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第82話 種族適正

 この世界には魔法がある。


 今更何を? と思うかもしれないが、今まで俺が見た魔法というのは、ミリアが使うやつのみ。

 俺がこの世界にきてから、だいたい5ヶ月ぐらいたっているのにというのにだ。

 あ、いや魔王のインベントリも魔法なのか? ……まぁ、それはいい。


 なにが言いたいのかというと、魔法を使える人って思っていたより少ないんじゃないか? ということ。


「いるにはいるが……そもそも我ら亜人が魔法を覚えだしたのは、人間達より後なのだ」


「え?」


 疑問を投げかけたら、フェルマンさんが教えてくれたんだけど、意外な返事が返ってきた。


「亜人のほうが後? え、だってエルフは魔力感知にすぐれていたんですよね?」


「ああ。もちろんだ」


「なら、魔法関連の発展が早いはずでは?」


「……ヒサオには、《精魔戦争》のことを話していなかったな」


「? すいません詳しく教えてください」


 フェルマンさんの様子が変わったのを見て、腰をおちつけて聞くことにした。


 かなり昔の話だ。

 記録によれば千年以上前のことらしい。

 そのころの時代、人間は魔法を発展させ、亜人は精霊との交感を深めた。

 魔法のほうは劣化傾向にあるらしいが、いまなお使われている。

 一方精霊については、文献や精霊憑依という形で残っている。


 そうした時代に両勢力がぶつかりあい戦争が勃発。

 亜人たちは次第に押され、精霊と交感する術も次第に失いつつあった。

 ここで疑問になるのが、当時の魔族の状態と、いまなお精霊憑依をつかっている獣人たちのことだ。


 まず魔族だが、驚くべきことに純魔族や起源の魔族と呼ばれる存在は、この時代にいなかったらしい。


「いなかった?」


「あくまで文献の中ではな。本当に存在していなかったわけではないだろう」


「なるほど」


「魔族という言葉がでてきたのは精魔戦争末期のころだ」


 話しは続く。

 亜人と人間の戦争は長く続き、その勢力が人間側に大きく傾いた時があった。

 だが、時を等しくし、亜人たちを助けにまわった存在がいた。

 それが今でいう起源の魔族や純魔族といった人々らしい。

 結果的に魔族によって亜人たちが助けられた形となる。


 一方獣人たちはというと、実はこのころ亜人たちの側に属していたらしい。


「そんなの初耳です!」


「あまり知られていないことだしな。それに今となってはどうでもいいことだ」


「そうなんだろうか?」


「逆にきくが、昔は仲間の種族だったと部下に話をしたら、戦うときどうなると思う?」


「……わりと迷いますね」


「その迷いは戦うとき邪魔にしかならないと思わないか?」


 何も言い返せなかった。そうなるイメージがわいてしまったから。


 話しが戻るが、亜人たちに属していた獣人たちは、魔族がでてきた時を境に、亜人たちから離反したらしい。


 なぜ?ときいてみたが、その理由については今の獣人達も知らない。

 魔族がでてきて状況がかわったのは、獣人たちの離反だけではない。

 魔族が亜人たちに、魔法を教え始めたのだ。


 元々、エルフやダークエルフたちは魔法の素質が高く、メキメキと練度をあげていく。

 一方、ドワーフや竜人、それにゴブリンやオーガといった種族はあまり素質がなく、自分たちが持てる技能に魔力を加算する形で発展していった。


「なるほど。だから魔法を扱える亜人がすくないんですね」


 今の話だと、扱える亜人はダークエルフとエルフのみになる。

 そしてエルフは離反し現在中立の立場。純魔族はいまだに姿をみることが少ないな。


「……それって、かなり不利では?」


「魔王様直属の配下もいるし、竜王様もいる」


「ああ、カリスさんか。あの人ってどのくらいすごいんです?」


「そうだな……話によれば、街一つぐらい壊滅させることができるらしい」


「……」


 なんだ怪獣じゃないか。ハハハ。

 って笑ってる場合じゃないな。


 そうか魔法が不得意な種族が多いのか。

 種族固有の特技みたいので戦っていた人たちだしな~

 うーん……まてよ?


「その精霊使いって言えばいいですか? 結局衰退したんですよね?」


「そうだが?」


「衰退した理由って、人間たちに負け続けたからなんです?」


「おそらく?」


「……でも、元々は精霊を扱っていたんですよね? それって魔法より精霊を扱うことに適していたからじゃないですか?」


「……そうかもしれないが、俺も分からないな」


「でしたら試してみませんか? 精霊の力ってやつを」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 何かおかしいとおもっていたんだよ。

 ファンタジーの世界でいうところのエルフやダークエルフって、精霊とか妖精みたいな扱いじゃん。なのにフェルマンさんたちではなく、獣人たちが精霊憑依という手段をつかって戦っている。


 これって変じゃない?

 そういうものだという認識で今までいたけど、話をきいたら精霊術みたいのでてきたしさ。

 じゃあ、昔は扱えていたわけじゃないの? それなんでやめちゃったの? ってなるのよ。

 そういうことで、精霊について詳しそうな、イルマさんに話を聞くことにしました。


「全部吐け」


「オイ……」


 俺の寝床なのか仕事部屋なのかよくわからない汚い家にイルマを呼び出して聞いてみた。丁寧かつしっかりと。


「人を呼び出しておいて、それか!」


「いいじゃないか村の防衛戦力拡大になるかもしれないんだし」


「こっちは忙しいっての!」


「俺なんか気が狂いそうだわ!」


 実際、この一ヶ月おかしいぐらい働いている。


 村の空気、アグニスさんの店メニュー、迅速な避難あるいは移動手段の確保、そして今度は防衛戦力についてだ。


 これ一ヶ月でやってんだぜ? 

 誰か褒めてくれてもよくない? 

 外交大使っていう名目できて、イルマの助けに回ってくれとか言われたけど、それ以上のことやってるよね? 

 本気で気が狂いそうなんですけど? 書類しごと? たぶんゼグトさんがなんとかしてくれるんじゃないでしょうか。そこらに大事そうなの散らばっているけども!


「……精霊について言えっていわれてもな~ 俺が知っているのは精霊との接触方法だけだぜ?」


「精霊憑依のためか?」


「ああ。まずは精霊と契約しなきゃならねぇからな。そしたら自分の魔力を代償に精霊を憑依させて戦うだけよ」


「それって俺でもつかえるの?」


「むりじゃね? 人間はできねぇらしいし」


「……あ、そ」


 魔法もだめ、精霊も駄目ってか……いい加減にしないと泣くぞ。


「イルマは精魔戦争ってのしっているのか?」


「ん? んー 昔、テラーの親父さんにちょっと聞いたかな? でもそのくらいだ」


「テラーの家系ってなんか特殊なんだっけ?」


「いっそテラーに聞いたほうがいいんじゃね? あいつのほうが詳しいぞ」


「……いや、ほら例の件でちょっと」


「まーだ、仲たがいしてんのか。エイブンの野郎が何度かきたんだろ?」


「きたけど、テラーがこない。それに馬野郎も謝罪できているわけじゃない」


「は? あいつなにしにきてんだ?」


「さぁ? テラーと会ってやってほしいとか言っていたけど、俺の方から行く必要ないだろ? ……そういやあいつに変な噂たてられていたな。書類仕事まわしてやる」


「噂? なんだそりゃ?」


「なんか、俺がお前を力づくで言うこと聞かせているみたいな?」


「……わかった、ちょっと殴ってくる」


「まてまて、それより精霊のことをだな」


「だから、テラーに聞けって。んじゃ」


「あ、おい!」


 いう事を聞かずでていきやがった。

 誰が力づくでいう事きかせているって?


 ……仕方がない、ついていくか。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 後をおいかけると、村端のあたりで喧嘩が始まっていた。


「てめぇ、俺がヒサオの子分のようなこといってんじゃねぇ!」


「間違ってはいない! 俺は聞いたぞ。魔族との同盟も、あの人間に手助けしてもらったそうではないか! なにが獣王だ!」


 殴り合ってる……

 いい大人が口論しながら殴り合ってる。

 こんな真昼間に、みんな土木作業しているのに……

 どうしよこれ? 帰っていいよね?


「2人とも、いい加減にしなさい!」


「テラー様! しかしですな」


「ハッ! おめぇの出番じゃねぇんだよ!」


「おめぇだと! イルマ、貴様何様のつもりだ!」


「ああ、うっせぇえええええ! てめぇはどんだけだよ!」


「あなた達!」


 あちゃ――今度はテラーもきたか。あんまり会いたくないんだよな。やっぱり帰るか。

 クルっと振り向いて家にかえろうとしたら、現場仕事をしていた皆さま方が俺を見つめていらっしゃる。


「な、なんでしょう?」


 とぼけてみせたが、チョイチョイっとイルマたちを指刺していて……どうにかしろと?


「無理です」


 正直にいったのに、ガッツポーズされた。どういうこと?


「大将ならいける!」

「ボス、期待してまっせ!」

「あの3人を止めれるのは、あんたしかいない!」

「守護神きた! これでかった!」


 誰だ今の! フラグたてるな!


「いやいや、無理ですかー」


 ドスン!


「いてっ! だれよ!」


 いきなり背中にぶつかってきたのを見て振り向くと、テラーだった。

 野良着姿のまま2人の間にはいっていったらしく振り払われたらしい。 あれ? 剣はどうした? ……仕事に邪魔だからおいてきたのか?


「すいません、ヒサオ」


「……ああ」


「その、止めるのを手伝ってもらえませんか?」


 はぁ? こいつ言うべきことまちがってないか?


「俺に頼むの? お前が?」


「……すいません」


 うが―――!

 そんなにしょげられたら俺が悪者みたいじゃないか。


 イラっとした。

 こいつに2,3発殴られたうえに、会談まで邪魔されてんだぞ。なんでこんな悪者みたいな立場にたたされなければならないんだ。


「おまえ、あの馬野郎のほう取り押さえろ」


「え?」


「いいからさっさとしろ」


「は、はい」


 もう、サクッと終わらせる。

 殴り合っているエイブンの頭にテラーがかぶりつく。

 お~お~デレっとしやがって、デカい胸がすきか! 俺も好きだ。違う、今はそうじゃない。


「おい、イルマ! お前が持っている精霊の情報がほしい、取引だ」


 ピカ―と黄色く光るイルマの体。ひさしぶりに交渉術を発動! こんな事に使うとは思っていなかったよ……


「いいだろう。何をよこす?」


 しっかりとスキルが発動したか。エイブンは邪魔する気なさそうだな。デレデレだ。


「ヒサオ。まさか、こんなことに?」


「俺が力づくでできるのは、このくらいだからな」


「しかしこれは……」


「いいから黙って離れてくれ」


 俺が言うと、エイブンと一緒にイルマから離れた。それを見計らい、


「やっぱりいらない、取引中止ね」


 あっさりと解除。

 すでに実験ずみだけど、この場合はなんのペナルティーもない。

 誰かを拘束するときには役立ちそうだ。あくまで邪魔がはいらなければだけど。


「……カハっ! て、てめぇ、またそのスキル使いやがって! 頭痛がひでぇんだぞ」


「落ち着いたか? 迷惑すぎるんだよ。ここのトップはお前だろう」


 俺が呆れた口調でいうと、周囲をキョロキョロとして、顔色を変えた。


「……わりぃ」


 どうやら冷静になったらしいな。その場にしゃがみこみ、ため息ついてやがる。


「そう思うなら、早く精霊の話をきかせてくれないか?」


「チッ。わかったよ。だけど俺よりテラーのほうが詳しいのは本当だぜ」


 目をテラーへと向けると、何かいいたけだ。


「なんだよ……」


「ヒサオは精霊のことが知りたいのか?」


「……ああ」


「なら、私が!」


 自分を指さし、俺へと迫ってくるが、


「なぁ。お前いう事間違っていないか?」


 突き放すような冷たい目を向ける。


「え?」


「分からないか……じゃあ、いい。イルマいくぞ。話を頼む」


「あ、あぁ…」


 俺は嫌な空気つくったまま、その場を立ち去った。


 くそ! こんなの俺だって嫌なんだよ!


 でも許すわけにはいかない。

 あいつは、俺だけじゃない。

 ミリアとオッサンの信頼も裏切ったんだからな。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ハァ……

 イルマから一通りの話はきいてみたが、俺にはさっぱりだった。

 なので、明日からダークエルフの人たちの鍛錬にくみこんでくれないか? とだけ頼んでおいた。


 まずは精霊を感じ、それを知覚しないと始まらないらしい。

 まあ、それはどういう結果になるかわからないけど、何かしらの進展はあると思う。


 そっちはいいんだけど、問題はテラーだ。

 あんなみんなが見ている場所で、テラーを拒絶してしまった。

 俺の今の立場って、結構上になっているようだし、あんな場面をみせちゃいけなかったはずだ。

 なのに………ハァ……

 こういう時は、これだな……よっと、


 トゥルルウ――――トゥルルウ――――ガチャ


『はいはい、ヒサ君! ヒサ君だね!』


「相変わらず、テンション高いな」


 出たのは恵子。

 コタでもよかったんだけど、あいつの場合、なんていうか聞き上手じゃないんだよな。解決しようとするんだよ。それはそれでいいんだけど、今は愚痴聞いてほしい気分。 


『そう? こっち学校はじまっちゃって、わりと元気ないよ?』


「それでか?」


 声からは十分元気が伝わってきてるんだが。


『へへへ。そりゃあね、ヒサ君から電話きたからね、そっちのこと一杯きけるかな~っておもっちゃうとね~♪』


「それか!」


 こいつ俺に何を期待している。


「っていっても、こっちは今、村づくりしていて大変だぞ」


『村! 開拓! もしかしてヒサ君の村? 領主きた!?』


「……一足飛びにそこまでいく想像力がすごいよ」


『違うの? ちょっとつまんない』


「俺はネタか」


『うん。私とコタ君の共通ネタとして今日も活躍してくれたよ。ありがとう』


「お―――――い!」


 こ、こいつら、俺をネタにして仲良くなってやがる。なんて友達甲斐のない!


『ところで急に私に電話ってどうしたの? 珍しくない?』


「ああ、いや。ちょっと愚痴きいてほしくてね」


『へー そういうこというの初めてじゃない? いいよ、きいてあげる。ただし、あと4分だけね!』


「しってるよ!」


 まったくこいつは……まあ、助かるけどな。

 ここ一ヶ月の苦労を全部さらけて、そのあとテラーの愚痴もいったら、


『別に悩む必要なくない?』


「なんでだよ!」


『そのテラーって人が謝ってきたら許すの? エルちゃんたちがいなくてもさ』


「エルって……ミリアか?」


『うわ、呼び捨て! そういう仲?』


「違うって! だいたいもう4ヶ月ぐらいあってないぞ」


『寂しいの? ねぇねぇ~』


「うるさい。きるぞ」


『あーもう! なんでそう短気なのよ。こういうの苦手なの相変わらずなんだから』


「おれは純粋なの。初心なの。お前のように腐ってないの!」


『ひどくない!』


「んじゃあな!」


 話しするだけ無駄だったなと、切ろうとしたら、ギャーギャーわめかれた。


『さっきの質問の答えきいてな~い』


「さっきの? ああ、謝って来たらてやつか……いや、たぶんミリア達と一緒じゃないとだめだろうな」


『じゃあ、別に今すぐ仲良くなる必用ないよね?』


「まぁ、そうだけど……」


『じゃあ、彼女のこと見ているといいんじゃない?』


「? 意味わかんね」


『んー その人って裏切ったんでしょ? それって言葉で信用を取り戻せるものなの?』


「そうだけど、言葉ぐらいほしいぞ」


『私はその人のこと知らないし、ヒサ君の状況も知らないけど』


 恵子が一呼吸そこでおいて、


『信用は行動でしか得られないってのは知っているつもりだよ』


 ちょっと決めてみました! みたいに丁寧な口調で言いやがって…


「……おまえ、いまドヤ顔してるだろ?」


『どうしてわかったの!?』


 わからいでか。


「まあ、その通りか」


『あとね、ダークエルフや獣人さんたちと比べれば、ヒサ君の悩みなんて小さいものだとおもうよ』


「なんでだよ!」


『だって、その人たちは家族や友人が殺されているんでしょ? 裏切りなんて小さくない?』


 あ……そういう人たちに仲良くしろって言っちゃてるんだよな……


「……ドヤ顔する権利をやろう」


『やったね!』


 くそ! まけたよ! なにが負けのか知らないけどな!


 まぁ、許す気はないけど、しばらくはみていてやるか。

 とりあえず今晩は熟睡できそうだ。

恵子:( ̄∇ ̄)v ドヤッ!

ヒサオ:クッ!

恵子:☆⌒(*^∇゜)V ドヤッ!

ヒサオ:が、我慢だ。

恵子:(´◉◞౪◟◉)V ドヤッ!

ヒサオ:うがぁあ――――! メールでドヤ顔ばっかおくってくるな!

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