑顔を咲かせる先生は時に毒で、近くにいてもまるで手が届かない距離を感じた。
入学した当時の初々しい自信は蛇行を繰り返すたびに暗澹に吸い寄せられ、今じゃ忸怩たる思いに胸が締め付けられる一方だ。
いっそのことこんな私のことを無茶苦茶に叱責してくれればよかったのに。なんなら思うがままにに指摘してくれればよかった。
なのに、みんな優しいから。
それでも私の背中に手のひらサイズのぬくもりをくれるから。
そんなことするから。
私は優しさの正体すら、見失ってしまった。
その日。夏休み前日。
つまるところ、終業式。
私は午前中の集会やホームルームが終わり、部室に向かっていた。
体内時計は少しばかりの空腹を訴えてきたが、私はそれでもあそこに足を運んでいた。
特にさしてそこに意味はないのに。
ただ先生に会って、なにも起こらない無駄な時間が過ぎるだけ。お互い骨折り損のくたびれ儲けもいいところ。
でも今日の内に会っておかないと、夏休みになってしまうとさらに厄介になってしまうから。
そう思うと、今日顔を合わせて、もう私に構う必要なんてない……そんな旨を伝えておきたかった。
そうしても先生は、きっと私に笑いかけてくることだろうから……。どこまでも平行線。終わらない水掛け論が続くだろうから。
……だから、これはおそらく、別離の告白とでも言うべきなんだろう。
部室に辿り着いた私は、そっと扉に指を引っ掛け水平移動させる。
ガラガラ……と重たく古臭い摩擦音を響かせながら扉が開く。その音が、相手に私の存在を知らせる。
「あ、梨花きた」
「うん、きたよ。先生」
私は言わずとも先生と対面するように用意された椅子に座る。
向かい合っているはずなのに、私たちの目が合うことはない。なんせ、私が合わせないから。
先生のあったかい眼差しがそこにあるのは分かっている。でもそれを真っ当から受け止める勇気がなかった。あまりにも眩しくて、とてつもなくめんどうだったから…………。
必ずと言っていいほど、その瞳に視線を向けると、期待されてしまうのは百も承知だった。次は、その次は、今度こそは、そんな希望的観測の譫言を雄弁に語られるに違いない。
そんなの、今の私に耐えられるわけがないから……。
だから、先に私が口を開いた。
「先生……疲れたね」
「え? あ、今日? まぁ、そうだよねぇ……。ずっと話聞いてるだけなんて退屈で疲れちゃうよね」
先生はおどけているのでもなく、素で私の言葉をそう認識していた。
「そうじゃなくてさ。私とのこの関係が、もう疲れたよねって言ったの」
そこでようやく、先生の瞳の色が変わった。
鋭利な目つきが、私の罪悪感にぐさりと刺さる。
「……なんで?」
「だって、私結局今の今まで結果出してないからさ。それなのにまだ夢を追いかけるってバカみたいじゃん? ちっとも近づく気配もないのに毎日小説書き続けるなんて非常識もいいとこでしょ。そんな私に付き合い続けるなんて……先生が可哀想だよ…………」
「それは、梨花が決めたことなの?」
なにが? とは聞かない。それくらい理解している。
むしろそれほど、先生は私の意図を汲み取ってくれている。
「私のことは私が決めるから……」
「……そっか」
「うん。だから、もうやめよ? こんなの続けたって意味ないよ。もう私さ、もっと現実的で、建設的で、ちゃんとした夢を叶えたい」
「私はそうは思わない。梨花の夢は梨花だけのものだから。そうやって本当にやりたいことをないがしろにして、らしさを無くさないでほしい」
「じゃあ先生はこのまま私に絶望し続けろっていうの? 何度も落選してなんの取り柄もない私にまだそんなこと言うの? それは……かなり残酷だよ」
「でも梨花はそれじゃきっと後悔する。あのときまだまだ夢を追いかけておけばよかったって思うはず。……私は梨花のできあがる作品どれも好きだから。それくらい梨花は楽しんで書いてるんだなって伝わるから……だから、梨花にはそうあり続けてほしい」
「……先生が良くても、世間ではだめなんだよ」
「それでも、続けてみなきゃいつかの希望はやってこないじゃんか」
あぁ……だめだ。キリがない。
結局、思っていた通り、私たちはすれ違いを噛み合わせることができず、ただ言いたい放題を繰り返すだけなんだ……。
そんな滑稽を、まだ私は続けるのか?
私は……どうやらそこで、諦めることができた。
気付けば感情が入り乱れ、どうしようもなく涙が溢れていた。決して激しくなく、瞬きをすれば滴が垂れ落ちてしまうほど静かに。
「私もう3年続けてきたんだよ? 折れそうになりながらも妥協せずにずっと。なのにだめだったんだよ? どんなに先生がいい作品だって言っても私の書いた本はそんな風に評価されなかったの……。そんなの……意味分かんなすぎて吐きそう……。いい作品なんてことは私だって分かってたもん! だって私が書いてるんだよ? 私がよくなきゃいいわけないじゃんか! ずっと傑作しか作ってこなかったに決まってるじゃんか! なのに誰もなにも言ってくれないどうすれば正解かも教えてくれない! でも先生はまた次頑張ろうって言うの……。そんなの…………もう辛い」
「…………梨花」
「ごめん先生……私、もう無理」
「大丈夫だよ……梨花なら」
「そういうのが、無理なんだってば」
私は、一度たりとも先生の眼を見ることなく、部室を後にした。いや、もう来ることはないだろうから、潔く去ることにした。
それでも最後。
「梨花……ごめんね」
先生の声は泣いていた。頬を伝うあたたかい涙が肌を潤すかのような、寂しげで切なげで非力な声音だった。
そして一歩、背後から、踏み出した気配はあった。
「梨花!!」
抜け出す私を呼び止める声もあった。
それでも。それだからこそ。
私を引き止める手がなかったことが、私をこの場から逃した原因であるのに変わりはない。
どうもこんばんは。雨水雄です。
基本的にあとがきの書き始めは自己紹介というのが小説を読んでいれば常識なんですが、雨水は今更そこに便乗します。……とりあえず今まで疎かにしていた分もう一度言いますね。雨水雄です。
あともうほとんど月曜日が顔出してるころに投稿してすみません。まぁ、そこんとこ雨水なんで目を瞑っていただけると幸いです。
とりあえずもう時間やばいんで投稿しますね。
また来週も会えると信じて……。