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第90話 エルフの爺

 アルツ攻めの準備が進むなか、見知らぬエルフが街へと転移してきた。


「ずいぶん様変(さまか)わりしておるの……」


 誰、この見かけに似合わない口調のエルフは? と最初見た時思った。

 中途半端に伸びた銀髪に、切れ長の銀の眼。えらく整った顔立ちだけど、思えばダークエルフの人たちも美形ぞろいだな。……エルフって名がつくと美形ってきまってんのか?


「む? 人間じゃと? どうしてここにおる? ……いや ……本当に人間か?」


 俺をみるなり、敵意むきだしの目を俺にむけてきた。

 口調からして、カリスさんやオッサンのような年齢を思い浮かべるけど、どうみても25歳前後。まあ、羽織っている薄青い外套はちょっと古臭いかな?


「はぁ? 人間ですよ? いちゃわるいです?」


 ただでさえ戦争の準備でこっちはイラついてんだ。そこにあんなこと言われたら、カチンとくるってもの。


「いつからこの街は、人間の……というわけではないようじゃが」


「見ての通り、魔族も獣人もいますが何か?」


 周囲をぐるっとみたから、何をおもったのかだいたい見当はついた。ここにいる人間は俺一人だけどよくみやがれイケメンオヤジといってやりたい。


「しかし、お主……」


「なんです?」


 なんだよさっきから、俺のこと奇妙な者をみるような目でみやがって。


「いや良い。それよりカリスの爺はどこじゃ?」


「へ? カリスさんの知り合い?」


「古い付き合いじゃ。知っているなら、案内を頼みたい」


 あちゃ、これは大変な人かもしれない。でもいまは静養中だし迂闊には案内できないぞ。


「失礼ですが、あんた誰?」


「……本当に失礼な聞き方じゃな。まあいいじゃろ。ワシはオルトナス=エウロパじゃ。そこの魔法陣を設置したヒナガ=メグミの師といえばわかるか?」


「……え?」


 ナニイッテルノカワカラナイ。


 ……現実逃避はやめよう。

 オルトナスって、俺の中では根性のひん曲がった爺のイメージがあるんだけど?

 こんな若くてイケメンオッサン……うん、口調はオッサンだな。


「ええい、お前はアホウか。いいから、さっさとカリスの爺さんのところに案内せい。至急聞きたいことがある」


 怒鳴られた。こういうの久しぶりだな。なぜかホっとしてしまう。

 ……って、そういえばミリアのやつオルトナスって人の家にいたよな? じゃあ、もしかして…


「あの、ちょっと確認させてください。ミリアというエルフを知っていませんか?」


「なぜ、ミリアの名を? あの娘は、今ワシの弟子として引き取っているが、どういう関係だ?」


 アパパパパパパ!

 この人本物じゃねぇか! そんな睨まないでくれよ! おもいっきり失敗したんじゃねぇのこれ……つか、鑑定すれば一発じゃねぇか。なぜ気付かない俺。

 その後はとにかく丁寧に案内させてもらった。これあとでミリアが知ったら笑われそうだな。


 まだ寝込んでいるカリスさんの元へと案内すると、2人の間で話が始まった。邪魔をしてはいけないと思い、案内したあと俺はすぐに部屋をでる。

 しかし、なんでいるんだよ。気になるからあとでカリスさんに聞いてみよ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 カリスさんに聞こうとする前に逆に呼ばれてしまった。


「勇者召喚って……」


 イルマとフェルマンさんも呼び出され一緒にいるんだけど、カリスさんの口からそんな事をいわれ、まったくの初耳なんですけど! といった状態の俺達。


「なんじゃ、ここにくれば何かわかるかと思ったが、何も知らんのか?」


「見ての通りだ。だいたい半月ほど前に人間たちに。襲われたばかりじゃ。そんな街に人間の情報がくるわけなかろう」


「それは聞いたが……まて、ということは、その戦いが原因なのか?」


「ワシ等がわかるわけないじゃろうが。お前みかけは若いくせに、ほんと中身は老害だな」


「ろ、老害じゃと! お前が言うのか、お前が!」


「老害で悪ければ、天災じゃ! いつもいつも面倒な事をもちこみおって! エルフの国で大人しくしとれ!」


 ……なにこの2人? いまにも物理的な喧嘩には発展しそうな勢いなんですけど。

 そうなったら、どうなるんだろ?

 カリスさんは竜王だけど、いま弱ってるしな。オルトナスって人は魔法つかえるのかな? まあ、母さんの……アァ――――――――――!


「そ、そうだった!」


 唐突に思い出し声をあげてしまった。

 この人、母さんの先生じゃん! 何してんだ俺! 色々聞くチャンスじゃないか!


「あ、あのオルトナスさん、ちょっといいですか?」


「なんじゃ? 急に? 手もみなぞして気持ちの悪い」


 ほっとけ。

 まずはこれをみせるか。

 空間に手をつっこみ、母さんの手記をとりだす。


「それはメグミの……なぜ、お前がもっている?」


「えっと……俺、ヒナガ=ヒサオっていいます。どうやらメグミってのは、俺の母のようでして、それで魔王様からいただきました」


「……は? 息子? ……ほんとうに?」


 今度はオルトナスさんが驚き妙な沈黙がその場に流れた。


「なにがどうなっているんじゃ……」


 手記と俺を見比べ、目をパチパチさせている。イケメン顔が崩れていてなんか面白い。


「それで、母さんのことが聞きたいのですが、良いでしょうか?」


「う、うーむ」


「ヒサオ。それにオルトナス。今はその話をしていたのではなかろ? 気になるのはわかるが、勇者召喚の話が本当だとしたら大変なことになるぞ」


「あ!」


 そうだった。

 いや、でも母さんのこと聞きたいしな……


「とはいえ、すでに召喚されたのだとしたら、魔王殿の身辺警護を厳重にするしかないぞ?」


「魔王様といわんか」


「それこそ今はどうでも良いじゃろうが」


 また2人がいがみ合い始めた。この2人、仲が良いんじゃ……


「しかし、そうなると戦いの方針も変えねばならぬな」


「なに? それはどういうことだ?」


「魔王様から許可がでた。託宣がほとんど聞こえなくなっているらしい。それに、とんでもない武器をだしてきおって、今まで通りではこの街も危ないのだ」


「そんな事態に? むー その武器とやらを詳しく聞かせてくれ。国にもちかえって伝えねばならぬ」


 飛び交う2人の声。若いはずの俺達3人は傍観者になっている。

 方針きめるのは俺達な気がするんだが、なぜかこの2人の間で決まっていくような……気のせいじゃないな。老人パワーすげぇ! 一人はイケメンオッサンだけど。


「オルトナス殿、それならば、大砲と呼ばれるものを一つ確保しています。現在鍛冶師にしらべさせていますが、ご覧になりますか?」


「おお! それはありがたい。ダークエルフの族長でしたかな? 感謝しますぞ」


「いえ、これは、ここにいるヒサオの指示で確保していたものですので、感謝であれば、この者に」


「ほほう。さすがはメグミの息子といったところか?」


「き、恐縮です」


 褒められているのはわかるんだが、その母さんの記憶が全くないからな~ 手記をみてみたが、俺がわからない理屈が色々書かれていて、頭がよかったぐらいしかわからない。

 この人には母さんのことだけではなく、ミリアが今どんな状態なのかも聞いておきたいが、タイミングが……少しおちついてからにしよう。


 さて、オルトナスさんの希望通り、調べてもらった大砲の場所に案内したんだけど、


「なんじゃこれは?」


 大砲はすでに解体されていて、組み立てした姿を説明するのに一苦労した。

 解体してわかったことだが、筒底に魔法陣が彫られていた。

 おそらく急造品だったのだろう。かなりの粗悪品らしく、数度の戦闘で機能しなくなるらしい。


「密閉された内部で小さな爆発魔法を魔法陣前方に発生させ玉を発射させる仕掛けか……」


「そうなると思うのですが、これって普通に魔法を撃つのと違うのですか?」


「実物の威力をみておらんからわからんが、街の様子からしてかなり効率よく力の伝道が行われているのだろう。爆発する力を一点集中で遠くに物体を飛ばせる仕掛けか。これは分かれば簡単に利用できそうだな」


「同じ魔力をつかって攻撃するのとでは、効果が違うと?」


「そうだ。例えばこれにつかう規模の爆発魔法を対人戦闘でつかったとしても、ほとんど効果は見込めん。かなり接近していなければ、せいぜい火傷をあたえるぐらいじゃ」


 ……拡散と集中だけでそこまで違うのか。


「この大砲はどのくらいの距離からつかっておった?」


「えーっと、あの門をでて、かなり禿げてしまった場所がみえますか? あの場所からさらに丘のほうにいったところです」


「……ずいぶん遠いな。この距離を直接攻撃できるのか……とんでもない発明品だな」


 これってこの世界だとそうなるのか。ミサイルとかでてきたら、どうなるんだろ?


「精霊使いのおかげでかなり楽には勝てました」


「なに? つかえたのか?」


「え? どういうことです?」


「エルフの国以外で使えるとは思わなんだ。外界でも使えるようにはなっておったか……」


「??? すいません意味が……」


 詳しくきこうとしたら、


「銃というのはないのか?」

 

 逆に尋ねられた……


「そっちは現物がないですね。全部もちかえったようです」


「となるとここまでかの? すまぬが至急もどって王に知らせねばならん。ワシはもういく。カリスの爺にはよろしく伝えておいてくれ」


「ああ、っと」


 帰りそうになったので呼び止めた。


「なんじゃ?」


「あの、ミリアや母さんのこと。それに精霊のことも知りたいんですけど」


「……ああ、うーん。ミリアのことならば本人に聞け。一度こっちにもどそう。メグミのことは……すまぬが、今は話したくない。精霊については、いま少し調べねばならぬ。ではな」


 まるで逃げるかのように、オルトナスさんは去っていった。

 なんだあのエルフは……

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