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第8話 王都の動き

 エルフが住む森は活力があるらしい。

 その活力と言うのは良く分からないけど、俺達って完全に侵入者だよね?

 そして、ここってエルフが居るかもしれない森ですよ。なのにさ、


(入ってきて良かったのか?)


 森に入ってから聞きたくもない情報をペラペラと話すミリアがいて、それに同意するテラーさんがいるんだが、よくよく考えてみれば、これは早まったんじゃないだろうか?


 森に入ってしばらくすると、ミリアとテラーさんがキョロキョロと周囲に目を向け始めた。何か探しものでもするかのように辺りを見渡していて、この二人転ぶんじゃないだろうか? と内心不安を覚えていると、前を歩く2人が話し始めた。


「いるわね。たぶんだけど」


「そう思いますが、少し変じゃありませんか?」


「うん。罠にかかっている獲物がいるのに、回収されてないのが幾つかあるわ」


 二人が見ていたのはそういった類のものらしい。俺の目にも罠の表示と、かかっている獲物の状態が表示されている。


「それって前はいたけど、今は事情があっていない。という事にならないか?」


 俺の声に二人は反応しなかった。まだ判断が出来ていないのだろう。


 俺が知る森というのは、小学校の遠足でいったことのある山ぐらいのものだ。

 それだって森というより林地帯だったし、ここのように、日がすぐに消えてしまうような状態ではない。夕方になれば、太陽の光がほとんど隠れるため下手に歩くよりは休んだ方が良いと思える。


 そんな想いが通じたのか、それとも俺という荷物の事を考えてなのか、早めに野宿準備を始めた。


「ジグルドはどうしているかしら?」


 夕飯を終え、焚き火を囲んでいると、ミリアがボソリとそんな事を言い出した。


「ジグルドなら大丈夫でしょう。ドワーフの生命力は凄いですから」


 そう言うものなのかとテラーさんの声に耳をかたむけながら、薪をポイっと投げた。


 オッサンか。

 いまだに名前で呼んでいないな。

 なんかもうオッサンっていうのが定着しちゃって名前で呼ぶのに抵抗ある。

 この二人はそういうのが無い様だけど……まあ、向こうも俺の事を小僧って言っているし、お互いさまってことでいいか。


「明日一日うろついて集落らしいのが見つからなかったら、森から出て合流する?」


「そうですね。ジグルドの事は心配が要らないと思いますが、この森の様子を見るに時間の無駄となる可能性がありそうですし」


「昼に言っていた罠の件?」


 俺が尋ねると二人がコクリと肯いてみせた。


「そんなに罠にかかった獲物の回収って早く済ませるのか?」


「ヒサオの世界じゃわからないけど、私の村のエルフ達は、半日以内には必ず獲物を回収していたわ。それだって稀。中には、かかってから1時間が勝負だって言う人もいたしね」


 多少自慢気に言うが、俺にはそれが凄い事なのかどうか分からない。狩人でもないし、そういった知人がいたわけでもないからな。


「この際だからお聞きしたいのですが、ヒサオの世界はどういった所なのですが? 私達とは大きく異なる世界のように思えるのですが?」


 テラーさんの疑問にミリアものってきて、俺の方を見る。


「まあ、確かにそうかもしれない。俺がいた世界じゃ、獣人とかエルフって物語の世界の住人で、現実にはいなかったんだよ」


「それは他の種族がいなかったと? 人間だけが住まう世界なのですが?」


「他種族というか、同じ人間だけど肌の色や言葉が違っていたりってのはあるよ。あと他の動物達とか、この世界のモンスターに比べたら危険性は薄いけどね」


「へー。でもそのわりには、私達に対してあんまり驚かないわよね? 最初私を見たときなんて設定がどうとかいってたし」


「そういえば言ったな。物語の中にはミリアのようなエルフも出てくるし、それを真似する人達もいるから、てっきりソレかと思ったんだよ」


 コスプレとかいっても理解しづらいだろうし、具体的な事は省略し話すと、ミリアもテラーさんも奇妙な表情をしてしまう。


「ヒサオの世界って、ほんと妙ね。何故私達のような存在を物語の中に登場させる事が出来たの? エルフや獣人っていないんでしょ? いないのに想像でいる事にして登場させていたってことよね? 私達とは特徴がまったく違う姿なの?」


「……いや」


 言われてみればと、ミリアの顔を見た。

 森の妖精と言われたエルフ。

 その特徴は長耳と比較的華奢な体形。そして、男女問わず綺麗とのこと。


(あとは、弓や魔法が得意だったり? そのまんまだな)


 はて? 自分が読んだ本等に出てくるエルフと、こちらの世界に来てから見聞きするエルフは特徴として一致している。なおかつ種族としての名前がエルフ。


(なんだこれ? おかしくないか?)


 何かがおかしい。合致することに対して違和感を覚えてしまう。


「ジグルドはどうだったのでしょ? ドワーフについても同じなのですか?」


「そうだった。オッサンの種族も合致する。考えてみればおかしいよな」


「うーん。もうちょっとヒサオの世界のこと詳しく聞かせてくれない? どうも私が知っている『異世界』とは違う気がしてきた」


 ミリアも……いや、この場にいる三人共が、ソレが異様なことだと認識した。

 俺は言われるままに、自分がいた世界について話だす。

 話の最中に様々の質問をされ、それに答えると、またさらに質問を投げかけられた。

 主に2人が気に欠けたのは戦争であり、その話の最中に出てくる兵器について教えると、


「その『じゅうかき』とかいうのを持つと、誰でも高位の魔法使い並みになるの? とんでもない武器ね」


「他国を直接攻撃できる『ちょうきょりだんどうみさいる』とかいうのは反則では? そんな物がある世界が平和を維持できているのですか?」


 それぞれが、俺の世界を異常と判断するのに十分な材料になったらしい。


「武器の威力はあるけど、使いこなすのに訓練がいるし、俺のような一般人はその訓練をしないよ。あと、平和なのは一部の国だけで戦争を繰り返している国もある」


 間違っていないよな? と考えつつ話してみた。


「ヒサオ。あなたはそういう武器作りは出来ないのですか? あるいは、知識を持っていないのですか?」


「え? ないよ。そもそも扱ったことないし」


「そう……ですか。少々残念です」


 言葉どおり気落ちしたような目を向けられるが、テラーさんにしては珍しい様子だった。もしかして、使ってみたかったのかな?


 その後も話を続けたが『おかしい』とか『異常!』とか言われて……なんだか複雑な気持ちになった。そんな事をしているうちに夜になり、交代で見張りをしながらテント内部で寝ることとなった。


「じゃ、先に寝るから。あとよろしく」


「私が深夜に起きるので、ミリアさんお先に当番していいですよ」


「ありがとう。途中で起きて、また寝るのって嫌なのよね。助かるわ」


 と、まあすぐに順番は決まった。

 たいがい同じ順番で過ごしてきたからアッサリだ。

 俺の時はオッサンも一緒に起きているというのが今までのパターン。

 何しろ俺は弱いからな! オッサンも戦闘職ではないから、俺とオッサンが組むのはバランス的にあっているのだ。


 つまり何が言いたいのかというと、女2人が単独で見張りをしたとしても、俺が悪いわけではないということをだな……ブツブツ。

 でもって大問題が発生している。


 普段、最初にテントの中で寝るのは、俺とオッサンかテラーさんなんだが、今はオッサンがいない。

 そしてテラーさんというのは、これまた無防備な姿で寝るのだ。

 具体的にいうと、普段着ている皮鎧はもちろん脱ぐ。

 そして、その下につけていたアンダーシャツも着替えて薄手の白いものに変える。

 とはいえ、俺が知る女性用下着とは違い、多少厚く手軽に作れるようなものだが、これがまた男心にグッとくるのだ。


 そして俺は若い。


 そんな俺と背中合わせのような状態で、シーツ1枚にくるまって、スピーと寝息を立てて寝るテラーさん。

 スタイルは文句なし。服装は誘っているような姿。撫でてといわんばかりのフサフサな尻尾。

 本人は狼系の獣人と言い張るが、俺から見れば立派な犬だ。

 もし俺がケモナーで、外でミリアが見張りをしていなければ、迷うことなく襲っているだろう! 

 ただし、襲った後どうなるかは、言わなくても分かるだろうけどな。


(青少年への拷問だよな……)


 この状況はきつすぎる。色々な意味できつい。

 オッサンがいてくれれば、完全に諦めきれるのだが、そのオッサンがいないのだ。

 いや、安全弁という意味では、ミリアという存在も立派なものであるが、何を言いたいのかといえば、俺は年頃であり、いつでも獣になれますよ! という……もう自分で何を言っているのか分からなくなってきたので寝るとしよう。


 考えれば考えるほどドツボにはまりそうだ。

 隣で寝ているのは、実は男だという設定にして寝る事にした。テラーさん、御免なさい。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 少年が歳相応の悩みを抱えたまま寝ることに必死な頃、王都アルツの城において会議が開かれていた。


「ガークの村からの連絡と『監視者』からの話が一致しました。これをもって、異世界人が出現したことを決定づけられます」


 どこか楽し気な声音で話すのは『ラーグス=アグバ』という文官長。

 容姿は青い短髪の美青年。

 背は高めであり朱色のマントを背負う。

 そのマントには王国の紋章たる一頭の馬の姿が描かれていた。


「皆さま方がご存知のとおり、ガーク海岸には異世界人が出現する事があります。その異世界人に関する事に託宣が働かないのは周知の事実。この異世界人を速やかに捕獲し、それ相応の対処を行うのがベストだったのですが睡眠薬のことが知られ、村長宅から多数の物を奪い逃げ出した。と、まあ、ここまでが先だっての会議内容という事でよろしいでしょうか?」


 ラーグスが一度口を止、咳を一つつき座っている人々を見直す。


 まずは正面に座るのは、この国イガリアの第一王子である『ジェイド=ロックウェル』。

 彼を一言でいえば頑強な男という言葉が出てくる。


 王子という言葉を侮辱している程にジェイドの体は大きく、それでいて鍛えられた戦士のように成長しきっていた。

 それもそのはずで、下された託宣による日常が終われば、城勤めの兵士たちと一緒に訓練をしているのだ。王子がそうした行動を起こすものだから、城勤めの兵士達の中には託宣外の訓練をする人達がいる。ごく少数ではあるが。

 そうした性格が出ているのか、茶の短髪がまとまりを見せていない。

 鋭く相手を射抜くような茶の混じった瞳は、相手に敵か味方かと2択を迫るよう。


 一方、進行役とされるラーグスは、文官勤めということもあり対象的に痩せていた。それでも一般レベルではあるのだが、この2人が並び立つとその違いが一目で分かる。


 そんなジェイドを警戒した目で見ているが、王子であるジェイドはまったく動じていない。

 まず何か言ってくるとしたら、ジェイドではないだろうか? とラーグスは予想していたが、それが見事に外れてしまった形となる。


 託宣に狂いが生じるのは誰でも不快であり、この会議ですら本来の予定にはないもの。

 それは関わった人間全てに不快をもたらすものであり、王子ともなればさらに不快感がますだろう。という予想からだったのだが、どうもこの王子は違ったようである。


「では続けます」


 確認という意味で待ってみたが、集まった面々からは何も声が上がらなかった。

 王子であるジェイドが黙っているのだから、他のメンツも口を開かずにいるのだろうか?

 順当的にいえば大将軍『エラク=ガトウ』が何かしら言うものだと思っていたのだが、そのエラクですら口を閉ざしている。

 気になったラーグスは、話を中断し、


「エラクさん。武官としての立場として言えば、ここまでの事で何かありませんか?」


 尋ねてみると、白髭を触りながら考えこんでいた男が目を開いた。


 大将軍という地位を彼に与えたのは、王族でも当人の頑張りでもない。

 単純に彼が託宣によって選ばれたからだ。

 エラクが現在の地位についたのは46の頃。

 大将軍というのは一般人がなれる軍事面における最高位と言ってもいいだろう。

 その上となると宰相というのがでてくるが、こちらにいたっては過去40年ほど空位のままであるため、エラクの権力は王族に準ずるものとされている。


 そうした地位につき早20年。

 すでに髪は白く、目からは鋭さが消え鈍くなっている。日々の訓練を絶やしたことはないが、歳には勝てないようで、体の節々が痛みを訴えていた。ここ最近では痛みという感覚を無かったものとして武器をふるっているらしい。


「ワシら武官は言われたまま動くだけよ。その為の訓練を欠かさないのが仕事と言ってもよかろう。となれば、決め事は文官と王族だけで話し合えば良いと思う」


 横にいる軍人よりも軍人らしい王子をチラリと見る。

 その口元にはわずかな笑みが見え隠れし、その意味をラーグスは知っていた。


(この人も変わらないな~。託宣が下らないと何も決めないくせに、王子のことは小馬鹿にしているんだから、どうしようもないね――おっと)


 ギュっと口元を引き締めた。

 自分もまたエラクを小馬鹿にしている事がバレないようにする為である。

 

 ラーグスが思った託宣がないと何も決めようとしない人間。

 それは多くの人間にあてはまるが、これには理由がある。


 託宣による内容を行わなかった場合、当人だけに影響がでるわけではない。下手をすれば国家規模での惨事にすらなりかねない。

 実際そうなった事例があったらしく、誰しもが託宣に従い行動している。

 それが当然の事になっている現在、何かを決めるという思考が失われつつあった。


 それを知った上で、エラクはジェイドに対して嫌味な笑みを感じさせる目を向けた。

 それはつまり、ジェイドを主として認識していないということなのだろう。

 目を向けられたジェイドはといえば、自らの茶髪に手をのせ、ポリポリとかいた。


「まあ、決め事と言うか、決まりごとと言うか、すでに『監視者』は動いているのだろ? なら、前例にある通りで良くないのか?」


 王子が面倒そうに目を細め言うと、ラーグスが、


「王子、それについて話をする為の情報確認をしたかったのです。まあいいでしょう。いま、王子が仰ったように、すでに『監視者』からの連絡で、彼等が大森林に向かうという事とメンバー情報を得ています。そして中にはドワーフの存在が確認されています」


 本来ならもう少し後にと思っていた情報を流すと、室内に集まった人々が騒ぎだした。


「なんだと! それは一大事ではないか!」

「すぐに軍の手配を! 託宣はどうなっている!」

「忘れたのか? 異世界人が関わることに託宣はない」

「では、どこの部隊を?」

「それならば、我が家の者達をまわしましょう」

「貴様! 私兵をつかって何をする気だ!」

「魂胆が見えすぎるわ! 国軍を使うべきだ!」

「かといって、どこの部隊を使うべきかという問題が……」

「ならばここは、中立な私のところの者を」

「中立ってなんだ! 派閥争いなぞしている場合か!」


 といった言葉が一斉に飛び交い、それを予想していたラーグスは苦笑を浮かべていた。


 ジェイドといえばラーグスからの情報を聞いた瞬間、口笛をひとつ鳴らした後、騒ぎがはじめた家臣たちを見て「こいつらはまったく」と愚痴をこぼしている。


 エラクは、聞きたくなかった情報だといわんばかりに眉を歪め、大きな溜息を一度ついたあとに、さてどこの部隊を動かせば波風が小さくなるだろうなと考え始めた。


(ほんと調子のいい連中だ。異世界人が関係しているから託宣に関係なくドワーフを好きにできる。金になりそうだからといって一斉に声をだすんだから)


 ラーグスは、そうした内心を表にだすのを堪えた。


「それでラーグス殿。その情報を公開したという事は、何をするべきかもすでに考えてあると思っていいのでしょうか? それとも、この場にいる我々のみで考えようとでも?」


 エラクがいまだに騒ぐ者達に、牽制するかのような視線を向けながら尋ねると、


「どうするべきかの方針は王子の言った通り、前例に従うのが良いと考えています。でも、今回はそれだけではないんですよ」


 ラーグスの返事に室内が一瞬静まり返る。

 まだ何かあるのか?

 と、潜めた声がするが、その声も次の瞬間に止まり、空気が止まったかのような錯覚さえ覚えた。


 ラーグスが続けていった言葉。

 いや、情報によってその空気が爆発したかのように室内で騒動が巻き起こった。

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