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雨と竜のイストリア  作者: リキヤ
第1章 王都陥落
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1-9  第13話 終わりと始まり


 サクヤ・シロガネが立っている。どうやらあの爆発はただの爆発ではなく、鉄の破片のようなものが飛び散るような仕組みになっていたようだ。それにより腹部からは少なくない出血があった。左腕は力なく垂れさがっている。そんな姿を見てリゴールは笑い出す。


「そうだね。おねぇさんの相手は僕だ。でも僕の相手はおねぇさんだけじゃない。それに、今のおねぇさんが僕の相手になるのかなぁ?」


 サクヤの姿は見ただけでボロボロと分かる。だが、目は死んでいなかった。


「確かに私は油断しました。痛みにもだえる姿に同情してしまったのも確かです」


 リゴールは一瞬驚いた顔をした。そして次第に笑顔に戻っていく。


「だからだめなんだよ。僕は敵なんだよ。殺しに来てよ。じゃなきゃ楽しくない」


 サクヤは聞かなかったかのように話を続ける。


「騎士は守る者がいて初めて戦うことができます。守りたいものが目の前にあるこの状況で私は倒れるわけにはいきません。私のお仕えする人々に危害を加える可能性があるあなたを取り逃がすわけにはいきません。ここで排除します」


 リゴールはサクヤの顔を見て気付く。目が違う。先ほどとまったく違う。まるで燃えているかのようだ。リゴールは気を引き締める。パワーシールドに使うエナジーの量を最大にする。


 二人の間を張りつめた空気が流れる。サクヤは下手に動かない。相手の出方をうかがっているようだ。リゴールが先手を打つ。


「コマンド112 ラファーザ」


 叫んだ直後、リゴールの装甲から空気が噴き出す。それらは流れを作り風となる。風の斬撃がサクヤに襲い掛かる。だが、その斬撃はサクヤに触れることすら許されなかった。一つずつ的確に避ける。刀を抜いてすらいない。そしてその斬撃がサクヤの背後の木を切り倒す前に間合いに入る。


「シロガネ流剣術……」


 リゴールは再び殴り掛かる。が、サクヤの反応が早い。素早く避ける。その動きの勢いのまま体を回転させる。刀に手をかける。


野薊(のあざみ)


 サクヤの大振りの一撃がリゴールをとらえる。パワーシールドの出力が最大のため本体にダメージはないが吹き飛ばされる。


(おかしい……。出力は最大のはず)


 考えている時間などなかった。むしろそのせいで反応が遅れた。気付いた時には剣の切っ先が目の前にあった。


藪椿(やぶつばき)


 サクヤがリゴールに向かって突進し、突きを放つ。すべての運動エネルギーが切っ先に集中した。カァンという音で刀は弾かれたがリゴールにも大きな衝撃が走る。だが、モタモタしていると次の攻撃が来る。詠唱の時間はない。再び左手で殴り掛かる。幸い、サクヤは地面に手をつき着地したばかりのため、体勢は万全ではない。


山吹(やまぶき)


 殴り掛かった左手は低い体勢からの切り上げでパワーシールドともども弾かれる。攻撃するための左手は弾かれ、体勢が不安定なため足も動かせない。リゴールに大きな隙ができる。この状態では攻撃はもちろん防御もできない。サクヤはパワーシールドに左手を添える。さすがに出力が最大とはいえ至近距離で高位の魔法を使われたらひとたまりもない。リゴールの目が見開かれる。サクヤは言葉を紡ぐ。


「我、天誅を下す神の代行者なり。神聖なる矢をもって不浄なる魂を打ち砕かん、セイクレッド・アロパージ」


 ゼロ距離で最上位魔法が炸裂する。光の矢が魔法障壁を貫き、装甲を貫き、体を貫く。そして、その衝撃でリゴールの体は宙を舞う。木々の間を抜けていき姿が見えなくなった。だいぶ遠くまで飛ばされたようだ。サクヤがその場に倒れる。意識はあるが体が動かない。メリスが近寄って来る。


 メリスの回復魔法で出血と痛みはどうにかなったようだ。ローレンは動けないサクヤをメリスにのせた。


「すみません。ご迷惑をおかけしました」


 ローレンに対してサクヤが謝罪する。ローレンは笑顔で答える。


「いえいえ。騎士として最高の働きをしてくれたよ」


 サクヤの口元が緩む。自分の居る意味があったのだといわれたようで少し救われた気分になった。



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



 ユリウスは笑みを浮かべている。が、状況は最悪だ。カイオスがやられた。といっても殺されたわけではない。だが、攻撃や防御で頼ることはできない。


「おかしいな。お前こんなに強かったか?」


 そういいつつ後ろを気にする。後ろにはルミナの姿がある。絶対に守り抜かなければ。


「私は力を手に入れたのだよ」


 フェルスがうれしそうに話す。ユリウスはため息をつく。


「たしかに詠唱なしで魔法を使われるのは辛いな。まったく対応が追いつかねぇ」

「さらに剣も使ってやろうか?」


 そう言ってフェルスは笑顔で大剣に手をかける。その刃には血がついている。


「お前、まさか……」

 

 ユリウスの顔が蒼白になる。口が開いたままだ。フェルスはその表情を楽しんでいる。


「あぁ、城の中を見物する時間はあったようだな。城の人間の大半を殺したのは私だよ」


 ユリウスは皆の傷が斬られたものであることに気付いていた。切り傷はドラゴンがつけられるわけがない。何者かの侵入者がいたことだけはわかっていた。


「そこの王女様はすぐに気づいて攻撃してきたよ。本当に女の子らしさのない野蛮な獣のようなやつだな。そんな中でも私はちゃんと約束を守っているんだよ。だから君も殺していない」


 フェルスは笑顔で笑いかける。


「約束だと?」


 その約束の内容を聞いてさらにユリウスの顔から血の気が引く。

 たった一人の少女によって自分たちが守られているというのだ。その少女も騎士として守るべき存在であったのにもかかわらず。


 ユリウスは片手剣を構える。それを見たフェルスが笑い出した。


「まだ、戦おうというのか。いいぞ。どうだ、面白いものを見せてやろう」


 そうして詠唱を始めた。先ほどまで詠唱なしで魔法を使っていたためユリウスは驚きを隠せない。


「我、汝と契約せしものなり。………………」


 現れた契約獣にユリウスは目を見張る。


「嘘だろ? なんだよ、こいつは……。お前の契約獣はこんな奴じゃなかったはずだろ……」


 フェルスは答えない。ただ笑っているだけだ。圧倒的な力の前に足が動かない。ユリウスはその強大な敵を見ることしかできなかった。



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



 どれほど逃げ続けただろうか。体もまともに動かせるようになってきたようでサクヤもメリスにまたがっている。もう日が落ちている。さすがにメリスにも疲れが見える。魔力を使って相当のスピードで移動してきた。サクヤはローレンの方を見る。ローレンはレインを抱えている。さすがに疲れが見える。


「ここらで野営をしましょう」


 サクヤがローレンを振り返る。ローレンは顔を上げる。辺りを見回して頷く。森の中に人の気配はなさそうだ。

 二人はメリスから降りた。サクヤはレインを地面に降ろして、メリスを自分の中に戻す。野営の準備を始める。


「ローレン様とレイン様にこのような場所でお休みいただくのは気が引けますが……」


 サクヤは魔法で火を熾しながらうつむく。


「こればかりは仕方ないよ。サクヤのせいじゃないし僕は平気だよ。レインはこんなところで寝るの初めてかもしれないけど……」


 そう言って笑顔を向ける。ローレンは地面に腰かけ、空を見上げる。つられてサクヤも空を見る。星が輝いている。昼間に起こったことなど夢なのではないかと思えてくるほどに美しく。だが、そんな星の輝きでさえ二人の行く末を照らしてくれるわけではなかった。パチパチとはぜる火の音がむなしく響いている。ふいにローレンが口を開く。


「ルミナとユリウスは……大丈夫だよね……」


 ユリウスとの約束は果たさねばならない。サクヤのやるべきことは何ひとつ変わっていない。レインとローレンを守り抜くことだ。サクヤよりユリウスの方が強いのだ。心配する必要はない。ないはずなのだが、胸騒ぎは止まらなかった。


「えぇ、きっと無事です……」


 そう自分に言い聞かせるように言った。ローレンもうなずく。ふとレインの様子を見る。手も再生しており、胸の傷も塞がっている。あとは意識が戻るのを待つだけだろう。安心して腰を下ろす。

 

 気が抜けたせいだろうか、急に疲れが襲ってくる。だが、森の中で何が襲ってくるかわからない。そう思って眠気を振り払おうとする。ふと顔を上げるとローレンがこちらを見て笑っている。


「すみません。気が緩ん……」

「今日はゆっくり休みなよ。見張りくらいなら僕がやるから。って言っても何かが襲ってきたら起こすことになっちゃうけどね」


 サクヤの言葉を遮り、ローレンは笑顔で言った。


「そんなわけには……。ローレン様もお疲れでしょうし……」


 サクヤが慌てて答える。賢者様に見張りをさせるなど許されないことだと思った。


「サクヤしか戦える人はいないんだよ。だからいざというときに助けてね。……そうだね、じゃあ命令するね。休みなさい、サクヤ副団長」


 納得がいかない顔をするサクヤにローレンが付け加える。サクヤもあきらめたようだ。


「本当に申し訳ございません……。では、休ませていただきます」

「うん。お休みなさい」


 そう言葉を交わし、サクヤはレインの近くの木にもたれかかる。すぐに眠気が襲ってきてそのまま眠りについた。


 ローレンは立ち上がる。火を消してサクヤとレインの近くに座る。


 なにもできなかった。ただ騒いでいただけだった。何の力にもなれない自分が悔しかった。ローレンには魔力がほとんどない。体は強い方ではなく昔から勉強ばかりしていた。そんな自分が憎く思える。今は大切な人の無事を確かめることもできない。詰め込んだ知識なんて何の役にも立たない。何も守れなかった。

 ローレンはそんなことを考えながら見張りを続ける。ローレンの知識のおかげで助かった者も言葉のおかげで救われた者もいるのだから何もできなかったわけではないのだが、今はそれを言ってくれる人もいない。後悔と反省を抱きながら夜は更けていく。


 こうして、幸せな空間が突如として奪われた長い一日が終わった。だが同時にそれはこれから起きる悲劇の始まりでもあった。


今回も最後までお読みいただきありがとうございます。


サクヤ強いですね。まだ本気ではありません(笑)

ちなみにサクヤは七剣星の中で七番目です。

簡単に言えば世界で七番目に強いらしいです。

まぁ時代も変わるんで今後どうなるかはわかりませんが……


次回で第1章閉幕です。

次回もよろしくお願いいたします。

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