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第98話 引き継がれた研究

「ええ、じゃあね」


 それを最後にヒサオからの声が途絶えた。


(これが通話ね。ヒサオのやつ、凄いスキルを覚えたわね)


 できれば自分も覚えたいとおもうが、こればっかりは無理だろうなと、ただうらやましがるだけである。

 たとえば、こうして城についたはいいが、師がどこにいるのか分からない状況において、通話というスキルがあれば、それ一発で解決だ。

 なんてずるい!


(ないならないで、人にきけばいいだけだけどね)


 そう考え、謁見の間前まで行ってみたが、扉前にいる兵に今日は見ていないと言われた。


「え? じゃあ、どこに?」


「いえ、私共ではサッパリ…」


 これは困った。

 エルマも詳しいことは知らないらしいので、聞いてきてない。

 城で会えそうな知り合いといえば、デュランという人だけだと思うが、いつもいるわけではないだろうし、うーん…

 と、悩みながら、テクテクと歩きながら周囲を見渡す。

 師の姿はもちろん、デュランという男の姿も見当たらない。

 黒髪というこの国にしては非常に珍しい。目立つのだから、すぐに見つかるはずなのだが、


(いない――どうしよ)


 このままだと時間だけがすぎていく。明日にはアグロに戻りたい。

 仕方がないので、適当に歩いていると、嗅いだことのある匂いが鼻についた。


「これって、確か」


 オルトナスの衣服についていた匂い。おそらく薬品関係のモノだと思うが、その匂いに酷似している。


「こっち?」


 嗅ぎながら足をすすめる。

 石壁でできた通路の先へと進み1度2階にのぼったあと、また1階へと下がることになった。

 面倒なつくりだな~ と考えながら匂いの元をたどっていくと、木製扉がついた部屋へとつく。


 コンコン。


 軽くノックをしてみるが反応がない。

 誰もいないのかと、あけてみると、ムワっと匂いがしてきた。


(うわ~ ちょっと濃すぎない? 大丈夫これ?)


 異臭とまではいかないが、きつめの香水を思いだした。

 中をのぞくと、数人の男女が試験管やフラスコを片手に様々な調査研究している様子が見えた。


(これもしかして見ちゃいけなかったかしら?)


 嫌な予感がしてきて、開けた扉をしめようとすると、


「なんじゃ? ミリアではないか」


 背後から突然聞こえてきた声にビクっと背筋を伸ばしてしまい、「ハゥ!」


 などという可愛らしい声をだしてしまった。

 ヒサオがきいたら、誰お前?。と言うかもしれない。

 そんな声に、中にいた人々が目をむけてくる。


「あ、あっと――すいません…」


 消え去るような声をだし、謝るミリア。

 非常に目ずらしいものをみたと、オルトナスは後で話したという。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 研究室の中に通されたミリアは、オルトナスとテーブルを挟んで椅子にすわり、ハーブティをのみながら話をしていた。


「許可がほしいじゃと?」


「はい。魔力不足はなんとかなりましたので、もう描けます」


「ほー その言い草じゃと、どこかで勝手に試しおったな?」


「あ、い、いえ……はい」


 実はくる前に森の中でためし、その後始末もしてきている。

 その事が、あっさりとバレてしまったようだ。


「ミリアの場合は魔力不足が原因で時間内に描ききれんかったしの。それが解消されたのであれば確かに描けるじゃろ。しかし、どうやった?」


「えっと、これです。仲間のドワーフがつくってくれました」


 いってみせたのは、ジグルドのつくった腕輪であった。


「ミスリルか。純度はたかそうじゃな――ホ? この鮮血のように輝く石は……ルーネス? また、珍しいものを……よもやこれほどのものを作れるドワーフが生き残っておったとは…」


「あ――いい忘れていましたが、仲間のドワーフも異世界人なんです。私やヒサオと同じ時に、こちらの世界にきてしまって」


「……同時に? お前たちは勇者召喚だったのか?」


「いえ、違うとおもいますよ。えっとですね……」


 説明をしてみると、オルトナスは首を何度も捻っていた。


「いかんの。知っておるつもりだったが、人間世界のことはやはり疎いか。しらぬうちに何度か異世界人達がきておったとは……」


「らしいですね。その人たちは、すぐに捕まり利用されていたらしいですけど」


 言うとオルトナスが、悩むような声をだし茶に一口つける。


「それで、師匠どうです?」


「んー しかしなぜ急に必要とする? お主が知りたいのは帰還魔法のほうではないのか?」


「そうですよ。そこは変わっていません。ただ、ちょっと転移魔法陣もあったほうがよさそうなので」


「……まて。お前、どこに設置するつもりだ?]


 オルトナスが顔も体も膠着させた。


「バレました?」


「というより、ワシも巻き込もうと思っとらんか?」


「そこまでは……ただ事がおわったあとは、協力してくれないかな~ とは考えています」


「事? なんじゃそれは?」


「それは言えません」


「あれもこれも内緒か? お前らしくない」


「私だけの問題ではないので、師匠とはいえ言えません」


 頼んでいるのにも関わらず、どこか余裕すら感じさせる態度である。


「ハァ――それで、何がおきる?」


「先日、師匠はアグロでみましたよね?」


「アレ関係か? 確かにあれは酷かったが、魔族の方針が……そういうことか?」


「言えません」


「ぐぬぬぬぬぬ……」


 こ、こいつはと、体をワナワナと振るわせている。

 部屋のなかにいて、2人を見守る他のエルフが心配そうにみていた。


「……だめじゃ」


「なぜです!」


「あたりまえじゃろうが! お前のしようしていることは、ここをも巻き込みかねんのじゃぞ!」


「巻き込みませんよ! ユミルはハズしますから!」


 起きてしまった師弟の口論に、皆がうろたえだした。

 警備兵をよびにいこうかと扉に手をかけたが、


「待ってください。もういいです。帰りますから」


 と、ミリアが声をかけ止めた。

 言ったとおり扉に手をかけたミリアだったが、


「ああ、そういえば、師匠」


「なんじゃ? 許可はださんぞ」


 まだ何かあるのかと不機嫌な声。


「違いますよ……メグミさんの手記読ませてもらいました」


「!? ……なぜじゃ! 魔王とあったのか!」


「それも内緒です。ただ……」


 言葉途中でやめ、部屋を見渡す。多くの薬品を目にいれながら、


「研究――続けていたんですね」


「……帰れ。いま(・・)は話せることがない」


「――はい。ありがとうございました」


 軽く頭をさげ、扉を閉めた。

 スタスタと迷いなく部屋をはなれていく弟子。

 部屋に残った師は、わずかな迷いを振り払おうとしていた。


「……ふん」


 事情をしっている研究員達は、不機嫌となったオルトナスに話かけようとはしなかった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 翌日の昼。集会所で会議をしていた俺達のところにミリアが戻ってきた。


「おかえり。目的はすんだの?」


「ただいま。残念ながら駄目だったわ」


「そか、残念」


 珍しいなと思っていると、俺の隣にやってきて着席。


「おいおい、勝手にはいってきて会議に参加か? おめぇ今まで何もしてねぇじゃねぇか」


「ケチくさい男ね~ 明後日には一緒にテラーのほうに加わるんだしいいじゃない」


「ケッ!」


 俺を挟んで喧嘩すんなと言いたい。手をあげとめようとしたが、その前に勝手にやめてくれた。


「それでどんな感じ?」


「ん? まあ、砦のほうは問題ないよ。でも本拠地の城がな~」


「召喚された2人のこと?」


「うん。2人とも城にいるとは思うけど、もし別の所だったら……」


「……ヒサオ。名前さえわかれば遠距離でも鑑定できるのよね?」


「え? うん」


「……なんだ、簡単じゃない」


「なんで?」


「ルイン=リムダート。これで検索鑑定してみれば?」


 少し待つ。ミリアのいったことが飲み込めるまで、数秒の時間を要した。そして理解したあとは、


「「「あああ!」」」


「ついでに言うと、私の兄よ」


「「「なにぃい!」」」


 3人がこの問題で1日なやんでいた。

 ミリアがやってきて解決するまでわずか10分ほどだろう。

 解決するときは、簡単に解決するものである。



 決して3名とも脳筋だったわけではない。

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