俺のプール
時は2420年(明G20年)、世界は人工人間である「AH」が人口の半分以上を占めていた。
2400年に人間とAH軍団との「人人大戦」に人間が敗北する。国王率いる超朝廷が日本に置かれ、アメリカ、中国、ロシア、フランス、オランダ、イギリスを征服。「人工帝国」を建国し、AH中心に世界が回るようになっていった。
---未来人工軍省教育部---
「おめでとう、また成績トップですね。今後も頑張って、将来名誉あるAHになれるよう頑張ってください」
長官がそう言った後、拍手が湧き上がった
「ありがとうございます」
特に表情変えずに一礼し、自分の列に戻る。
「おいおい〜、れおまた成績トップかよ敵わねーぜ」
「もう将来はAHになること確定ね!羨ましい!」
教育部では対人間の戦闘技術や最低限のAHに関する知識を身につかせる。成績優秀者は、20歳を迎えるとともに完全にAHに改造されるのだ。
授業は終わり、れおは帰りの支度を始めていた
「ねえねえ、このあとちょっと時間ある?」
「ごめん、大事な用事があるんだ」
「そうなの?ならしょうがないわ」
「どうしても大事なんだ、また今度な」
友達を置き去りにれおは教室を出た
「名前ヲ発声シテクダサイ」
下駄箱にも人工知能が使われていて、本人の声のみを承認するようになっている
「田中れお」
「承認シマシタ、マタ明日」
下駄箱が開き、少し冷えた靴を履く
これでも冬にはいったばかり
地球温暖化は着実に進行していって、真夏は地面が焦げるほどの暑さに、真冬は虫が凍るほどの寒さであった
肌を突き刺す風が音を鳴らす
「早くいこう…!」
しかし、れおの胸だけは鼓動を早め、全身の体温をあげていたのだった
---人間スラム---
「楽しみだ、今日は人生で最良の日かもしれない」
というのも、この日は第一次「廃歴令」施行の当日。
超朝廷は、人間の歴史を忌むべき軌跡として、歴史の資料や人間用の娯楽の全処分を決定した。10回に分けて遂行される予定であり、その第一回が日本の“平成まで”のものなのだ
人間スラムに住む通称「害人」らはこの処分のために召集されていた
れおは顔を隠し、処分されるものが置かれる倉庫に忍び込む
「まるで歴史のプールだ!」
埃っぽさと薄暗さに目を細めながらも、久々に嗅いだ紙の匂いに全細胞が活性化していく
「バレたらまずいから、いくつか持って帰ってから見よう」
あらかじめ用意していた袋に詰めていく
誰にも見られていないことを確認して、足早にその場を去った
しかし、1人の少女はその姿を捉えていたのだった
「れお…どうしてここに…?」