表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨と竜のイストリア  作者: リキヤ
第1章 王都陥落
6/77

1-2  第6話  贈り物と訓練

 


 部屋に戻るとコトネが振り返り、こちらをみて笑う。


「みんな、いい人達だね。ホントに幸せ者だよ、私達」

「ほんとにそうだな」


 レインが返す。一年前のこの日、国を挙げての結婚式をしたことを思い出す。


「もう一年経つのか……」


 思いにふける。そう言えばルミナからプレゼントをもらっていた。四角い箱を取り出す。


「何かしらね? ルミナちゃんからのプレゼント」


 コトネも取り出している。そして、冗談ぽく笑いながら言う。


「私のプレゼントだけ、開けたら爆発するって事はないわよね?」


 無いだろと笑いながら言えない自分がいる。ルミナがそんなことするはずがない。……たぶん。


「わぁ、綺麗ね」


 答える前に箱を開けていた。そこには綺麗なブレスレットが入っていた。凝った星の装飾がしてある。自分のも確認すると同じ物が入っている。


「あいつ、なかなかいいセンスしてるな」

「お揃いだね……えへへ」


 コトネはとてもうれしそうだ。後でまた、お礼を言っておこう。


「いい妹ちゃんだよね……。ところでさ、あなたは……、今日のこと覚えてた……?」


 コトネが自分のキャビネットの方へ歩き出す。そして、こちらを見ずに続ける。


「一年目って事でね……。プ、プレゼントを用意したんだけど……」


 レインが驚いているとコトネは細長い箱を差し出す。


「受け取ってもらえるかな……」


 顔を赤らめながら差し出す姿は可愛すぎる。レインはその箱を受け取る。


「ありがとう。実は俺も……」


 そう言って引き出しから箱を取り出す。それをコトネに手渡す。コトネも驚いているようだ。


「ありがとう……。プレゼント交換みたいになっちゃったね」

「そうだな……」


 二人は笑いあう。コトネは箱を開けようとする。それをみたレインが話し出す。


「プレゼントって何渡したらいいか分からなくてな……、サク姉に聞いたんだが、いつでもふたりのことを感じられるような物がいいんじゃないかって言われて……」


 レインの言葉を聞き、コトネの手が止まる。少し驚いた顔をしている。


「え? あなたもサクヤ様に……」

「もしかして、コトネも?」


 驚いて顔を見合わせる。コトネが口を開く。


「そう……よ。そしたらあなたと同じこと言われて、二人の結婚式の時の写真を準備しますのでそれを入れたロケットはどうでしょうかって……」


 レインの口が開いたまま止まった。コトネはその顔を見て笑い出す。


「そっか……。サクヤ様は同じことしか言わなそうだもんね。でも、おかげでお揃いだね……」


 コトネがよろこんでいるのをみてレインは安堵した。先程のサクヤのあの不敵な笑みはそういうことだったのかとレインは納得する。


 二人とも一緒に取り出してみるとロケットのデザインは異なっていた。

 コトネからレインに贈られたロケットは楕円形で表面に十字架がデザインされている。そしてその中央にルビーがはめられている。

 対してレインがコトネに贈った物は同じく楕円形だが、音符の装飾がしてありダイヤモンドがちりばめられている。


「一応、考えて選んでみたんだが……」

「名前かな? 琴の音でコトネだから音符なのかな?」


 レインの言葉を遮ってコトネが笑顔で答える。


「あぁ……、流石だな」

「えへへ……ありがとう。私はね、何かあってもあなたを守ってくれるようにって願いを込めた十字架と赤い瞳を模したルビーって感じかな……」


 二人の間に心地よい沈黙が流れる。レインはお礼を言おうとするが言葉が出てこない。すると、コトネが抱きついてくる。


「本当にありがとう。あなたと結婚できて本当によかった……」

「俺もだよ……。お前でよかった」


 コトネを抱きしめる。幸せを体で受け止めているような感覚だ。


「これからもずっとよろしくな」

「ええ……。でも私はあなたが幸せならそれでいいわ。あなたはいつ妹ちゃんに欲情してもいいのよ」


 そう言ってコトネはイタズラっぽく笑う。そんなことするわけないと言おうとした次の瞬間、扉が勢いよく開く。


「どうですか? 私のプレゼントは気に入ってもらえ……」


 ノックもせずに入ってきたルミナの笑顔が硬直する。二人は抱き合ったままだった。

 コトネはレインからパッと離れて答える。


「と、とても気に入ったわ。ありがとう」

「そ、れは、なにより、です……」


 ルミナは動揺が隠せないようだ。少し悪いことをしたかなと思う。


「本当にありがとな。よ、よし、つけてみようかな」


 レインはブレスレットを箱から取り出し、左手につけてみる。するとルミナの表情が少し緩んだ。


「で、どうしたんだ?」


 ルミナがはっとなる。元に戻ったようだ。


「そうでした。今日の訓練ですが、せっかくの結婚記念日ですので……休んでもらって……お姉様とゆっくり……ふたりで……過ごしてもらってよいとのことです」


 だんだん声が小さくなっていき、最後はほとんど聞こえなかった。声と同じようにルミナの元気もしぼんでいった。


「あぁ……」


 レインが返事に困っているとコトネが口を開いた。


「もう私は満喫したわ。皆のおかげでね。ルミナちゃんも本当にありがとう」


 ルミナが顔を上げる。コトネはやさしく続ける。


「だから、レインには訓練に行ってもらおうと思っていたのよ。運動不足になってもダメだしね」


 コトネがレインに目で訴えかけてくる。ルミナの顔がパッと明るくなる。そして、レインの方を向く。


「あぁ…、そういうことだ」


 そう答えると、ルミナは口を開いた。


「はい! そういうことでしたら仕方ありませんね! では、演習場で待ってますので」


 ルミナがハキハキと歩き出す。扉が閉まると、レインはため息をつく。


「あんなにこれ見よがしに落ち込むか?」


 コトネは苦笑いしながら答える。そしてブレスレットを付ける。


「いいじゃない。こんなに素敵なプレゼントも貰ったんだし、あなたが訓練に行くだけであんなによろこんでくれるんだから」

「よかったのか?」


 レイン静かな声ではコトネに尋ねる。


「まぁね……。それに私にとっても大事な妹だもの」


 コトネは偽りない笑顔で答える。


「それより、あいつを連絡係によこした奴は誰だよ。訓練前に一体どんな試練を課してんだ」

「そうね……。連絡事項言うだけで辛そうだったよね。まぁ、あの鈍感さはユリウス様でしょうけど」


 二人は笑う。少しだけ二人で過ごし、レインはコトネからもらったロケットを首にかけると演習場へ向かう。



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



 演習場へ行ってみるとすでに訓練は始まっていた。

 騎士団の面々がそれぞれに訓練に勤しんでいる。ふと、端の方に目を向けるとユリウスとルミナが模擬戦を行っている。


 ルミナはユリウスの剣撃をうまく盾で受け流す。そして、右手の片手剣で斬りかかるがユリウスは盾で弾き返す。左手だけの力とは思えない動きだ。


「今、ユリウスの動きはすごいなって思いましたね」


 耳元で声がしてレインはビクッと身体を震わせる。振り返るとサクヤが笑顔で立っている。


「驚かせるなよ、サク姉……」

「すみません、つい!」


 サクヤがイタズラっぽく笑う。怒る気も失せるような笑顔だ。


「で、どうでしたか?」


 いきなりサクヤが尋ねてくる。レインは考える。


「なにが……、ってプレゼントのことか! 二人とも同じ物にするってどういう事だよ!」


 レインの声が大きくなる。サクヤはまぁまぁと笑って答える。


「私が結婚記念日に欲しいものを言ったまでですよ。そして、なぜか二人とも私に聞いてきたと言うだけです」

「そりゃあ、俺は昔からサク姉と仲いいし、コトネだって出身が同じなんだから聞きやすいだろうし……。まぁ、コトネもよろこんでたからいいけど……」


 レインは恥ずかしそうに答えた。


「それならよかったです。ロケットを選んだ理由ですが……。いつでもどこでも愛する人を感じることが出来るのは素晴らしいことだと思いませんか?」


 サクヤは憧れるように語る。たしかに素晴らしいことだとレインは思った。サクヤはレインの顔を見て頷く。同意してくれたことを読み取ったようだ。


「お二人は必ずお守りします。ルミナ様も国王様、王妃様もです」


 サクヤは敬礼する。

 こんな騎士達が国を守ってくれていると思うと本当に恵まれていると感じた。


「さて、いつまでもおしゃべりしている訳にはいきませんね。コトネ様との時間より訓練をお選びになられたのですからね」


 サクヤは演習場の刀を二つ掴むと一つをレインに渡す。


「相手は私で構いませんか?」


 サクヤは刀を構えながら問いかける。レインも刀を抜き答える。


「副団長が相手なんて願ってもない」


 と言ってレインが刀を抜いた途端にサクヤが突っ込んでくる。

 キィンと金属音が鳴り響く。レインがサクヤの一撃を受け止めている。すぐに次の一撃が襲ってくる。


「我、野を吹き荒れし鎌となりてすべてを切り裂かん、ラファーザ」


 サクヤの連続攻撃を刀で受け止めながら詠唱を終える。あたりに風が吹き抜けるのと同時にサクヤに風の斬撃が襲いかかる。サクヤは刀で受け止めながら後退する。


「我、母なる大地の一片なりて受け止めん、ラピスクト」


 サクヤがものすごい速さで詠唱を終えると足元から石板のような物が突き出してきた。それによって風の斬撃はすべて防がれる。それを見たレインは刀を前に突き出して足を前後に開き今にも走り出しそうな体勢をとる。

 そして、風がやみ、斬撃が全て防がれたと同時に走り出す。


「シロガネ流剣術、藪椿(やぶつばき)


 そう叫んで石板の少し前から飛び込む。全ての速度が刀の先に集中する。石板に刀が刺さり真っ二つに割れる。が、そこにはサクヤの姿はない。


「その技を教えたのは私ですよ。何が来るか分かっているなら対処できるに決まっているでしょう?」


 上から声が聞こえる。レインは刀を構えようと体勢を整えながら、詠唱を始める。


「我、透明に輝きし、ぐっ……」


 レインの体勢が戻る前にサクヤは空中でレインの右手に蹴りを入れる。右手から刀が離れる。そして、着地と同時にレインの喉元に切っ先をあてる。


「なかなかいい流れではありましたが、まだまだですね。そもそもシロガネ流は私が教えたものですし……」


 サクヤは言い終えると刀を降ろす。レインは自分の刀を拾う。そしてサクヤの目を見て言う。


「もう一回頼むよ」


 サクヤはその言葉を聞いて構える。


「レイン様が望むのなら何度でも……」


 レインも構えをとると二人の間に沈黙が流れる。



 すると、すぐにその沈黙が破られた。団員の一人がサクヤに声をかけてきたようだ。


「サクヤ副団長殿! お取込み中申し訳ございません。ご報告が……」

「わかりました。少し待ってください」


 そう言って刀を鞘にしまう。サクヤはレインに向き直る。


「申し訳ございませんが少し外します」

「いいよ、こっちこそありがとう」


 レインが答えるとサクヤは頭を下げて団員についていく。


「さてと……」


 誰か相手はいないかなと考えていると、ユリウスの声が聞こえた。


「すまない、訓練は中止だ。騎士団員は城の門の前に集まってくれ」


 そして、ユリウスはレインとルミナに対して頭を下げる。


「すみません、少し用事が出来まして……」

「気にしなくていいわ。いつも私たちのわがままに付き合ってくれてるんだから」


 ルミナは答える。ユリウスはもう一度頭を下げ、演習場を出て行く。


 演習場にはレインとルミナの二人になってしまった。ルミナが恥ずかしそうに目を伏せたままレインに話しかける。


「あの……お兄様?」

「どうした?」


 レインはルミナに向き直り答える。


「ふ、ふたりきり……ですね」

「あ……あぁ、そうだな」


(ん? なんで、そんなこと言い出すんだ。なぜだ? なんか緊張するじゃないか……)


 レインは動揺をなんとか隠す。ルミナは続ける。


「お兄様……、一緒に……」

「一緒に……?」


 レインはゴクリと生唾飲み込む。


(何なんだ一体? というかなんで妹に対してドキドキしてるんだ俺は……)


 レインの鼓動は早くなる。ルミナはレインの目を見据える。レインは身構えた。


「模擬戦を、して……くださいませんか?」


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

リキヤです。


今回はなかなか甘々でしたね。

次回はついにルミナの実力解禁です。


また読んでいただけるととてもうれしいです。

今後ともよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ