表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/273

第89話 二王の許可

「そうですそうですそうです。そうだったのです」


 エラクからの連絡を受けたラーグスは、自分の犯した過ちを知ることになった。

 謁見の間からでて、自分が普段つかっている仕事部屋へと戻ると、部屋中をウロウロし、ひたすら「そうです」を繰り返していた。


「そうですそうですそうなのです。ああ、なんという過ちを私はしたのでしょう。これでは《神託》を受け取ることができた私が、間違っていたことになってしまうではないか」


 頭上に両手をのせ、ぶんぶん振り出した。


「《託宣》などという下等な声に耳を貸していた連中では、どのように優れたものを与えても無意味なのです! 本当に必要なのは《神託》による恩恵を与えるにふさわしい人々。つまりは選ばれた者!」


 ついには足で床をダンダンと蹴りはじめた。外の扉まえに立っている兵たちは、今度はどんな《神託》をうけとったのかと気になって仕方がない。


「なんとかしなくては、なんとかしなくては、なんとか……」


 手段をえても、それを実行できうる人材がない。そうした答えにたどりついたようだ。


「王国の人間はだめです。ここの人間は指示されることに、慣れきってしまっている」


 身をくねらせ、自分が思う『正しい』推論を重ねていく。その言葉に耳を傾けている扉外の兵士たち。


「あの偽勇者もいるというではないですか。あの男だけはどうしても殺さなければ気が済まない! そうですそうですそうなのです! あいつは悪なのです! あれは神の怨敵! 《神託》はきっと神の怨敵を亡ぼす為のものなのです!」


 顔を思い出すたびに、体の奥底から恨みがこみあげてくる。


 最後の記憶は、取引にはいって指輪を渡してしまったところ。そのあとのことは一切おぼえていない。

 あのあと何があって、自分は気絶していたというのだ。


 意識がもどったのは、《神託》をえたとき。

 知識がイメージとなり脳に焼き付かれた時、自分こそ選ばれた存在と確信した。

 ジェイドによれば、自分は狂気じみていたから牢にいれられていたというが、それこそ間違いだ。きっと、神が施した試練に打ち勝とうとしていた姿を凡人が勝手に誤解したのだろう。


「ああ、いったいどうすればあぁ――この苦しみも試練だというのですか! 悩み苦しみその果てに新たな《神託》が下ると! ならば苦しみましょう。その果てに更なる英知がまっているのであれば!」


 どうやら結論にいたったようだ。

 自分の考えに陶酔するという結論であるが。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 疲れた。


 イルマの話のあと、治療所は一気に会議の場となった。

 そこで色々な質問をされたが、俺だって考えていたわけじゃない。答えられるものと、そうでないものが多々ある。

 そこででた話から、思いついたことがあって実行。

 終わったのが、ついさっきなんだけど、疲労が半端ない。今なら丸一日は寝ていられそうだ。


 銃はさすがに落ちていなかったけど、大砲のほうは鍛冶師の人がいたので任せてみた。


 負傷者のほうだけど、この街が転移魔法陣でエーラムとつながっていることを思い出し、俺の魔力で動ける負傷者を避難させた。今また襲われたら、たまったものじゃないからな。


 動ける魔族には、ダークエルフ達が精霊との交感方法をレクチャー。

 だけど、どうもうまくいかないらしい。種族適正の差が出ているのだと思う。

 翼人たちはわりと適正が高いようだけど、ゴブリンや竜人たちは駄目だったみたい。


 イルマは3日目には現場復帰。

 聞けば獣人というのは回復力が高いらしい。おまけにイルマの場合、光の精霊を憑依できるから、さらに回復速度を速めたって話だ。無茶しやがる。


 そしてカリスさん。

 彼もまた完全に意識を取りもどしたので、さっそく会いにいったら、


「おお、まさか、お主らに助けられるとはな。いくら感謝してもしきれん」


「俺達だって助けられた立場なんです。頭を下げないでください」


 会うなりこんなことを言われたので、恐縮してしまう。


 さて、まず問題の一つを片付けよう。


「カリスさん、少し質問があります」


「なんじゃ? ワシが答えられる範囲かの?」


 それは分からないが質問をしてみる。

 俺が聞きたいのは、増援要請の件だ。


 そもそもこの街はエーラムと魔法陣でつながっている。

 だから、増援を呼ぶのは比較的容易なはずだ。

 だが、実際やってきたのは俺達。村のほうに飛んできた竜人のおかげだ。

 これはおかしいだろ。と、聞いてみたら、


「そのことか。増援については、ワシが指示をだした」


「カリスさんが? エーラムへの増援は出さなかったんですか?」


「もちろん出した。だが、増援要請を出した部下が大砲の衝撃で死んでおった。そのことを知らずにワシは戦っていた」


「……! あれか」


「心当たりが?」


「はい。俺がこの街にきたとき、待機所の側で多くの人達が死んでいました。中には竜人もいましたから……」


「それじゃな。念のため、ブランギッシュにも要請を出したのが救いになったようだ」


 そういうこともあるのか。増援要請を複数だすなんて当然ともいえるのか?


「ふむ? お主、ここをでてから変わったか?」


 考えこむ俺を、カリスさんが細めた目でみて言う。


「色々経験しましたから、それなりには?」


「魔王様に会って良かったようじゃな。それにそこの獣人達」


 今度は俺の後ろにいるイルマ達だ。

 テラーとエイブンも気になっていたようで、ついてきている。


「いつぞや以来だが、同盟の件、上手くいってよかったの」


「ああ、爺さんのおかげで助かったぜ。今度きてくれよ」


「イルマ! お前、失礼ではないか!」


「2人とも、もう少し立場をわきまえて……もうしわけありません」


「ほ? いつぞやワシを人質にしにきた連中とは思えんの?」


 カリスさんが3人をからかい、笑い声をあげた。

 わりと元気そうで安心したけど、


「悪いがしばらくは顕現できそうにない。内部のダメージがまだ残っておる。すまぬがしばらくこの街に残っててくれぬか?」


「あー その件ですが、魔王様からの命令で、一ヶ月以内にアルツ攻めの準備をしろと言われました」


「!? まさか託宣封印をやめるというのか!」


「いえ、そういう事ではなくて……」


 カリスさんが驚き、急に体を動かして痛みを訴える。

 俺が説明を始めると、少しは落ち着いたらしい。


「そのような状況になっていたとは……」


「俺も魔王様から聞かされてびっくりですよ。そんなわけなので、しばらくこの街はうるさくなるかもしれませんが、申し訳ないです」


「分かった。そういうことであれば、ワシも協力しよう。この街の連中にはワシからいっておく」


「助かります」


 これで話は決まった。


 魔王と竜王の許可がおり、アルツ攻めの準備が始まることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ