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急に始まる戦闘

 木造の家が並ぶ住民街。

 周りには木々が、邪魔にならない程度に生え揃っている。自然と上手く共存した街。

 何年も暮らしてきた風景を、見間違えるはずがない。


 ただ一つ違う点を挙げるとすれば、そこに居る人は住民ではなく、ボロい服を着た盗賊達ということだ。


「な、何だこいつ!?」

「いきなり現れたぞ!」

「この格好──騎士だ!」

「敵襲だ!」

「どうして私はここにいるのだ!?」


 クライシス領は混乱の渦に巻き込まれていた。

 それは盗賊団『荒野の牙』だけではなく、突然現れたレーナも同じことだった。


 それぞれがレーナの出現に驚き、武器を構えたり敵襲を報せる警鐘を鳴らしたりしている。


 そしてレーナは、気づいたら敵地にいることに脳の処理が追いつかず、何の説明もなしに物事を進めるシエラ

に文句を言いたくなる。


 だが、本当にここがクライシス領ならば、ドランヴェイル王国から相当離れた距離であることは確かだ。

 どれだけ不満を爆発させても、レーナの声がシエラに届くことはない。


「──ん?」


 そこで、上空から一枚の紙がヒラヒラと落ちてきた。

 何か気になったレーナは、それを取って丁寧に折られた紙を広げる。


 そこには丁寧な文字で、こう書かれていた。


『レッツエンジョイですよ』


 ──グシャ。


 それはレーナが、悪魔(シエラ)からの手紙を握り潰した音だった。


「ふふふ……」


 ふざけやがって。

 ああ、やってやる。


「やってやろうじゃないかぁあああああ!!」


 怒りの頂点が限界を迎えたレーナは、一番近くの盗賊に向かって地を蹴りながら抜刀する。

 鬼神のような気迫を感じた盗賊達は、情けない声を上げ、少女から逃げ惑う。


「お前ら! 相手はただのガキだ! 怯えてるんじゃ──ぐあぁ!」


 勇敢に立ち向かおうとした男は、言葉を全て言う前に斬り伏せられた。

 まだ息はあるが、もう戦えない。次の標的に切り替える。


 今のレーナは怒りで動いているようなものだが、それでも不思議と冷静さを保てていた。

 盗賊達が混乱している間に、少しでも彼らを無力化しなければ、不利になるのはこちらだと理解している。


 これは走り込みの時、次々と襲いかかる魔物相手に学んだことだ。


「なら私は、斬るのみだ!」


 開始から魔力を纏わせ、常人では出せないような早さと破壊力で次々と斬る。


「ヒィ! ば、化け物!」

「……化け物? 私がそう呼ばれるには、まだ弱すぎる」


 本物の化け物は、ここまで強くなったレーナの本気を、子供を戯れているかのように相手をするシエラのことを言うのだ。

 この場にシエラが居たなら「解せないです」と言いそうだなと思いながら、レーナは神器のある場所まで急ぐ。


『神器の特定は簡単です。嫌な予感がすれば、そこに神器があります』


 そんな曖昧なことを、シエラは事前に言っていた。


 少し集中してみると、確かに粘りつくような不気味な空気が、ある屋敷から漂っている感覚がした。

 その屋敷は、このクライシス領の丘にそびえ立っている。


「……何だか、随分と懐かしく思うな」


 レーナはその屋敷で育った。

 そこで産まれ、家族や使用人達との思い出が沢山詰まった場所。


 懐かしく感じるが、今は全く別の物に見えてしまう。

 あの中にはもう、レーナの知る人物は居ない。レーナの知る笑顔は、もう存在しない。

 盗賊達に占領され、無法地帯と化しているはずだ。今も戦闘態勢に入った男達が、レーナのことを待っている。


 家族や使用人達、この領に住む住民が何処に幽閉されているのは気になるが、レーナの仕事は盗賊達の殲滅だ。


 シエラは信じろと言った。

 だからレーナは、彼女を信じる。


「よし、行く──っ!?」


 一瞬の殺気。


 それの正体を確かめる前に、本能に従って横に跳ぶ。

 ドゴッ! という地面を砕く音と共に、レーナの体を衝撃が襲った。


「ぐっ、く……!」


 ゴロゴロと転がりながら受け身を取り、即座に殺気のした方向を睨みつける。


「…………」


 屋敷に繋がる道。そこを守るように、一人の男性が立っていた。


「貴様、何者だ……」


 剣の切っ先を向け、警戒を続けたまま問いかける。


「…………」


 だが、男はその問いに答えない。


「……?」


 流石に不審に思ったレーナは、その男を注意深く見つめた。


 一見すると普通の男性だ。

 服は他の盗賊達と似たような物なので、同じ組織であるのは間違いない。


 しかし、普通の人と言うには、少し不気味だった。

 まず目の焦点が合っていない。レーナを見ているのは間違いないが、両方の目はそれぞれ別の場所を捉えていた。

 質問にも答えず、微かに「あ、ぅ……あぁ……」と呻いている。


「う、ぁ」

「──っ、くっ!」


 不意に男が右腕を上げた。

 再びレーナを襲う全身を射抜くような圧力に、飛び退く。


 眩い閃光が辺りを照らし、次の瞬間にはレーナが立っていた地面は、大きく抉れていた。


 ──あれに当たるのは危険だ。


 あの男が異常だというのは、十分に理解した。

 だが、あの奇妙な光がある限り、レーナが近づくことは出来ない。


「これは、少々マズイな」


 冷たい汗が一筋、レーナの背中に流れた。

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