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往訪

作者: 判子

 同じ大学ゼミの雄介の家に遊びに来ている。

「なんか暇だなー。お前んち初めて来たけど、何もないじゃん。面白いゲームとかないの?」

 出されたお茶もとうに飲み干した私は、手持ち無沙汰に雄介に訊ねてみた。雄介は私に背を向け、スーパーマリオブラザーズをやり続けている。

「おーい、無視すんなよー」

 マリオの挙動から目を離さない雄介に少し苛立ちながらも、スマートフォンをいじることにした。しかしながら、暇を持て余した私は、既にTwitterのタイムラインを見尽くし、ソシャゲのスタミナを消費しきり、まとめサイトの記事を読破しきっていた。

 おや。読破しきっていたと思っていたまとめサイト記事に新たな「5ちゃんねる」のネタが投稿されていた。

「【悲報】住んでる賃貸が事故物件だった件wwwwww」

 興味をそそられた私はそのまとめを開き、読んでみることにした。どうやら、スレを立てた「1」は都内に住んでいる若いサラリーマンで、破格ともいえる家賃の賃貸物件に住んでおり、事故物件の情報提供ウェブサイト「大島てる」で自宅を検索したところ、過去に自殺者を出した事故物件だと判明したようだ。スレの中では同情的な声や揶揄するコメント、不動産の告知義務違反を批判する意見など、喧喧囂囂とした様子だ。

 「1」の悲痛ともつかないレスを笑いながら読んでいたが、ふと気になって自分の自宅を「大島てる」で検索してみることにした。大学生が一人暮らしするのに適したリーズナブルな家賃設定で、少しぼろい我が家。幽霊が出るには散らかりすぎているかもなぁ、などと思った。

 検索してみると、どうやら自宅から徒歩数分の近所で独居老人が孤独死こそしていたものの、自室には何も異常がなかった。その後、実家や通学している大学、バイト先も検索してみたが全て死人の発生していない健全な環境であり、拍子抜けした気分になった。

 ふと気になって、今足を延ばしている雄介のアパート、古巣荘を検索してみることにした。

 住居が事故物件であるときに表示される炎のアイコンが、古巣荘の上に表示されている。

 まさか、とたじろぎつつアイコンを選択してみると、古巣荘、しかも現在雄介が居住している102号室で殺人事件が起こったようだ。

「おい!これ見てみろよ!」

 驚かそうと雄介に向って声を発したが、またしても無反応。

「つれないなー」

 スマホ画面に目を戻す。古巣荘102号室の事件詳細を読んでみる。


【古巣荘】

「102号室。撲殺。男子大学生が殴打され、浴室で四肢を解体される。遺体は山中に遺棄され後日発見。」


 「男子大学生」?102号室の男子大学生ってまるで雄介みたいだな。雄介を覗き見る。どうやらマリオはクッパの放ったハンマーにぶつかり、死亡してしまったようだ。

「ったく。ゲームオーバーかぁ」

 雄介が溜息を吐く。

 考えてみれば私は彼をよく知らない。雄介が大学で私以外と話しているところを見たことがないし、そもそもゼミの出席も少ない。いつも単独で行動していて、物静かで、まるで柳の下の幽霊のようなオーラをまとっている。

 人が死んだとされる部屋で平然とゲームをしている彼の背中が急に得体のしれないもののように感じ、私は自宅に帰ることにした。

「長居しすぎたし、そろそろ帰るよ」

 私が鞄を持ち、立ち上がると、雄介もこちらに向き直り立ち上がった。長い前髪で表情は良く見えないが、どこか焦点が会ってないように感じられる。

 私が靴を履こうとすると私を横目に、彼は浴室のドアを開けた。

「あーあ、これから一仕事だなぁ」

 雄介がつぶやく。私は浴室内を覗き見る。


 浴槽の中に、頭から血を流し既に事切れた、私の遺体があった。


 雄介は糸鋸をおもむろに取り出し、作業を始める。

 雄介は刃を上下し、私の撲殺死体の四肢を切断している。冷水をシャワーで流しながら作業を行うこと血液の凝固を防ごうとする工夫も見られる。そんな彼の様子を見ながら、私は徐々に記憶を呼び起こす。そうだ。私は部屋に招かれ、紅茶を飲んだ途端睡魔に襲われたんだ。深く眠っている間に大きな衝撃が頭に走り、鈍痛に襲われたと思ったのも束の間、感覚がなくなっていったんだ。

 まさか、雄介が私を撲殺し、解体することを楽しむ悪趣味な人間だったとはなー。大島てる、情報を事実に先んじて掲載するなんてやっぱり流石だな。

 徐々に解体されゆく自分の肉体を見つめながら、あの映画のオチみたいだな、と私は思った。


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