第83話 救援要請
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「ふゎ~~~」
朝早くに村の外にでて、適当に弱いモンスターを見つけては狩る。
すでに日課となっているため、これをやらないと一日の調子がでなくなった。
そのおかげで39まであがったけど、あと1がなかなか上がらない。
まあ、そうなってもたぶん、解読がランクアップするだけだとおもうんだけど変化が欲しい。
使い慣れた鉄剣を鞘にいれ村にもどってくると、ざわめく声が聞こえてきた。
どうしたんだろ?
そう思った瞬間、
ズガガガガガガア!
「うお!?」
何だ今の音? 地鳴りか? いや、工事でもされたかのような……訓練所のほうだな。
かけつけてみると、ゼグトさんが立っていて、その周囲の土が盛り上がり1mほどの壁を作り出していた。
「え?」
「ヒサオ! いまの見たか!」
「いや、今きたところだけど……これなに?」
イルマに見つかり、逆に尋ね返した。
「ゼグトもう一回やってみてくれ。その方が早い」
「わかった。今度は戻してみる」
「戻す?」
何をいってるんだ? とみていると、盛り上がった土にさわり目をつぶる。そして、
「与え守るもの、汝が名は《土の精霊》! 我が願いを具現せよ!」
朝の空気に浸透するかのような朗々とした声。
詠唱がおわると、やすらがな光が周囲の土を包んだ。
そして、
ズガガガガガガガガガァ!
またか!
いままでの雰囲気をぶち壊すかのような騒音をだしながら、地面が元の状態へともどっていく。なんだこれは?
「みたか? すげぇだろ!」
「いや、すげぇーのはわかったけど、これなに?」
「なにって、おめぇが昨日いったことだよ。ダークエルフ達に、精霊の交感方法を教えたらこうなった」
「……え?」
「いやだからよ……」
2度目の説明をきいても、よくわからなかった。
だって、教えたのって精霊憑依のほうじゃ? これ別じゃないの?
「どうしてこうなった?」
この言葉を本気で口にするとは思わなかった。
「俺もこうなるとは思わなかったよ」
「教えたのお前だろ? 説明してくれよ」
「俺より、ゼグトのほうからがいいとおもうぜ」
ふっと顔をゼグトさんに向けていう。彼もまた話たがっているようだ。珍しく興奮している様子が伺える。
「イルマに教えられて、周囲の自然に溶け込むように意識を広げてみた。そうしたら何か生き物がいるような感覚があって、意識を向けたら頭の中に話かけてきた」
一息でここまで話だす。ほんとに興奮しいているようだ。顔も赤くなっているし、後ろにいる他のダークエルフの人達も同様の精神状態にあるらしい。
「話ができたら後は簡単だった。どうしたらいいのか教えてくれて、自分の魔力を精霊がつかい意図した現象をおこしてくれる。これは凄いよ! 凄すぎる!」
痛い痛い痛い。おれの肩をつかんで揺らさないで。ちょっと頭が揺れて気持ち悪い。
興奮するのは分かるけど、なにそれ?
今さっき教えたばかりじゃないの? そんな急にできるわけ? おかしくね?
「イルマが教えたのって精霊憑依じゃないの?」
「その前の段階でこうなった。なんだよこれ?」
「俺が聞きたいんだけど? そもそも精霊との交感ってそんな簡単にできるものなのか?」
「いや、できねぇよ。できたら俺達は苦労しねぇって。どんだけ精霊憑依を諦めた獣人がいるとおもうんだ」
こいつも興奮しているな。唾飛ばすなよ。きたない。
「……もしかしてだけど、これって皆さんも?」
ゼグトさん以外にも、以前護衛として俺たちを守ってくれた人達がいるわけで、どうもその人たちの表情をみるかぎり、できちゃったような感じなんですが……
「ああ、みてくれ!」
そのあとは凄かった。
1人、2人、3人とそれぞれが最初に接触できた精霊の力をみせつけてきやがる。
……ちくしょう、おれもつかいてぇぞ。
「ハァ……いや、強くなるのはいいんだけど、これはちょっと予想外?」
「もう少し試さないとわからねぇが、ちょっと汎用性が高すぎる気がするぜ。たぶん、消費する魔力も半端ないんじゃないか?」
そうなのか? とゼグトさんをみてみると、さほど疲労の色がみえない。高揚しているせいだろうか?
「じゃあ、無理しないでもう少し試してみて」
「「「「「「よしやるぞ!」」」」」」
うわ…この人たちやる気満々だな……
いいな~俺もファンタジー的な何かつかってみてぇ~
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そんなことがあって、数日様子を見てみたけど、ダークエルフ達の中にもできない人達がいるらしい。少し安心した。
どういう理由があるのかしらないが、けっこうな人数が交換できたので、戦力大幅UPといえるだろう。
フェルマンさんも交感できており、最初に接触した闇精霊と時々対話しているようだ。
「こんなに簡単に覚えられるのに、どうして今まで忘れ去られていたんですか?」
空中に闇の玉を浮かしているフェルマンさんに聞いてみた。
「俺にだって分からない。こんのが扱えていたのなら、ドワーフたちだって守れていただろうに……くそ!」
イルマが危惧していた魔力消費の件もさほどではなかったらしく、今では村のあちこちで精霊に助けてもらいながらの村開発が急ピッチで進んでいる。下手したら、あと1ヶ月で街になるんじゃ? という速度だ。
ほんと、汎用性が高すぎて、とんでもない速度で色々なことが可能になってしまった。
「これってダークエルフの方々だけなんですかね?」
「たぶんエルフもだろうな」
「そういや、エルフってなんで離別していったんです?」
「精魔戦争が終わってその後だというのは聞いているが」
「精魔戦争って先日いっていたやつですよね?」
「そうだ」
ふーん……あの話もちょっと疑問に思うところがあるけど、長い歴史がたっているし、全部正確につたわっているわけじゃないだろうな。
とりあえず、これで村の防衛はなんとかなるかな?
精霊に力を借りられば戦力的には十分だろう。
ちょっと獣人たちの、うらやましげな目線が気になるが、俺もその気持ちは分からんでもない。
いいな精霊……おれにも話かけてきてくれないかな……
まぁ、これで俺がやっておかないといけないことは、大分へったな。
いまの状態なら、ラーグスがライフル銃をつくってやってきても対応可能だ。
それだって火薬が発明されていないこの世界じゃ無理だけどね。
「一度魔王様に報告しに戻ろうかな~」
「それもそうだな。あの2人との約束も間近ではないのか?」
「ミリアとオッサン? ですね。あと1ヶ月ちょいって感じです」
そうか、別れてからそろそろ5ヶ月になるのか。よくまあ、ここまでやったものだ。
母さんの手記も手に入ったし、あれもミリアにみせないとな。中に書かれていた魔法の話とか俺さっぱりだったし。
「アグニスさんの店のほうも大丈夫そうだし、村の空気もよくなった。精霊が扱えるようになり戦力も整った。いざという時のための足として大型馬車も用意できつつある」
一つ一つ指折りしながら、この2ヶ月でやってきたことを考えてみる。
……思い出すと吐きそうだ。
「ここのことはしばらく大丈夫そうだし、戻ってみてもいいぞ」
「そうしますか。気になることもあるし」
2年A組とか、ペリスさんからの連絡が来ていないとか気になる。
よし、もどってきいてみるか。
「じゃあ、明日の朝にでも行ってきます。たぶん、4,5日で戻ると思うのでよろ………」
「どうした?」
俺の気のせいだろうか?
村に向かって飛んでくる竜人が一人見えるんだが……
フラフラととんでいて、かなり危なかっしい様子だが……やばい!
「あれ! あれみて!」
ひたすら指さし、アレアレを連呼する俺。何事だとフェルマンさんが見たかとおもうと、
「まずい! 落ちるぞ。包み眠らせるもの、汝が名は《闇の精霊》! 我が願いを具現せよ」
詠唱し手にしていた闇の塊を竜人へと向かって投げつけた。ソレは徐々に大きさをまし、落下してきた竜人を包みこむ。地面へおちることなく、わずかに浮いた状態で竜人の命が守られた。
「フェルマンさんナイス!」
「それより、誰か回復できるやつがいる。光か水精霊と交感できるものを探してくる。ヒサオは彼を頼むぞ」
「わかりました!」
飛んできた竜人を助けるため2手にわかれる。
飛んできた方向はアグロの街。
竜人たちは、あそこに住んでいる。
……どう考えても嫌な予想しか浮かばなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
大部屋に運ばれた竜人が意識を取り戻したのは、2時間後だった。
光の精霊を扱える人がいて本当にたすかった。傷なんかもスーっと消えていって、これ魔法より凄いんじゃないだろうか? どうしてこんなに素晴らしい術が伝わって無かったんだ?
「大丈夫ですか? 傷は治してもらいましたが、体力までは回復できないようです」
話かけると、その人は俺をみるなり、
「君はいつかの――ここにいたのか」
「俺を知っているんですか?」
と尋ねた俺の肩にイルマがポンと手をおいてきた。
「おまえ、竜人の顔の区別つかねぇんだろ。そいつ、会談のときいた護衛のひとりだぞ」
「え?」
痛いところをつかれた。そうなのか……ほんとイルマの言うとおりで、区別がつかない。
「そんなことより、カリス老を助けてくれ! アグロが危険なんだ!」
「……すぐ向かいます。あなたは休んでいてください」
必要なことは聞けたと判断し、動きだした。
「お、おい!」
「イルマ、至急兵を集めてくれ。フェルマンさん、ダークエルフ達の指揮をお願いします。俺は馬車を用意してきますので」
大部屋から出ていく俺に声がかかるが、待ってはいられない。
嫌な予感が的中したとかしか考えられない。
もっと聞いてからのほうがいいのかもしれないが、そんな暇はない。
アグロの街は託宣封印がすんでいる。
魔族の中でも上位の戦力が滞在している。
街一つを壊滅できるというカリスさんもいる。
なのに、こんな場所に助力を求めて飛んでくる理由なんて一つしかないだろう。
……間にあえよ!




