第9話 ダークエルフ
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「いるね」
次の日の朝。何も無ければ森を出る予定だったが、そうもいかなくなった。
俺達を取り囲む存在に対し足を止め反応を待つ。
「匂いが混じっていて、数の把握が難しい」
テラーさんはすでにエレメントソードを抜いていて、いつもの風精霊を憑依させている。彼女いわく、一番扱いやすいとのこと。
「五人だと思うわ。後ろにも二人いるようだし」
ミリアは、見ずとも分かると言わんばかりに、世界樹の杖を両手で握りしめ何かしらの魔法をうちはなつ態勢だった。
(後ろにもいるのか。前は六人みたいだけどな)
目に映るHPメーターだけで六人分。下の茂みに三人と上の木に三人。どちらをミリアは察したのかしらないが、さらに後ろにもいるとなると八人以上か? うーん……って、
「エルフかどうかは分からないのか?」
ここに来た理由を考え口にしたが二人ともが首を横にふった。エルフ独特の匂いとかないのかな?
「ダメ。エルフと似ているけど微妙に違う感じなのよ」
ダメらしい。どう微妙なのかは知らないが、ミリアはそう判断したようだ。
囲まれている形になっているようだが、このままだと、互いの反応待ちって感じになりそうだ。
「襲ってきそうにないなら、聞いてみた方がいいんじゃないかな? ミリアさん」
「そこで私なわけ? あんた男でしょ」
「男女差別反対。と言うか、弱々しい俺がこっちの代表だと向こうが聞く耳をもたないと思います」
「その必要ないみたいですよ。出てきました」
「「え?」」
おれとミリアがハモった声を出し前へと目を戻すと、繁みの中から華奢な体躯の黒い肌をした男……これダークエルフってやつじゃないのか?
「……えっと? 黒い肌のエルフ?」
なぜ疑問形? とミリアにツッコミたい。見たままじゃないか。
テラーさんは、警戒をわずかに緩めたかのように剣を下へと向けた。
「ダークエルフですか。なるほど、ここは彼らのテリトリーなんですね」
「え? ダークエルフ?」
「ミリア?」
俺たちの中でミリアだけが「なにそれ?」状態になっているのが良く分かった。まさかとは思うが、
「ミリアの世界じゃいないのか? まあ俺の世界にもいないけどさ」
「ミリアさん、3つの世界を知っているんじゃ?」
「そうよ。だけど聞いた事もないわ」
意外な事だと俺とテラーさんがポカーンとしていると、出てきたダークエルフが口を開いた。
「湖上の森のエルフに尋ねる。なぜ人間や獣人と共にいるのか?」
堂々とした声だった。ハッキリと俺たち三人に伝えようとしているのが分かる。ここにいる中で一番偉いのだろう。その男は使いなれていると思われる木製の弓と矢を両手で持ち、俺たちの反応を待っている。
(ヒサオ、湖上の森ってなに?)
(知らねぇよ!)
分かる訳がなく、ヒソヒソと話してると、
(おそらくこの近くで一番近いエルフの住処ではないでしょうか? 態度から察するに私やヒサオがミリアさんと一緒にいることが気になるようですね)
テラーさんが通訳でもするかのように俺達に教えてくれた。
人間や獣人がエルフといるのが、そんなにオカシナ事なのか?
「どうした? 返事が出来ないのであれば、こちらも……ん?」
男が言い切るまえに、繁みの中からもう一人出てきて、ボソボソと耳打ちした。
聞いた男の銀の瞳が大きく見開く。
気のせいか、白い銀髪が一瞬浮かんだようにも見えた。
「……」
男の鼻が二度ほどヒクヒク動く。匂いを嗅ぐかのような動作だが、それになんの意味があるのか分からない。頭の中で?マークが浮かびあがった。
(おれまだ臭い?)
まさかと思い聞いてみたが、匂いに敏感な二人が首を横にふった。
(そういう感じではないように見えます)
(なんだろ? なにかを嗅ぎ分けているような感じね)
(そうですね。そんな感じがします)
そんな会話がヒソヒソとされてると、ダークエルフの若者が(たぶん? こいつらの年齢分からん)
「ほんの僅かだか、お前たちからドワーフの匂いがする。まさかとは思うがどこかで会ったのか?」
言いたいことは分かったが、俺の頭の中にはさらに?マークが浮かんだ。
こいつの言い方、変じゃないか?
だって、ドワーフの匂いがして、『まさか』『どこかで会った』だぜ?
まさかってなんだよ? そんなに希少種なのか? それにどこかでって、近くにいるかもしれないってことは考えないのか?
なんか妙な気がするが俺の考えすぎだろうか? とミリアを見ると、何やら考えこんでいる様子だ。同じような疑問をもったのだろうか?
一方テラーさんはといえば、ズイッと一歩前にでて剣をかまえ直した。男前や!
「その質問に返事をする前に、全員出てきてもらえませんか? ドワーフの事が話に出てから殺気が膨らんでいます。穏便に話をしたいようには思えません」
目をキツク細め、男へと声を放つ。気迫を込めたような静かな声だった。
それに押されたのか、男に知らせにきた奴が一歩後ずさった。
「獣人が正論を言うとは」
リーダー格の男が、口元を苦々しく歪めた。
(これって……)
チラっとミリアを見ると彼女も俺を見て頷いた。考えることは一緒のようだ。
察したのか、ミリアがテラーさんの背中をトントンと叩いて、場所を変わった。
「穏便に話をする為に私が相手をした方が良さそうなので変わります。彼女が言ったように武器を納めて出て来てはくれないでしょうか? 話はそれからで」
言っていることはテラーさんとほぼ同じなのだが、聞いた男はサっと手を上げた。それを合図に繁みや木の上に隠れていた6人程が出てくる……あれ?
(まだ出てきていないのがいるけど、どうする?)
コソっとミリアの耳元で言うと、彼女はチラっと周囲を見渡した。
(どこ?)
場所が分からないようなので、木の上いると教えてやる。
(警戒しておいて)
そういってから会話に戻った。俺はと言えばジーっとメーターだけしか見えない木の上へと視線を向けている。
「これでいいか? では、俺の質問に答えてもらおうか」
「いいわ。そうね、どこから話しましょうか?」
ミリアは、俺たちが異世界人であることも含めて、全て話しはじめた。
その中でジグルドの話が出てくると、ダークエルフ達の反応が敏感に動く。
あるものは肩をピクっと動かして終わるが、あるものは弓を落とした。過剰な反応をする者もいて、この人達にとってドワーフという種族が特別なのだと理解するには時間はいらなかった。
「それで今は森の外に一人で…」
「至急ここに連れてくることは可能か?」
言い終わるまえに聞かれたが、ここまで2日かかっているわけだから往復で4日はかかるだろうと説明すると、
「戻るだけなら1日でつける。案内をつけるから急いで連れてきてほしい」
「理由は?」
「危険だからだ。この国のドワーフは10日ほど前に全員殺された。他の国々でも同様の被害があったらしい。あとは分かるだろ?」
もはや隠し事をする気はないのが声から分かった。
いつのまにか木の上にいた奴も出てきていて、彼らにとって一大事だというのが理解できた。
「嘘は言ってなさそうね。わかったわ、じゃ、案内役をお願い」
ミリアの決定で俺達は来た道を引き返すことにした。