7th flightー戦闘管制官
エルガン空軍では、基本的にアンノウン機役の行動は、パイロットの判断に任せられている。
だからスクランブル訓練は、要撃機役の指示に大人しく従うもよし、拒んで戦闘に突入するもよしの、かなり自由度が高いものである。
せっかく新入りのバローがいるのだから、大人しく従っても面白くない、ということで、俺たちは指示を無視して空戦に突入しよう、と決めた。
『リゲル03、スピカ01、通信状態はどうか』
無線を通して聞こえたくぐもった声は、戦闘管制官からのものだ。
戦闘管制官は、実際のスクランブルや戦闘、訓練などで、敵機の方位、高度、数などの情報を伝え、指示を出すことが仕事である。
戦闘管制官は、ライン基地のような航空基地や、戦闘管制のような通信のための通信基地などにある戦闘管制隊に配属される。
そしてエルガンの空で管轄に重複がないように配置される。
ちなみにこのティーク沖空域の管轄は第8戦闘管制隊であり、スピカとは、第8戦闘管制隊のコールサインである。
「スピカ01、リゲル03、ボイスクリア。
敵機の情報を求む。」
俺は無線にそう呼びかけた。
『リゲル03、スピカ01、敵機方位175、距離100マイル、貴機と同高度である。』
「リゲル03、ラジャー。」
100マイルというともう間もなく接敵だ。
敵機との距離が45マイル程となった時、戦闘管制官から無線が入った。
『リゲル03、スピカ01、敵機2機編隊は、西から回り込もうとしている。方位265へ向けて飛行中。』
「リゲル03、ラジャー。」
「どうします?回り込んで横からきますよ」
「ここは大人しく攻められよう。」
「了解です」
そんなやり取りを交わしながら、俺はレースと南下を続けた。
『リゲル03、スピカ01、敵機が旋回して貴機に向かっている。方位35、距離45マイ
ル。』
「リゲル03、ラジャー。」
そろそろ行動を開始する時だ。
「レース、合図で高度をあげるぞ」
「了解です」
敵機との距離が30マイルまで縮まった時、無線から呼びかけが入った。
『こちらエルガン空軍第204飛行隊。貴機はエルガン王国領空に接近している。ただちに転針して離脱せよ。」
バローの淡々とした警告が無線から流れてくる。
敵機との距離が1マイルとなり、もう敵機がしっかり視認できるほどになった時、俺はレースに声をかけた。
「レース、上昇する。3、2、1……ナウ!」
ほぼ同時に右後ろのレース機も上昇を始めた。
いきなりの事に戸惑ったバローを差し置いてアフターバーナーに点火し、一気に空を駆け上がる。
高度9000m程になってから、機種を下に向け、今度もアフターバーナーに点火して上から敵機に襲いかかった。
アンノウン機の行動は自由とはいえ、ここまでぶっ飛んだ機動をするものはそういないはずだ。
慌てふためき旋回を始めたバローに、俺は空対空短射程ミサイルをロックオンした。
ヘッドアップディスプレイ、通称HUDには、ロックオンを示す赤いレティクルが表示され、レティクル内にしっかりとバロー機を捉えていた。
しかしミサイルの発射は、ガル機が許さなかった。
とっさに俺の真横から距離を詰め、背後を取りに来たのだ。
『リゲル04!方位350から回り込め!敵機2の鼻先を取れる!』
戦闘管制官が敵機2、バロー機を撃墜する為に指示を飛ばした。
「ぐぅぅぅぅぅっ」
猛烈なGに耐えながら、レースと共にバロー機を挟もうとした矢先…
ピピピピピピピピピ
自機がロックされたことを知らせるアラームが鳴り響いた。
「なにっ!?」
おかしい、さっきガル機はレースを墜とす為に俺の背後から離れたはずだ。
俺はすぐさまブレイクしながら、かわそうと試みた。
するとかすかに、キャノピーの淵に、猛烈な勢いで下後方からせり上がってくるガル機が見えた。しかし狙いは俺ではない…?
「レース!敵機1が下から来る!」
『方位150に雲がある!2機ともその中へ!』
「ラジャー!」
『雲にはいったら5秒後に急減速、急上昇しろ!』
一瞬、戦闘管制官の声を疑った。
急減速?それじゃ追いつかれちまうだろ?
しかし、信じるしかない。
俺たちは雲に突入した。