運命
21:40
「あと20分で害人が淘汰されるだと!?」
れおは考えるより先に体が動いていた
(ずえが危ない…!)
---人間スラム---
スラムは混乱の声や不安を掻き立てるような足音に埋まっていた
サイレンが鳴り響く
「害人協会会長の渡辺です。皆さん早く逃げてください!なるべく遠くへ、そして隠れてください!」
21:54
「ハアハア…ずえはどこだ!?」
人々の進む流れに逆らって、れおはずえを探し続けた
「まずい、このままじゃ施行の時間になってしまう」
しかし、ずえの姿は見当たらない
時間は刻々と迫っていた
「れお殿!?こんなところで何してるんでありますか!」
「良輔!お祖父ちゃんの葬儀式以来だな、お前も逃げるところなのか」
「そうであります、家族とともにはるか遠くの地に移住するのです」
「そうか、ところでこんな女の子を探してるんだが見てないか?」
れおは中学校卒業のときずえと一緒に撮った写真を見せた。
「うーん、見てないでありますな…」
ウィーンゴゴゴ
突然、けたたましい轟音が鳴ると、人間スラムの奥から悲鳴が聞こえてきた
「始まったのか!?」
「じゅ、銃声も聞こえるであります!」
「早く逃げ…あっ!」
逃げ惑う人々が2人と良輔の家族を引き裂く
「母さん!?父さん!?」
「良輔ー!!!」
手を伸ばすも数センチ届かなかった
「とにかく逃げるぞ!このままじゃやられる!」
「でも、父さんと母さんが…」
「言ってる場合か!親に会う前にお前が死ぬぞ!!」
「わかったであります、ここからなら近道があるのでそこへ向かいましょう!」
2人は右に外れて出口を目指した
轟音はさらに近づいてくる
「くっ、このままでは追いつかれるでありますよ!」
「念のため持ってきておいてよかった、良輔!俺の手を掴め!」
良輔は一瞬不思議がったが、すぐれおにつかまった
「よし、ウイルス型強化シューズ!」
れおは履いている靴に注射を刺した
「活性化!!」
れおの靴に翼が生え、格段にスピードが上がる
「れお殿!これが未来人工人軍省成績トップの力…!」
「大げさだ、これくらい誰だってできるさ!」
2人は瞬く間に駆け抜けていき、出口を出た
「母さんと父さんは!探さないと!」
「ああ、行こう」
しかし、良輔の両親は見当たらない
「もしかすると、まだここを出てないのか!?」
「それはまずいですぞ!戻らないと!」
良輔は人混みを掻き分け、スラムへ走っていった
「おい!もう戻ったら生きて帰れないぞ!」
れおは良輔を追いかける
22:20
『害人淘汰作戦終了。超朝廷軍はスラム内に害人が居なくなったのを確認したのち、速やかに撤収してください』
スラムに着いたが、良輔の姿を見失っていた
「くそっ!」
スラムは血に塗られ、レンガで作られた家も崩壊し、異臭が漂っている
「この場所にいられるのも時間の問題だ、早く良輔を見つけないと」
「こっちの方にもいないか…」
スラムの端まで来たが、人影すら見ることがなかった
「もう少し奥まで行ってみるしかないな」
あたりは真っ暗で、遠くまでは視界が及ばない
「このままじゃ良輔も危険だ、急がないと」
不安で心拍数は上がり、息遣いも荒くなっていった
そのまま進んでいくと、小屋から泣き声が聞こえてきた
「ん?女の子が泣いてる…?」
恐る恐るドアを開けると、そこにはお面を持った女の子が座っていた
「ずえ!早く逃げないと!一緒に行こう!」
顔をあげた彼女の目は涙に溢れ、頰は血で汚れている
「れお…お祖父ちゃんが…お祖父ちゃんが!!」
ずえの指差す方向へ目を向けると、弾丸で穴だらけになった男が倒れていた
「あ…あ…何で、こんなことに…!?」
怒りが沸々と湧いてくる
「でも今は逃げるしかない!ずえ、ここを出るから一緒に来てくれ!」
「だって、お祖父ちゃんが!」
「ずえ!もう助からないんだ、早くここから離れよう!お祖父ちゃんのことを考えるのはその後だ」
嫌がるずえを引っ張り、急いで出口へ向かったのだった