第67話 ワカメスープ
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魔都エーラム。
いわずとしれた、魔王様のいる都。
初めて訪れた普通の魔族は、まず観光するらしい。
フェルマンさんも、そうしてきたらいいっては言ってくれた。
でも、俺はしない。なぜなら時間がないからだ。
「さて、色々ためさないとな」
「なにをだよ?」
汚れてもよさそうな綿の白シャツと薄茶のズボンに着替え、魔都の外へとでる。モンスターがいるといっていたが、俺の目的は、まさにそれだ。
「あれと、これと、それを試して、あとは…」
「おい! 何する気だお前」
「色々実験。それとレベルあげする」
「はぁ? レベル?」
分からないって感じだな。そういやレベルっていう概念がないのか。ミリア達も説明するまでわからないようだったし。
「んっとな……まあ、それはいいから、まずモンスターさがそう」
「なにがしたいんだ、お前は」
色々うるさいやつだが、ちゃんとついてくる。
これも護衛取引したからかな?
イルマが敵を倒しても、俺のレベルがあがるかどうか実験開始。
街をでて、すぐに敵が見つかった。ヒュージスライムっていうやつだ。
「ヒュージーっていうだけあってでかいな。どれ」
レベル22 ヒュージースライム
アイテム スライムゼリー
ステータス 成熟したスライム
ス キ ル 耐物、耐水、耐衝
でかいだけ? そりゃ、俺の腰元ぐらいまであるスライムなんて十分でかいと思うが、それだけなの? スキルも防御系だけだし、普通に倒せそう。
「イルマやっちゃって」
「なんだかよくわからねぇが…『火よ! わが身を使え!』」
おっと、みたことないぞ? 拳がもえやがった。
「火属性だよな?」
「おお。まあ、みてなって」
見てろも何も、そのまま拳でガンガン殴って終わった。
「おわったぜ。このゼリーどすんだ?」
殴って分裂したちっちゃなスライム。それをゼリーといわないでほしい。
「いらないから好きにしていいよ」
「んじゃ燃やしとくわ」
おー 蹴って燃やしてる。あれって拳だけじゃないのか。
「調べること2 イルマの能力について。ちょっと追加」
「あ? なんかいったか?」
「いや、なんでもないよ」
こいつの能力も調べておかないと、なにあるかわからないからな。
そして俺のレベルは……かわってないね。そりゃあ、あれだけじゃな。
「イルマ、もう少し適当に何か倒してくれ」
「それはいいが、これは何目的なんだ?」
「俺の強化計画の一環」
「よくわからなぇが、わかった。んじゃ次はっと」
今更思うが、こいつ喜々として戦ってるな。バトルジャンキーていうやつか?
レベルがあがるかどうかは、もう少しやってもらってからだな。確か俺の前のレベルが32だったはず。どれどれ、
レベル32 ヒナガ ヒサオ
称 号 通じるもの。
アイテム エーラムの布服。携帯電話。
ステータス 2流交渉人
ス キ ル 真通訳、解読、極鑑定、交渉術 通話 等
着ているものが変わったか。それ以外は変化なしだな。
通話スキルは未だに気になるから、これもちょっと実験しないとな。
あと《真通訳》これ、何だろう? どう変わったんだ?
あと《極鑑定》は、たぶん物品鑑定が詳しくなったんだと思う。生物系はなんにも変化なかった。
「お、いたいた。マッドナイト」
なんか聞いたことない名前だなと、俺も見てみると、
「アンデット?」
イルマが喜々として戦おうとしているのは、古ぼけた全身鎧と錆びた剣をもった、元人間。
まあ、ゾンビが武装しているっていえばわかるか?
「しっていたか。この辺で死んだ奴の成れの果てってやつよ。よし《『光よ! わが身を使え!』」
今度は光属性か。小手の光沢がました。それで、ドカドカ殴ってるけど、そのたびに拳が光ってる。
「もしかして、光属性の攻撃ってアンデットに有効?」
「あ? それも知ってたか。まあ、補足する――っと!」
説明しようとして、切られるところだった。
あぶねぇなこいつ。調子に乗りやすいタイプだろ。
「補足すると、光属性でしかとどめさせねぇんだよ! っとよし、これでおしまい」
「え?」
「あ? どした?」
「アンデットって光属性でしか止めさせないの?」
「ああ。そうだぜ」
「火は?」
「火か……あれは、肉を焼いて落とすけど、骨がのこっちまう。結局ゾンビがスケルトンに変化するだけで、あんまり意味ねぇぞ」
「マジか……」
意外な事実だった。
ゾンビの肉がこそげおちたのがスケルトンだったのか。知らなかった。
「まあ、骨まで消し炭にできるような攻撃手段あるなら別だがな」
「なるほど…」
雑学程度に覚えておくか。どれ俺のステータスはっと、
レベル33 ヒナガ ヒサオ
称 号 通じるもの。
アイテム エーラムの布服。携帯電話。
ステータス 2流交渉人
ス キ ル 真通訳、解読、極鑑定、交渉術 通話 等
ん? お、1つ上がったか。
これは俺とイルマがPT組んでいるっていう認識でいいのか?
俺は何も手出してないいから、たぶんそれであっているんだろう。
よし、これの実験はおわった。
次は、通訳がどうかわったのか調べてみるか。
「おい」
思考をさえぎってイルマが話かけてきた。
「ん? なんだよ?」
「なんだよじゃねぇよ。そろそろ夕方だ。腹減っちまった」
「あー そうだった。昼飯は軽いもので済ませたから腹減ったね。もどろうか」
タイミング的にもちょうどいいし、戻るか。
しかし昼から夕方までレベル重視で狩りして1個しかあがらないのか。戦う相手によるんだろうけど、レベルがあがるとやっぱり上げにくくなるんだな。
これはあげするの、しんどそうだな…もうちょい方法考えよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夕飯になってちょっとびっくり。
ワカメスープがでてきたよ、みなさん!
「ふう、これはいい」
フェルマンさんがくつろぐように、ワカメスープを口にしている。
具材はワカメとネギとごま油? と出汁はたぶんカツオ? だと思うけど、おれそこまで味覚に自信ないから、よくわからん。
「うめぇけどパンとあんまり合わないな」
イルマが愚痴こぼす。まあ、俺も同感だけどな。
「確かに。だが、これは単品料理としていいものだ」
「それは俺もおもうぜ」
なんてことを言う2人に俺はちょっと、イラってきた。
「君たちは分かっていない!」
ダンとテーブルを叩き立ち上がった。店のみんなが俺へと視線をむけた。
やっちまったぜ!
「どうしたヒサオ?」
「なんだよ、また空気よまねぇで、泣き叫ぶつもりか? あぁ?」
「誰がいつ泣いたよ、この猫男」
「ね、ねこ!?」
猫はほっとくとして、
「ワカメスープってのは、油っぽい料理と合うんだよ。そこの鶏肉料理たべてから飲んでみろ!」
「お、おう?」
俺の気迫に押されたフェルマンさんが鶏肉料理に手をだした。鳥の丸焼きってやつだ。
もも肉をうまそうに食べてから、残っていたスープをゴクリ。
「!?」
一瞬手がとまったが、すぐに2口、3口とのんで、タンとテーブルに置いた。
「うまい! これはいけるぞ!」
「わかるか!」
「ああ。単品料理じゃない。これは合わせて初めて美味さがわかる料理だ!」
わかってくれたようだ。俺はうれしいぞ。
俺は常々おもっていた。
この世界の料理って合わない組み合わせ料理が多すぎる。
何かしらのスープと、パンとか、肉とか、野菜。
この繰り返しなんだけど、だいたいスープの味とその他の味があっていない。
なんで、そうなんだ? と前から不快だったんだ。
だけど、このワカメスープは違う。
胃に負担をかける油を薄めてくれる。
これなら、だいたいの油料理とあうはずだ。
「いけるじゃねぇか」
「イルマ、お前もわかってくれたか!」
「ああ、悔しいが、これはいける」
よしよし。
しかしこのスープ。出汁つかっているよな? いままでこういうスープなかったんだけど……あ。
料理食べてる人たちが、次々に鶏肉とワカメスープに手を付け始めだした。
「分かりやすい人たちだ」
誰も知らなかったのか。気付きそうなものなんだけどな~
「お客さん! アッシは感動しましたぜ!」
「え? な、なに?」
どこから声が?
「こっちッスよ、兄貴!」
下だった。
俺の下半身ぐらいの背丈のコブリンさんが下から声かけてきていた。
「あに……って、アグニスさんでしたっけ?」
「そッス! 名前覚えててくれたんスね! さすがポンズさんが認めてくれた人ッス!」
「え? あ、そうなの? 俺知らないけど?」
いつの間に認められた? あの人の名前、ここにくるまで知らなかったのに。
「見たところ兄貴は、料理に詳しいっすね?」
「いえ、まったく」
「そんな隠さなくてもいいんでスぜ?」
「ほんとだって。味噌汁だって作ったことないし」
本当のことをいったら、アグニスさんが、腕をくんで何かを思い出そうとし始めた。
何この人? いや、ゴブリンだけどさ。
「味噌汁? 味噌……おーい!」
「なんだい、あんた」
あんた? もう一人、同じような顔をしたゴブリンがエプロン姿でやってきた。
「こちらの兄貴が――あっと、兄貴すいやせん。コレ俺の女房で、ここのコックやらせてもらっているユリナっていいやス」
って、アグニスさんが奥さんのことを紹介すると、ユリナっていうゴブリンが俺に頭をさげてきた。
「初めまして。夕飯は楽しんでいただけましたか?」
「え? あ、はい。ワカメスープ飲んだの久しぶりでしたよ。油料理に合っていいですよね」
「……あんた、この人わかってるね」
「だろ! 人間なのに、すげぇだろ! それに、みろよ客の反応」
「!? ようやくわかってくれたんだね。よかった……」
「あ、あの?」
「あ、すいやせん兄貴。それでさっきいってた味噌汁なんスけど、おい」
「なんだい、あんた?」
「ほら、味噌汁だよ。たしか、レシピの中にあっただろ?」
「…! ああ、あったあった。名前だけで、解読できなかったやつ?」
「そうそう。兄貴がもしかして知っているかもしれねぇんだ。ちょっとレシピもってこい。教えてもらえるかもしれねぇぞ」
「あ、あんた。この人お客さんだろ? それは失礼ってもんじゃないかい?」
「……やべ、そうだった。またモーリスの旦那にしかられる」
これ夫婦漫才か? そうなのか? ここまでの会話の最中、だーれも口はさめなかったぞ。怒られると思ったのか、ソワソワして周囲をみている。
「あ、兄貴、このことはどうか……」
「俺はいいけど……というか、味噌汁がわかるの?」
たぶん、アレだろうな~とは察しているが、確認したかった。
「わかるというか、なんというか。昔ある人間が残していったレシピ本がありまして、それにのっていた一つなんスよ。名前だけしかわからなくて、内容が、色々未解読のままなんス」
「なるほど。ちなみに、そのレシピ本って『異世界料理百科』ってタイトルでは?」
「あたりッス! さすが兄貴!」
何が流石なのか分からないけど、ここにきて、またこれか。
というか、これは当然なのか? メグミっていう人は、魔王と親しかったらしいし。
「あんた……」
チョンチョンとアグニスさんの肩をたたくユリナさん。
アッ! ……うん。
俺知らね。
「なんだよ、今……」
ふりかえり奥さんに何かいおうとしたその口が止まった。
そこには、宿のおっかなそうな親父さんがいてさ……
「モ、モーリスの旦那! これは違うんス! ちょっと料理のレパートリーをッスね」
「ガタガタ騒ぐな。こっちへこい。客人の前だ」
「……ヘイ」
その後、モーリスっていう鬼さんが、俺達に頭をさげて、2人のゴブリンをつれて食堂をでていった。
「なぁ。フェルマンの旦那。あの親父さんって、オーガだよな?」
「見たらわかるだろ? そうだ」
「……俺の知っているオーガと違いすぎて、わからなかったわ」
イルマとフェルマンさんが、席についたままヒソヒソと話をしている。なにげに仲がよくなってない?




