クイーカさんの悩み事っ!
題名が
「最弱なぼくが異世界で生きていく方法。」
から
「結界破りのぼくと七色月の異世界」
に変わりました。
初めてのクエスト完了から1週間。
ぼくたちはそれから3回ほどクエストをこなした。
といってもまだパーティーレベルがそんなにないので、採取系のクエストがメイン。
報酬もそれなり。
リュックサックに詰め込めるので普通のパーティーよりは稼げてると思う。
そして今日はクエストもお休み日。
お昼はいつものように、ぼくが作ったものを宿屋の部屋で食べている。
今日はアスパラみたいな植物と、豚っぽい魔物を炒めた料理。
豚っぽい魔物は油っぽくなくて美味しかった。
あと米っぽいものもあったから買ってみた。
どっちかというとタイ米に近い感じだった。
炒飯にしてみたら美味しかった。
そして1周間過ごすことで、それぞれの性格とかが分かってきたのがとても嬉しい。
「うーん。うーん……」
食べながら唸っているクイーカさん。
なんだかとても困った感じだ。
「どうかしたの?」
食べ終わってベッドで横になっているコルネットさんが言った。
寝っ転がりながら何か本を読んでいる。
どうやら魔術に関する本みたい。
「そんな顔して食べてるとまずそうに見えるわよ」
「あっっっっ! ごっ、ごめんなさいっ! きなこさんっ!」
「謝ることじゃないですよ」
「りょっ、料理はとってもとってもとっても美味しんですっ!」
「何か悩み事でもあるのかのう?」
床に食べ物を置いて食べてもニャルティさんの食べ方は優雅に見える。
「1人で考えても何も変わらんじゃろう」
「なかなかいいことを言うじゃないっ!」
読んでいた本を置いて飛び跳ねながら起き上がる。
「アタシも聞いてあげるわっ!」
「2人とも優しんですねっ!」
ぼくの言葉に2人は
「当たり前じゃな」「当たり前よっ!」
同時に言った。
「それで痩せたくて悩んでると思うんじゃが……」
「ちっ、違いますよっ!」
ほっぺたをぷくっと膨らませて怒る。
そんなクイーカさんにコルネットさんは言う。
「なんだ。違うのね。てっきりアタシも太り過ぎて悩んでると思ってたわ」
「違いますっ! 違いますっ! 全然違いますっ!」
「しかしお主が他に悩むことなんてなかろう?」
「ありますよっ! きょとんとした顔をしないでくださいっ!」
どうやら2人は太ってるネタでからかいたかっただけのようだ……。
「わたしが困ってるのはこれですっ!」
言いながらクイーカさんは袋を取り出してお金を床に散らばらせる。
「いきなり何してるのよっ!」
「妾がこれをもらっていいのかのう」
「いいわけないと思います……」
「それは残念じゃのう……」
本当にがっかりしているように見えるニャルティさん。
どこまで本気なのかいまいち分からない。
「お金がなくて困ってるんですっ!」
床に散らばったお金を指差すクイーカさん。
ざっと見て今あるお金は10万クルトンぐらい。
「けっこうあるじゃない。っていうかこれ全部持ち歩いてるんの?」
「そうですけど?」
「なんで預け屋に置いとかないのよっ!」
「だって使い方わかりませんしっ!」
「落としたらどうするのよっ!」
「いっ、今はそういう話をしたいんじゃないですっ!」
顔を真赤にして床を叩く。
「……分かったわよ。預け屋には後で行くとして」
「20万クルトンあれば十分じゃないかと思うがのう」
「ここの宿屋が1泊2000クルトンです。それが4人だから8000クルトンです」
事前に書いたであろう紙を見ながら、クイーカさんは言う。
自分が計算終わる前に、誰かに言われていたのが嫌だったみたい。
「それで1ヶ月は30日だから240000クルトンですっ!」
「そんなに必要なんですね」
もう60000クルトン以上も使っているのか。
なんとなくな感じで泊まっていると、たくさんお金を使っていることに気が付かないんだなって思った。
「これに食べ物代とか合わせると、採取クエストを毎日やらないと厳しいですっ!」
「……でもここの宿屋が1番安いんでしょ?」
「何か家とかないんですかね?」
さすがにこの世界にアパートみたいなのはないみたいだった。
だけど貸家にみたいなのはありそうだと思った。
「貸してくれるところを探してますが、安いのはなかなかないんですよね」
「それでもここに泊まるよりは安いでしょ?」
「でも駆け出しパーティーに貸してくれるところってなかなかありませんし……」
「あー。駆け出しは信用ないから、1年分ぐらい最初に払わないと駄目とか言われる、って聞いたわね」
1年分だと1ヶ月6万クルトンでも72万クルトン必要。
全然足りない。
こちらの世界もなかなか世知辛いものだと思った。
「なんじゃ。泊まるところに困っておったのか」
ふむふむという感じでニャルティさんは言う。
「それなら妾がいいアイデアがあるぞ」
「いいアイデアって何ですかっ!」
身を乗り出してクイーカさんは言った。
「何ですかっ!」
「簡単なことじゃ。妾の家に住めばよい」
「おおっ! それはナイスアイデアですっ!」
クイーカさんは満面の笑みで喜んだ後、
「えっ? 今なんていいました?」
真面目な顔になった。
「じゃから妾の家に住めばよいと言っておるんじゃ」
ニャルティさんは言いながら何言ってんだこいつ。
みたいな顔をする。
「それならお金の問題は一気に解決するんじゃないのかのう? 何か間違っているか?」
「えっと、この街に家を持ってるんですか?」
「そうじゃぞ。15年前に大金を使って買ったのじゃ。なかなか大きな家じゃぞ」
「…………」
「ん? どうしたのじゃ? 感動して言葉も出ないのか?」
「なんでもっと早く教えてくれたかったんですかっ!」
クイーカさんがばんばんと床を叩く。
おかげでぼくとコルネットさんは、散らばるお金を集める必要があった。
「わたしとってもとってもとっても悩んでたんですよっ! お金どうしようって! 最悪リュートさんに借りようと思ったぐらいなんですからねっ!」
「そうは言われても妾は聞かれんかったからのう。それに好きで宿屋に泊まってると思って……」
「お金ないのに好きで泊まるわけないじゃないですかっ! 馬鹿ですかっ! 馬鹿ですかっ! 馬鹿なんですかっ!」
「少なくともお主よりは頭いいと思っておるぞ」
「そうよ。それに過ぎたことは仕方ないじゃないっ!」
「そうですね。ニャルティさんがいなかったらもっと困ったことになってましたし……」
「そっ、そうですね……」
鼻水をすする音が聞こえた。
どうやらもうすぐで泣きそうになってたみたいだ。
「ごめんなさい……。取り乱しちゃいました……」
「いいのよ。お金のことをあんたに任せたアタシ達も問題があるしね」
言いながら金を集め、自分の袋に入れるコルネットさん。
「これからはアタシが管理するわっ! とりあえず地下のカジノで……」
「それは駄目ですね」
ぼくは言った。
「コルネットさんには……任せられませんよぉ……」
クイーカさんはちょっと泣きそうな声で言った。
「お主にパーティーの金を預けるとかありえんじゃろう」
呆れ口調でニャルティさんは言った。
一週間過ごして分かったけどコルネットさんのお金に関する感覚は普通じゃない。
これが原因でパーティーが組めなかったのかと思ってしまうぐらいに。
「とりあえず妾が預かっておく」
ニャルティさんが袋を奪う。
「ちょっ! 取らないでよっ! アタシのお金よっ!」
「お主のじゃないじゃろう」
「今日、倍にして返すからもうアタシのものなのよっ!」
「どんな理屈なんじゃ」
「この悪魔っ!」
「正真正銘、妾は悪魔じゃが?」
「とりあえずお金の管理はニャルティさんに任せていいですか?」
ぼくの提案にニャルティさんとクイーカさんが同意してくれた。
「いいわよっ! アタシのお金増やしてくるからっ!」
コルネットさんだけ頬を膨らませて不機嫌になっている。
「後で預けておけばよかった! ってなっても知らないからねっ!」
「ならないから安心しろ」
「それじゃさっそくニャルティさんの家に移動します?」
「そうじゃな。今日はクエストないしのう。家も長いこと開けておるから掃除も必要じゃと思う」
それからぼくたちは宿屋を出てニャルティさんの家に向かった。
家は街の中心、バザールから離れた場所にあるらしい。
実際、宿屋からだいぶ歩く必要があったし、だんだんと建物も人通りも少なくなっている。
「なかなかハズレの方にあるのね」
「ですね。でも夜が静かでいいかもしれませんねぇ」
「妾も静かなのを気に入って買ったからのう。ああ、ここじゃ」
ニャルティさんが止まり、指差す。
そこには思ったより大きな家があった。
家というより屋敷といっていい大きさだ。
大きな門があるし、広い庭もある。
少し歩かないと屋敷にたどり着かない。
「すごいですねっ!」
思わず興奮して言った。
こんなところに住めるなんてすごいっ!
って思った。
クイーカさんもコルネットさんの同じように思っるだろう。
って考えたけどそうじゃなかった。
「クイーカ……ここってあれよね?」
「ですね。あれですね」
クイーカさんは普通の感じで、コルネットさんは顔を少し青くして言う。
「妾の家に何かあるのかのう?」
むすっとした表情。
自分の屋敷にけちを入れられたみたいで不満に思ったらしい。
でもその気持はわかる気がする。
「ここって噂の幽霊屋敷じゃないかなーって思ったんです」
クイーカさんが説明する。
1年ぐらい前から誰も住んでないはずなのに明かりがついたり、音がしたりするという感じらしい。
「妾が魔王の幹部になってからはこの家には住んでおらん。その間に何か住み着いておるのじゃろうな」
「それじゃ本当に何かいるんでしょうか?」
クイーカさんはそういうけれど、言葉に怖そうとかそういう雰囲気はなかった。
表情も普通。
それとは対象的にコルネットさんやっぱり心なしか顔色が悪い。
口数も少なくなっている。
「そうみたいじゃのう」
ニャルティさんが門を開けて中に入っていく。
「どっちかというと幽霊とかより勝手に入ってるのかもしれないですね」
「でもどっちにしろここに住むしかないですしね。お金がなくなることより怖いことはありませんしっ!」
ぼくとクイーカさんは後に続く。
コルネットさんだけがついてこない。
「どうしたんですか?」
ぼくがたずねてもぼけっとした感じで屋敷を見ている。
「どうせ幽霊が怖いとかそんなところじゃろう」
カカカッ。
という陽気な笑い声が聞こえる。
「エルフはどいつもこいつも怖がりじゃからのう。紅蓮術士といきがっておってもやはりエルフはエルフじゃのう。怖いならお主だけ宿屋に戻ってもよいぞ」
「幽霊なんて怖いはずないでしょっ!」
燃えてるっ!
左手が燃えてるっ!
「むしろ幽霊がいたとしてもアタシがびびらせて追い出してやるわっ!」
言いながら早足でぼくたちを追い抜いていく。
「幽霊が怖いなんて意外と可愛いところがありますねぇ!」
にんまりと微笑むクイーカさん。
いいネタがゲットできた。
そんな顔に見えなくもない。
「クイーカさんは幽霊とか平気なんですか?」
「わたしは一応プリーストですからねっ! 幽霊退治はむしろ得意ですっ!」
胸を張ってクイーカさんは言う。
「じゃあ本当に幽霊がいたら頼りにしてますねっ!」
「はいっ! 怖いなら一緒の部屋で眠りましょっ!」
「考えておきますね……」
本当に幽霊がいるならそうするかもしれないって思った。
何だかんだで幽霊は怖い。
この世界は本当に幽霊がいてもおかしくないし……。
「ほらっ! あんたたちっ! 早く行くわよっ!」
コルネットさんの声。
震えているので無理して出しているのが分かった。
「もしかしたらコルネットさんがクイーカさんの部屋に行くかもしれませんね」
「まぁその時は助けてあげますけどね」
自慢げな顔をしてクイーカさんは言った。
「それに住み着いてるのが幽霊じゃないならコロネットさんの方が適任ですしね」
確かにそうだと思った。
本当に何か住んでいるのなら、寝る時はみんな一緒の方がいいかもしれないとも。
もっともニャルティさんは何が出ても大丈夫そうだけど。
「それよりコルネットさんっ!」
クイーカさんがコルネットさんに言う。
「手の炎を消してくださいっ! そっちの方が怖いですよっ!」
「何言ってんのよっ! 炎なんて……」
言いながらコルネットさんは自分の燃えている手を見る。
「無意識で出してたわっ!」
慌てて炎を消す。
「はずみで何かやりそうですね……」
「ですね……」
問題が解決するまではコルネットさんに近づかない方がよさそうだ。