0-1 第1話 朝の光と理想の日常
何かが崩れ去っていったような気がする。直そうにももう戻らないように感じる。それに、何がどう崩れたのかさえ分からない。今まで当たり前にあったものが遠くに感じる。手を伸ばすが届かない感覚。
ふいに視界が赤に染まる。熱い。胸のあたりに熱い何かを押し当てられているような感覚だ。それとは違った表面的な熱さも顔のあたりに感じる。パチパチと何かがはじける音がする。やはり何かが燃えているのか。助けを求めなければ。それよりあいつは無事なのか……。
「…ミナ……」
口を懸命に動かすがまともな音にならない。確認しようにも瞼が重すぎて目も開かない。嗅覚も何も感じることができない。鼻が狂ってしまったようだ。口の中は鉄の味だ。確認はできないが致命的な状態にあることはよくわかる。
(俺は死ぬわけにはいかない。これ以上誰も失いたくない。頼む、誰でもいい、助けてくれ……)
次第に感覚が遠のいていく。なんでこうなったと考えてみるが思考も長くは続かない。朝までは普通の日々が続いていたはずだ。それがなんで……。
視界が光に満ちていく。そしてレイン・ファルサラームは夢から覚めた。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
視界を光に奪われる。鳥のさえずりも聞こえてきた。
(眩しい……。まったく朝が来るのは早いもんだ……。寝ている時間よりも寝付けずに困っている時間の方が長く感じる。まぁ、そんなはずはないんだけどな)
暖かい日差しが窓から差し込んでいる。すがすがしい朝だ。一人の少年が起き上がる。眩しさに目をこする。美しい銀髪に整った顔立ちをしている。見開いた瞳は朝日に照らされ赤く輝く。
(何か夢を見た気がするが……。内容が思い出せない……。あぁ、もやもやする。まぁ、思い出せないなら仕方がないか。今はあまりゆっくりしている時間はないしな)
思いっきり伸びをしてあたりを見回す。相変わらず平和な朝だ。少年がベッドから出ようとしたときだ。
「レーイーンーー! おきてるーー?」
バタンと音を立ててドアが開く。少女が赤いツインテールを揺らしながら部屋に走りこんできた。
「エリエル。部屋に入るときはノックをしろと教わらなかったか?」
「まったく。かわいい女の子が起こしに来てあげたんだよ? ほんとに……他に言うことないのかなぁ……」
エリエルと呼ばれた女の子はほほを膨らませている。いかにも動きやすそうな服装だ。上はTシャツ一枚。下は膝上くらいのスカートだ。彼女は何の断りもなくベッドに腰掛ける。
「あと、エリエルじゃなくてエリーって呼んでって言ってるじゃん」
「わかったよ。エリエル・セラフィー。起こしに来てくれてありがとう。でも俺はもう起きていたんだ……」
皮肉ぽく言ってみる。目をやるとエリエルの表情が険しいものに変わっていく。さすがにこれはやばそうだ。
「……でも、エリーのおかげでばっちり目が覚めたよ」
苦しい。あまりに苦しい。
「そうそう。最初から素直になればいいのだよ。レイン・ファルサラーム君」
なぜかエリエルに頭をポンポンたたかれている。レインは納得がいかないようだ。エリエルにより下にいるのが気に食わない。だが、怒らせずに済んだようだ。
「それより、早く着替えてよ。走りに行くでしょ?」
「別に一人で行ってきていいぞ。俺は行きたいときに行くから」
「またツンツンしちゃって! 素直になれ少年!」
エリエルの言葉に対し、レインはのどまで出かかった次の言葉を飲み込む。言いあうだけ無駄だと自分に言い聞かせ、ここは素直に応じる。
「分かった。着替えるから外出て待っといてくれるかな」
「まーた、女の子みたいなこと言っちゃって……」
「…………」
もう限界だった。今度はレインの表情が険しくなっていく。すでに目が笑っていない。さすがのエリエルも異変に気付く。
「あ、じゃあ外で待ってるねー」
エリエルは逃げるように外へ出ていった。エリエルの姿がドアの奥に消えると、レインは大きなため息をつく。
「まったく……」
そういいながらもレインの口元は緩む。立ち上がるとすぐに動きやすそうな服装に着替えを済ませ、ドアを開く。
(こんな時間がずっと続けばいい。平和で何気ない日常。戦いに明け暮れ、大切なものを危険に晒すことがない日々が……)
初めまして。リキヤと申します。
第一話読んでいただきありがとうございます。一話目なので少し短めです。
文章が拙い部分が多くお見苦しいかもしれませんが、書きながら成長していきたいと思います。
よろしければこれからも読んでいただけると嬉しいです。