下校夏休みに始まり
「たーけし君! 一緒に帰ろ!」
畑山教員の事務的な注意喚起のその後の下校の時間。
たけし少年はそう語り掛けられました。
この少女こそが今回の語りのキーパーソン同森メグでございます。
年はたけし少年と同じ11歳。
人間にしてはおそらくセミロングの可愛らしい風貌の少女の部類に入りでしょう。
当然、情欲の化身淫魔や私たち悪魔と比べなければの話ですが。
メグは私めと同じメスでありますが、胸部の発達はほとんどなく。
男性を誘う色香は全体的に未発達。
私がこれぐらいの背丈の頃には、すでにこの数倍以上胸部が発達していたものですが、誠人間の色香の無さには驚かされるものです。
そのため私の衣服は淫魔用の特別製でございます。
胸部だけなら淫魔にも引けは取りませんが、淫魔のような臀部の発達はなく。
残念ながら上着だけ特別製ですが……。
それでも、私めでさえ人間とは比較にならない、女性として整った容姿は生まれついて持っておりますが。
おっと私めの容姿とスタイルの話は蛇足でしたね。
どこの世界も女性というものは、容姿とスタイルを気にしてしまう性を持つ生き物なのでしょう。
話を戻しましょう。
たけし少年とメグはいわゆる幼なじみ。
家も近く気付けば二人でいるような、運命に似たもので繋がれておりました。
「うん! メグちゃん帰ろ!」
「僕も一緒に帰っていい?」
拓人少年が明るくそう言いました。
その瞳にはメグをシッカリとらえているのです。
察しのよろしい方ならお気づきでしょうが、拓人少年はメグに好意を抱いておるのでございます。
その恋が実るかどうかは、今後明らかにするとして、主要な役者はここに揃いました。
畑山教員、拓人少年、メグこの三名が如何にたけし少年の最後に関わるかご期待頂ければ幸いです。
しかし、そんなことを露知らずの幼い子供たちははしゃぎます。
「たけちゃん! 明日メグちゃん家で何するの?」
「う~ん何しよう?」
「じゃあ明日皆でおままごとファンタジーしよ!」
「それなーに?」
可愛らしく土筆のようか細い小首傾げる拓人少年。
それも仕方ないことでございます。
むしろこれを聞いて内容を言い当てられたら、それは神がかった――いや悪魔がかった感の良さでございましょう。
「昨日パパに買ってもらったの! だからみんなでやろう!」
「よくわかんないけど! 明日やろう!」
「うん!」
自然と口元が綻ぶメグ、その瞳は真っ直ぐたけし少年を捕えておりました。
メグの瞳に宿る物は可愛らしい情欲。
失礼しました。
人間はこう表現をするのでしたね。
恋――と
メグの恋心がいつ芽生えたかは私は存じ上げませんが、拓人少年の抱く好意とは本質が違います。
拓人少年が憧れなら、メグはさしずめ子を生み育てる雌の本能。
メグの恋心は好意の先を見ているのでございます。
しかし、えてして物語の主人公が朴念仁で女性の好意にうといというのは古典的ながら、お決まりであり。
たけし少年もその例に洩れません。
たけし少年はメグを友人として目に収め。
メグはたけし少年を運命の相手として目に収めております。
いやはや、これだから人間は面白い。
交差するお互いの視線の熱は明らかに違うというのに、たけし少年は気付きさえしない。
この作為的に見えて自然な状況こそ私めが、好むモノでありまして、事実は小説より奇なりと例えられますが、正しくそのとうりでございます。
――いつもと変わらぬ日常は流れ出る大河の様に、過ぎゆく――これでたけし少年通算6回目の夏休み。
一日目の予定が決まり、はしゃぐ三名。
彼らはまだ知る由もないのでございます。
それぞれの想いが悲劇を生み。
たけし少年はそのために私の腹に収まる事になるのです。
そのどれかが足りなければお三方は、変わらぬ日常を享受し、想い人と結ばれる未来が存在したやもしれません。
そして私の存在がなければ、たけし少年は大切なモノを失い生涯後悔を胸に抱き続けたでしょう。
流石に私め縁という言葉を感じずにはおられませんでした。
これから始まる夏休みは私めにもたけし少年にも少々長い長い夏になるのです。
たけし少年の願いは図らずしろ、彼にとって最良であったと私めは誠勝手ながら判断いたします。
おっと、まだまだ物語は続きますのでご安心を、まだ夏は始まったばかりでございます。
永遠の夏に向けて物語は動き出し、私めの登場は少しだけ先となりますので少々御容赦を頂けると幸いです。