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第79話 まずはここから

 話しがきまったので、早く行動を起こす必要があった。


 ミリアやオッサンと合流の約束まであと3ヶ月もない。

 母さんの手記ももらったし、一人だけ先にアグロの街に戻ることも考えていたのに、まさかの就職できちゃった件とか2人が聞いたら驚くだろうな。

 しかも外交大使とかなんだよそれ。

 15歳の俺がついていい仕事なのか? バァちゃんが聞いたら腰ぬかすぞ。

 まあ、やることは微妙に違う気がするが気にしないでいこう。俺に任せた魔王が悪い。


 まずは宿にある荷物をポイポイと保管術であいた空間にいれていく。

 全部綺麗に入ってちょっとびっくり。けっこうな量がはいるなこれ。いつか限度を聞いてみよう。

 アグニスさん達のほうも準備が整ったらしく、俺たちは3人そろってセグルへと転移した。


 この村には前から何度か来ている。というか、来てしまっている。

 理由は転移魔法陣の起動。イルマやフェルマンさんを転移させるためにやっていたら、俺もきちゃったというパターン。この村は好きだからいいんだけどさ。


 セグルという村を一言でいえば、大きな農村だ。

 前に聞いていた味噌を生産していた村。

 少し覗いたら、こんなものがでてきた。


 まず大豆。

 名前は違っていて、緑化豆だってさ。でもこれ大豆と一緒だと思う。


 あと小麦。

 これやっぱりあったのね。だってパンがあるんだから予想はできていた。ちなみに名前はそのまま。聞いてみたら魔王が発見して広めたらしい。


 どうやら、この世界の住人が発見したり作ったりした物については、聞きなれない名前がついている。

 でも、魔王や母さんがつけた名前なんかもあって、そっちは聞きなれたものになっている。


 他にも色々あって、魔王が実験的に生産させているのもいくつかあった。この村は農村ではあるけど、同時に魔王の実験場でもあるわけだ。主に農産物関係だけどね。


 あの魔王ってすごいことしていると思うけど、いったいいくつなんだろ?

 肉体制御っていうスキルがあるから、寿命伸ばしているとおもうんだけど、たしか15代目魔王だっけ? よく人間なのに魔王になれたな……て、まてよ?


「2年A組……」


 ぎゃああああ――――!


 完全に忘れていた!

 なんで思い出さなかったんだろ? 重要事項じゃないか!どう考えてもつながりあるだろ!

 今から戻って聞くか? あなたと2年A組の一族に関して教えてください。って?

 あっさり教えてくれそうだけど、聞いてどうするんだよってきもする。


 だって、魔王が日本人なのわかっているし、もし2年A組とつながりあるなら、魔王だって託宣について尋ねたはず。それでも今の状況だということは、打つ手が封印する以外ないってことだ。

 隠し事がある可能性もあるけど、というか高い確率でありそうだけど、興味本位で踏みこんだ結果どうなるのか……もう少し、親しくなってからのほうがいい気がする。


 ハァ――これコタにいったら、また馬鹿にされるな。腰抜けとか言われそう。


「ヒサオさんどうしました?」


「あ、いや。ちょっと自己嫌悪に…」


 アグニスさんに心配されてしまった。

 村の中をテクテク歩いていながら考えごとしていたら、表情に色々でていたらしい。


 よし。あれだ。

 とりあえず、色々すまそう。

 イルマの村にいって準備して、ラーグス対策を講じて、オッサン達とも合流したら、そのあと聞きにいこう。今からもどって聞いたら「教えてあげてもいいけど、仕事ふやすよ?」とかいいそうだ。しかも教えてもらった内容がどうでもいいことだったりしたら最悪じゃないか!


 ……単純に嫌がらせされそうで戻るのが嫌だともいう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 イルマの作っている村の名前は、ブランギッシュという。

 昔、人間たちに反乱を起こした獣人のリーダーの名前からとったものらしい。

 まだ始まったばかりなので、あちらこちらで伐採の音や、畑仕事の音が聞こえてくる。

 中央に大きな家が3つほどできていて、ここで数十人が一緒にすんでいるとのこと。ただどうやら両種族が一緒に住んでいるらしくて……


「恨みつらみはどうしても消えなぬものだ」


「覚悟はしていたが、これは想像以上にやっかいすぎるぜ」


 村に到着した俺は、さっそくイルマとフェルマンさんに合い、言われてしまった。


 話しの内容は、ダークエルフと獣人たちのギスギスした空気について。

 そりゃそうだよ。

 ずっとこんな調子らしく、イルマとフェルマンさんが何度も間にはいったらしい。でもどうしてもこの空気が消えないらしく、疲労の色が2人からうかがえた。


 そもそもアグロの街で待機していた頃から、こうだったらしい。

 現在はテラーやエイブンたちもこっちにきているが、それと同時にダークエルフさんたちもきている。

 だけど、元々この両種族が仲良くなれるわけもなく、街にいたころからイザコザが絶えなかったらしい。それがそのまま、ブランギッシュで行われているわけだ。


「一緒の家屋にいれないほうがよくないか? タイミングわるすぎるだろ」


「じゃあ、いつならいいんだよ? 時間が忘れさせてくれるとかいうなよ?」


「……」


 そりゃあ、そうだろうなと思う。

 ダークエルフたちにとってみれば、自分たちの村を滅ぼした連中だっているんだ。身内を殺した獣人だっているかもしれない。

 それなのに、一緒に住めなんていう事自体無理がありすぎる。


 イルマとフェルマンさんの間では、それほど問題なかったように見えていたから、あまり気にしなかったんだよな。かといって、ほっといてはいけない問題だ。


 俺はついたその日のうちに、この2人とちゃんと相談しなければと時間をとった。

 場所は外。

 村の広場予定として伐採と整地が済んだ場所。本来子供たちを遊ばせる場所としてつくっていたらしい。3人ともが汚れてもいいようなラフな服装に着替えてあつまったわけだけど、


「ヒサオに言われるまでもなく、すでに何度か対策を講じた」


「俺もフェルマンも頭を悩ませながらやってんだぜ。どうしようもねぇぞ」


「そうだろうけどさ~」


 肝心の2人が諦めムードのようだ。自然に仲良くなるのを待つ方針だったのかもしれないけど、ほっといたら色々支障がでかねない。

 こういうのって教室内でみかけない?

 仲の悪い2つのグループができあがって、その両グループに無関係の人にまで飛び火するケース。


 もしこの村がずっとこんな感じだったら、新しくやってきた人達だって、居辛くてでていくよね。

 それじゃあ、いつまでたっても人口が増えない。それじゃあ、国どころか街にすることだって難しい。

 なんとかしないといけないわけだが……


「フェルマンさん。ゼグトさんは何か言っていました?」


「俺が同盟の話をした時点で、あいつは歯を噛みしめ我慢していた。俺より、部下たちの気持ちになって考えられる奴だからな。何かいい手はないかと聞けるわけもない」


「……すいません」


「謝る必要はない。魔王様の命令なのだし」


 その命令のきっかけは俺のせいなんだよな。今となっては浅はかすぎたなって思う。

 どうしてこんなことを誰も考えなかったんだ? って、あの時は思ったけど、考えても実行できなかったんだな。こうなるのがわかっていたからさ。


 特に何も言い考えが浮かばずにいると、


「ヒサオ。これは俺やフェルマンが抱えるべき問題なんだぜ。おめぇが、気にする必要はないぞ」


「そうだな。ヒサオの役目は別にあるのだし、こちらの問題にまで関わる暇があるのか?」


 なんか線引きされた気分になった……

 かといっていいアイディアが浮かぶこともなく、結局その日は解散になった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



『で、僕なわけ?』


 その晩のうちにコタへと電話。どうやら昼らしく食事時に電話してしまったらしい。


「なんかいい考えないか?」


『急にいわれても、でるわけないよ』


 知ってた。

 でも、相談する相手がほしいんだよ~


『喧嘩とちがって戦争の結果だからね、どうにもならないよ』


「そうなんだよな」


 問題はそこなんだよな。これどっちが悪いって話じゃないんだよ。


 ダークエルフ達にしてみれば、村を襲われた! っていう感覚で被害者の立場でいるんだろう。でも、託宣封印とか言っていても、結局は人間領土にやってきて居座っていただけ。

 敵対種族が自分たちの土地にやってきたわけだから、当然排除にでるのが普通。なのに被害者気分でいる。


 獣人たちにしてもそう。

 彼らにしてみれば、人間たちに命令されやっただけという気分でいるのが多い。

 つまり殺す覚悟はあったけど、恨まれる筋合いはないという感覚の人達がいる。


 全員が本当の意味で覚悟していたわけではない。


 そもそも、今回の話は、獣人達のほうから同盟を申し込んだ形。

 それが意にそぐわない形で成ったと思っている連中が多い。だけどそれを口にすることができずにいるからストレスが溜まって空気を悪くしている。


 という感じで理屈はわかるんだけど、たぶんこれって頭でわかっているだけなんだろうな。


「コタでもだめか~」


『ヒサは、僕を何だと思っているんだよ。こういうのはむしろ、早苗バァちゃんにきいてみたら?』


「え? どうしてだよ」


『だって、戦後生まれじゃないか』


「……そういうことか」


『というわけで、切るね。電話するなら30分はおいてからにして。じゃあ』


「わるいな。んじゃ」


 といって切れた。


 コタがいった30分ってのは、以前にメールでおくってきた件だ。

 こっちとあっちでは10倍の時間が違うのに、なぜか普通に話をできている。制限時間は5分だけど。

 たぶんこの5分の間だけ、時間の速度調整がされているんだと思う。

 でも、電話をきったあと、それぞれの時間に戻ろうとする。この戻ろうとしている時間の間に、再度電話をいれると繋がらないっていう感じのようだ。

 そして30分って……あー バァちゃんに電話するの気が重い…


 トゥッルル…ガチャ


 早くも出た!


『ヒサオ! ヒサオかい!』


「ああ、うん。久しぶり?」


 むこうだとどのくらい日数たったんだ?

 前に電話してから3ヶ月ぐらいたってるな。むこうだと9か10日ほどか? そろそろ夏休みが終わるころか。


『ほんとこの子は電話一つよこさないで』


「ごめん」


『それで今日はどうしたんだい? 電話していられる時間が限られているんだろ?』


 おっ! バァちゃんソコを理解しているとは! コタが何かいってくれたか?


「うん。えっとね、ちょっと戦後の話を聞かせてほしくてさ」


『戦後? 突然どうしたんだい?』


「えっとね……詳しく言うと時間がかかるんで、簡単にいうね」


 一度そう前置きしてから。


「2つの勢力が戦争して和平を結んで、今同じ村で生活をはじめているんだ。でも、互いに今までの確執があって仲良くできていない」


『ふんふん』


「そのままだとマズイとおもうから、なんとか仲良くさせたいんだけど、バァちゃん何かない?」


『……そうだね――バァちゃんの場合は、毎日のご飯をどうやって用意しようかしか考えてなかったよ』


「そうなのか……」


『それに戦後の日本と、ヒサオのいうソレはまた別なんじゃないかい?』


「え? 似ているようなものじゃないの?」


『だってあの頃、日本に来ていたのは戦勝国の人間なんだよ。そっちとは、また別なんじゃないかね?』


「……あ、そういうことか」


 おもえば、こっちの場合、両方が敗戦国みたいなものか。そのうえ、相手のことを戦勝国のように思っている。そりゃあ空気も悪くなって当然だ。


『わかったかい?』


「うん。ごめん。そうだった」


『役にたったかい? バァちゃんが言えることはこのくらいだよ』


「すげぇ役にたったかもしれない。ちょっとは目の前が晴れたよ」


『そうかい? そりゃよかった。それで、いつになったら…』


 この後は、いつ帰ってこれるかどうかの繰り返しだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 少しは分かった感じになったので、どうしたらいいのか考えてみた。

 一晩寝ずに考えたことをイルマとフェルマンさんに話をしてみる。

 おれが考えたのはこういうことだ。


 1.互いに同じ作業を与える。

   寝る場所だけではなく、獣人も亜人も同じ班にして仕事にあたらせる。


 2.軍事訓練をさせる。

   現在は獣人のみがしているが、魔族のほうにもさせる。

   もちろん一緒にだ。


 3.共通の敵として人間が今どんな状態になっているのかを説明する。

   互いを敵として考えているから駄目なのであって、

   本当に危険なのは何なのかを意識させる。



 基本的に考えたのはこの3つ。どれも同じ意識で行動させようとするのが根本にある。

 どっちも互いのことを別の種族という意識があって、それが邪魔をしていて、おまけに相手が悪いと思っている。

 さらに、魔族のほうは、ここを一時的な住まいと認識しているような感じもある。


 それじゃだめだ。


 イルマは獣人の国といったが、それじゃまとまるわけがない。

 ここを獣人と魔族の国にする。

 そう考えるべきだったんだ。


「ということだけど、どう?」


「……理屈はわかるが、今すぐどうとなることでもないぞ?」


 フェルマンさんが難しい顔をしいってくる。隣にいるイルマなんか、どういっていいのやら分からない様子だ。


「つうか、これって同盟なのか? どうも違うきがしてたきたぞ」


 イルマがそういった瞬間、俺はピンときた。


「それだ!」


 そもそもの原因が俺達だった!

 魔王のところで話をしたときは、獣人が国をつくり、そこにフェルマンさん達が託宣封印のために住む。封印がすんだら、次の土地に移動。もちろんそのまま住むことも可能。


 なんて話になっていたから駄目なんだよ。

 ここは、両方の種族による国として出発しなきゃ駄目だったんだ。


「俺達から意識をかえていかなきゃだめだ。じゃなきゃ、住む人たちだって変わらない。ここは俺たちの国だっていう意識を徹底させないか?」


「……だが、俺達がほしいのは獣人の国だぜ?」


「イルマ。お前、初心を忘れてるぞ。欲しいのは獣人だけの国か? それとも子供が笑って暮らせる場所か?」


「!!」


「イルマ――お前のいう俺達(・・)の中に、魔族の子供達はいないのか?」


「……そうだな。まったくだ」


 これはすぐに解決できる問題じゃない。

 だけど、少しずつだけど、解決できる問題なんだよ。

 だからまずは、


「俺達という言葉の意味から変えていこうぜ」

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