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雨と竜のイストリア  作者: リキヤ
第1章 王都陥落
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1-5  第9話  絶望と現実



 ルミナ・ファルサラームは走っていた。階段を駆け降りる。


(やっぱり、ただ事じゃなかったんだ……)


 さっきまでルミナは自室にいた。部屋の中から森のあたりで大きな爆発が起こったのが見えたため、いてもたってもいられなくなったのだ。


(騎士団のみんなに何かあったんだ。お願い、無事でいて)


 一階に着く。ルミナは息をのむ。そこには異様な光景が広がっていた。城の警護をしていたであろう騎士団員達が床に転がっている。じわりじわりと赤い液体が床に広がっていく。


「なに……? どう、して? 何があったの?」


 10人以上いるがルミナの言葉に答える者はいない。皆、微動だにしない。


「誰が、こんなこと……。」


 ルミナが動けずにいると、外で大きな音がする。


(まさか、まだ犯人が……)


 急いで駆け出し、城の外へ出る。すると大きな影があたりを覆う。空を見上げてルミナは驚く。


「ドラ、ゴン……?」


 空には美しい白いドラゴンが飛んでいる。ルミナがそう認識出来たのとほぼ同時にそのドラゴンは猛スピードで城へと激突する。あの位置は……王室だ。


(お父様とお母様が危ない……)


 すぐに来た道を引き返す。状況は理解できないが、今この国が危険な状態にあることは理解できた。


(お姉様、お兄様も無事でいてください……)


 騎士達に心の中で謝りながら死体を超えていく。


(お願い、間に合って……)


 すると階段の上から足音がする。顔を上げると男の姿が目に入る。


「これはこれはファルサラーム王国の王女様ではありませんか」


 フェルスは笑顔で語りかける。そして剣を抜く。


「その血はなに?」


 ルミナはフェルスの剣にしたたる血を見て冷たく質問する。体はすぐに動ける体勢をとる。


「さぁ、いろんな者を切りすぎてわかりませんなぁ」


 フェルスの笑顔にルミナは何かが切れる音が聞こえた気がした。怒りを通り越して殺意があふれ出してくる。騎士が落としたのであろう剣を素早く拾い、次の瞬間にはフェルスに斬りかかる。


「貴様だけは、絶対に許さん!」



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



 部屋にはレインと、コトネの死体。レインはコトネへと近付く。当然のことだがコトネは動かない。


「おい、コト、ネ……」


 返事はない。なぜか涙も出てこない。助けを求めようと辺りを見回すが誰もいない。


「我、天の慈悲を汝のもとへ届ける仲介の任を果たさん、アピオレイス」


 効果はない。何ひとつ変わらない。回復魔法は被術者の体力も利用する。効果がないということは、体力は少しも残っていない――死んでいるということだ。


「なんで、だよ……。我、天の慈悲を汝のもとへ届ける仲介の任を果たさん、アピオレイス」


 効果はない。


「お、い……。我、天の慈悲を汝のもとへ届ける仲介の任を果たさん、アピオレイス」

「ねぇ……。我、天の慈悲を汝のもとへ届ける仲介の任を果たさん、アピオレイス!!」


 何度繰り返しても結果は同じだった。理由なんかわかっている。だが、認めたくない。認めたらそれこそコトネがどこかへ行ってしまう気がする。


 ふと、コトネの胸のあたりに血まみれになったロケットを見つける。レインの訓練中にはつけていたのだろう。そう思うと胸が熱くなる。


「コ、…トネ」


 その声はもう届かない。そう、もう二度と。


 ドゴーン!と大きな音がした。レインに音は届かなかったが振動で何かあったのだと察する。自分が今しなければならないことはここで嘆いていることではない。これ以上犠牲を増やすわけにはいかない。


 レインはコトネに向き直る。コトネは死んだのだ。自分に言い聞かせる。


 レインはコトネの血まみれのロケットを外し自分の首にかける。そして、コトネの目を閉じ、口づけをする。最後の口づけは一番冷たいものだった。


 急いで王室へ向かう。ドアを開くとそこには信じられない光景が広がっていた。白いドラゴンが城壁を突き破って倒れ込んでいる。そして床は赤い血で覆われている。その赤い海に二体の死体が転がっている。首のない男の死体と銀髪の女の死体が。


「やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ……」


 レインが頭を抱える。もはや理性ではどうにもならない。妻だけでなく両親の死を現実にして理性など吹き飛ぶ。死を受け入れたはずだった。両親の死も頭では分かっていた。だが目の当たりにしてのショックは全く違った。理屈や精神論で抑えられるものではなかった。ふと男の頭を見つける。まぎれもなくそれは父親のものだった。血の海に倒れ込む。そしてレインは暴れ出した。


「うぁああああああああーー!」



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



 凄まじい音がした。書斎で本を読んでいたローレンは何が起きたのかを確かめに音の方へと急ぐ。

 途中でルミナの部屋のドアが開いているのに気付く。


「ルミナ、無事かい?」


 と問いかけるが中には誰もいなかった。不安が募っていく。すると、大きな叫び声が聞こえた。王室の方からだ。


 急いで向かうとドアが開いている。中をのぞく。凄まじい光景にさすがの賢者も理解がついていかない。


 国王と王妃が転がっている。国王の首は少し離れたところにあった。さらに白いドラゴンが起き上がって攻撃態勢をとっている。そして、両手をだらんと垂らしたレインがドラゴンに向かってフラフラと歩いている。


「インgzlヴェjs」


 レインの口から呪文のような言葉が発される。レインのまわりに炎が舞う。ひとつひとつが手のひらサイズに分散し、それがまるで弾丸のようなスピードでドラゴンに放たれる。


「魔法……なの?」


 ローレンの知らないものだった。魔法についての文書はすべて読んだはずだったがそこに記されていたどの魔法とも違うものだった。むしろ、魔獣などの契約獣が使う固有魔法に近い。


 ローレンはその間にサラのもとへ向かう。見てわかってはいたが肺を貫いた大きな切り傷がある。やはり死んでいる。国王の死は間違いないだろう。ふと顔を上げるとレインの攻撃を受けた白いドラゴンの姿が目に入る。無傷だった。崩れてきた城壁さえそのドラゴンの体から1メートルの空間には入ることができずに弾かれる。


「魔法障壁……」


 そのドラゴンの固有魔法だろう。魔法障壁とは魔力をそのまま壁として具現化させたものだ。使用する魔力の量にもよるのだが、物理攻撃はもちろんのこと最上位魔法ですら防ぐことも可能である。

 ドラゴンはレインへと近づいていく。尾を引いている。


「レイン、危ない!!」


 叫んだがレインに声は届かない。次の瞬間レインにドラゴンの尾が襲い掛かる。レインはあっけなく吹き飛ばされる。その際、尻尾の棘がレインの胸を貫いた。


「……レイン!」


 力なく倒れているレインにローレンは駆け寄ろうとした。それよりも早くレインは立ち上がる。ローレンとドラゴンの間に立ち再び謎の言葉を連ねた。


「アrヴァsrtyジメswqォプxcネメwtjhサウイjンアヴァlkzxbhyタリエクァvケンdswルkhfbhケhgvbkヴィエリbパljシア」


 黒いもや(・・)のようなものがレインのまわりに立ち込める。レインが手をかざした瞬間、もや(・・)がドラゴンの胸から首にかけてを貫く。傷一つなかった白いドラゴンが赤い血に染まる。魔法障壁が展開されていたようだがそのもや(・・)はそれをもろともせずに破壊する。ローレンはあっけにとられる。


「なに……これ?」


 そして、ドラゴンが倒れる。同時にレインは力尽き、その場に倒れる。



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



 ルミナは走り出す。助走をつけた一撃も軽く受け流される。


「軽すぎる。もっと体の使い方を考えないといつまで経っても力負けしてしまいますぞ」


 ルミナは本気で殺しにかかっている。しかし、フェルスは軽く躱す。しかも、攻撃もしてこない。


「なぜ、攻撃してこない。私のことをなめているのか!」


 ルミナは馬鹿にされていると思い、余計に頭に血が上る。フェルスは答える。


「これは王子妃様との約束だからな。彼女の命と引き替えに私は誰にも手を下さないと」


 ルミナはハッとする。いまフェルスが何と言ったかを考える。


「貴様……、まさかお姉様を……」


 フェルスが愉快そうに笑う。


「そうだ、殺したよ。王子様の目の前でな」


 ルミナの怒りが収まらない。殺意があふれ出す。


「殺す……」


 ルミナがフェルスに突進する。フェルスはため息をつく。


「もう少し命を大事にしたらどうだ。とりあえず、現実をみてみればいい」


 フェルスは突撃を躱し、後ろから蹴り上げる。


「まぁ、ゆっくりしとくといい。また後でな」


 ルミナは勢いよく二階の廊下へと飛ばされる。急いで階段まで戻るがフェルスの姿はない。一階にも見当たらない。


 振り返るとレインの部屋のドアが開いている。


(約束? お兄様の前で殺した? お姉さまを?)


 疑問が頭をめぐる。扉の前に立つ。中の光景を見たとたんにルミナは膝から崩れ落ちる。


「お、お姉……様?」


 体を引きずりながらコトネに近付く。コトネの口元は微かに微笑んでいる。目は閉じており、体が血まみれでなければまるで寝ているかのようだ。

 ルミナにはコトネがフェルスに約束をさせる場面が容易に想像できた。優しく芯の強いコトネのことだ。自分より人のために行動するにきまっている。


「なんでですか。お兄様の隣にいたのに先に行っちゃ駄目じゃないですか……。いいんですか? 私が奪っちゃってもいいんですか……」


 ルミナの言葉にコトネは反応しない。いつもなら返してくれる笑顔もない。涙があふれてくる。


「まだ私言ってないじゃないですか……、大好きって言ってない。どれだけあなたがお姉様になってくれてよかったか言ってない……言ってないよ……」


 目を伏せ泣いていると、コトネの手にはルミナが今朝渡したブレスレットがはめられているのが目に入る。今朝のことを思い出す。


「私のプレゼント……つけてくれてるんですね……。お兄様にベタベタしてる私なんて邪魔なはずなのに、私にまで優しくて……。記念日なのに、お兄様といられる最後の時間だったのに、お兄様を訓練に行かせて……」


 涙が止まらない。すると、王室から大きな音が聞こえてきた。涙をぬぐい。呼吸を整える。


「お姉様、少し失礼します。また戻ってきますので……」


 そう告げて王室へと向かった。


 王室の中の光景に血の気がひく。燃える部屋。赤い床に転がった両親の死体。血まみれの兄とドラゴン。そして兄の横に跪くローレン。信じたくはないが受け止めるしかない現実がそこにはあった。


 力ない足取りでローレンに近付く。


「ローレン……無事なの?」


 ローレンは振り返る。ルミナは少しほっとする。ローレンもルミナの顔を見て安堵する。


「うん、なんとか。レインも危ない状態だけど息はあるよ。レオン様とサラ様は……」


 ローレンは目を伏せる。ルミナは答える。


「分かるわ。見たままよね。これが現実……」


 ローレンはルミナを見る。この華奢な体でレインも受け止めることができなかった、とてつもなく大きく重く暗い現実というものを受けとめている。ローレンはそのことに驚きが隠せなかった。ルミナが口を開く。


「これで終わりな訳がない。私達は生き残りましょう、絶対に」


 そう言ってルミナは崩れた城壁の方を見据える。今度は青いドラゴンがこの部屋へと向かってきていた。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


暗いですね。

レインのチート魔法炸裂。あの魔法はなんなんでしょうね。

そして、ルミナちゃんは強いですがドラゴンを倒せるのでしょうか。


感想やアドバイスもお待ちしてます。


ではまた次回お会いしましょう!

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